日本ユニシス バドミントン部 中條 彪 総監督
日本ユニシス バドミントン部
中條 彪総監督 インタビュー

日本バドミントン界で、トップクラスの強さを誇る日本ユニシス。早川賢一、数野健太、松友美佐紀、高橋沙也加など、王者たちを指揮する総監督のバドミントン哲学を尋ねると、一瞬の迷いもなく「勝つこと」という答えが返ってきた。
中條彪総監督、51歳。自身も中国代表のエリート選手だった彼は、日本一のチームをさらに強く、世界で戦えるレベルまで引き上げるべく、'94年にユニシス入り。以来、「バドミントン王国」中国のメソッドを効果的に取り入れた練習メニューを組み、男女両チームの戦力向上に貢献してきた。
それが結実し、昨年はユニシス史上2度目の日本リーグ男女アベックV。国内だけでなく国際大会でも4つの優勝を果たし、トータルで言えば創部以来最高と言えるシーズンを実現した。
これからは、2016年、20年のオリンピックでのメダルが至高目標となる。世界制覇を目指すチームの指揮官の荷は重いが、中條監督は終始穏やかな語り口。流ちょうな日本語で、常勝チームの秘訣、そしてバドミントンへの情熱を語ってくれた。

取材日:2014年4月25日

―日本ユニシスと言えば、日本バドミントン界の頂点ですよね。強さの秘訣を教えてください。
一番は団結力。チームに関係する、会社の人、スタッフ、選手が一致団結して、大きい目標を持って頑張っているところだと思います。
―選手は、どのように集めてくるのでしょうか。
スタッフたちと共にいろいろな大会に行き、有望で将来性がある選手をスカウトするように努力しています。
その選手が所属する学校の先生たちとも話をしますし、両親とも話もします。もちろん海外へも行き、強い選手をチェックします。
―有望選手を見るポイントとは?
フィジカル面はもちろんですが、バドミントンに対するフィーリング、感覚。センスも重要。
―頭が良くないとできないスポーツというイメージがあります。
本当にその通りです。
―バドミントンは、日本の子供たち、特に女子はみんな、遊びでやったことがあるものですが、
一流の選手になるにはどのような練習が効果的と考えますか?
走ったり飛んだり、ステップと、スポーツは何でも必要とされる基本の能力はほぼ同じだと思いますが、バドミントンはその中でも非常に要求が高いスポーツ。
ジャンプ1つとってみても、ただ高いだけではダメで、そのタイミングや瞬間でのスピードが重要。そういう部分の1つ、1つに対応できる練習をします。
世界を目指している選手たちは、まず体作りが大切。いくら感覚が良くても、スピードがあっても、まず体が出来ていないと世界では通用しないと思います。
体が強いことが基本で、それが出来た上で技術やスピードが向上するような練習をしていくのが大切。
―とても消耗する、激しいスポーツでもありますよね。スタミナを高める練習はどのように?
長距離、短距離、瞬発力を高める練習と、いろいろな練習メニューがたくさんありますが、各選手の状況に合わせてメニューを作ることが大切です。
―筋トレなども?
もちろん。そうでないと、怪我をしてしまいます。私のチームでもいくらフィジカルを鍛えても怪我人は出てしまいますが…。
選手たちに毎日限界まで、挑戦するように求めていますから。
―監督自身のオリジナルな練習メニューなどはありますか?
私が最初にこのチームに来た当時は、日本のレベルはそこまで高くありませんでした。なので、中国で行われている専門のステップ練習などを教えたりしました。
今は、バドミントンに一番必要な筋肉、持久力を鍛える中国のメソッドと、日本人の真面目さ、両方を統合して作り上げるようにしています。
今の監督、コーチもほとんどが、私が昔教えてきた選手達なので皆その方法を把握しています。
―練習メニューはいくつぐらい?
一日の練習はウォームアップを除いて、3~4つ。3時間半の練習を毎日。1日練習の日もあります。休みは週1日程度あるかないか。
金曜日はたいてい1日練習になり、日曜日は基本休みですが、だいたい大会があります。
―監督ご自身、バドミントン王国である中国の代表チームでプレイした名選手でした。
中国バドミントンと、日本バドミントンの違いを感じますか?
日本選手は凄く真面目で一生懸命練習をします。しかし、中国の選手はもともとの条件面――身長とか運動神経とかが、日本よりレベルが高いと思います。
なぜならもとから、スポーツにおいてのエリート中のエリートを選んでくるから。でも、バドミントンのいいところは、そういった条件だけでは勝負が決まらないところ。もちろん努力、そしてその日の体調、環境、精神面などいろいろな資質が問われます。…総合的なスポーツなので。
―身長の高いのはやはり有利ですよね?
もちろん、身長が高く、スピードと力があるのは有利になると思います。
―ここ近年のユニシス・バドミントン・スタイルとは?
ユニシスチームでは、インドネシア出身のコーチもいますし、中国からのコーチもいます、私自身も中国からですし…それぞれの国のいいところを吸収しています、もちろん日本のいいところも。すべてのいいところを合わせて作ったチームです。
ユニシスチームが優れているのは「チーム力、団結力」。いろいろな条件が揃わないと勝てない、このバドミントン競技で、選手とスタッフの目標が一致し、皆がそれに向かってやることが大切ですし、試合前の準備なども様々な条件があります…このチームでは、そういうことが共通の認識の中でうまくやれていると思います。
―監督ご自身の戦略、作戦などを、可能な範囲で教えて頂けるでしょうか?
バドミントンの勝負は、作戦ではなくて、まずは相手と自分の両方を理解して、その中で考えながら相手の弱いところをついていく、自分のいいところを発揮できるようにする、そういうことが重要です。練習の時も同じ。「この人はスマッシュがいいから」といってスマッシュだけやらせるのではなく、レシーブや他の技術など常に課題を与えて、いつでも相手と自分の変化に対応できる練習をさせるように心掛けています。
―とても奥が深い、知的なスポーツなのですね。監督が考える、バドミントンの面白さ、醍醐味は何でしょうか。
やはり駆け引きです。この選手はこういうところがうまい、賢いなどを見ながら。バドミントンの表現は、ただ羽を打つだけではないのです。ラケットワーク、体力、知恵…全身で表現しているスポーツ。打ち方も、フェイントをし、相手を常にだますスポーツですね。まずは相手を理解し、相手の嫌なところをついていく。これがバドミントンではないでしょうか。
―監督のバドミントンに対する、熱い情熱を感じます。監督ご自身の人生にとって、バドミントンとは?
私の人生の一部です。大事なもの。バドミントンしかやってきていない人生ですしね(笑)。
幸せを感じるのは、自分の好きなバドミントンを、仕事としてできていること。会社にはとても感謝しています。
―監督がバドミントンを始めるきっかけとは、何だったのでしょう?
学校の部活。バスケとか、いろいろな部活に入っていましたけど、バドミントンが面白いなと思って。最終的には、バドミントンのとりこになりました。
―辞めたいと思ったことは一度もない??
それはもちろんあります。(笑)。いろんなことがあったし。失敗も、挫折もあったけど、乗り越えてここまで来ました。
―男子、女子、両方を見ておられるわけですが、指導上気をつけていることは?
強要するのではなく、きちんと説明することです。その選手に合ったスタイル、練習法ということかな。
この人はこういう話をすれば受け入れるとか、この人はもう少し強く言わなければダメとか、そういうことも、普段観察して見極めるように心がけています。男子と女子の違いはもちろんありますし。
―怖い監督ですか、それとも優しい監督…。
(笑)、私は普通だと思います。昔、自身がいろいろな指導者に教えてもらい、それぞれのいいところと悪いところを見ながら、「自分が指導者になったらこういう形にしたいな」というのがありました。今はそれを目指しているところ。
―監督の「バドミントン哲学」とは?
「勝つ」こと。やっぱり。
―負けたら面白くない!
(笑)そう。勝ったらいろいろなことができるようになるし、つながっていきます。
―全国の指導者の方々、選手へのアドバイスをお願いします。
まずは目標を立てないといけないですね。その目標に合わせて練習方法を作ります。たとえば、高校生のレベルなら、このくらいの体力、スピード、粘り…などを考えながら。条件を揃えてから初めて、勝ち負けが出てくる。試合前の準備が凄く大事です。
選手は、まずは指導者を信頼し、指示されたことをしっかり頑張らないと。それと同時に、プレイの中では自分の考えも出していけるように。指導者と選手は、まずは目標を一つにしないといけませんね。選手の立場からは、「指導者の言うことは、すべて自分のために言ってくれている」と思われないと、うまくいかない。信頼関係が大事です。「私をいじめるために、疲れさせるために、わざとコーチはこうやっている」とか思い出すと、だめ(笑)。「勝つために、私のためにこういうメニューを作ってくれている」ということを理解すれば、良い結果に繋がると思います。
―日本一のチーム、そして世界で戦える常勝チームを指揮するのには、ストレスもたまると思います。解消法は?
たまには、部下や選手と飲みに行ったり、大会の次の日など休みの日には、みんなでゴルフに行ったりします。息抜きがないとね。
―昨年はいつにも増して素晴らしい成績でした。今後の目標は?
去年は、会社の理解と協力、ファンの皆さんの応援のおかげで、素晴らしい結果を残せました。今年は、2013年以上の結果、それを上回ることを目標にしています。
去年はほんとに、これ以上ない、創部以来最高の成績を残せたから…。
―日本完全Vの去年を上回ると言うと、あとは世界ですよね!
そうですね。日本のタイトルはほとんど取っているので、これからは2016年のオリンピック…。あとは、特に私が責任を感じているのは、20年の東京オリンピック。
今いる選手たちは、東京オリンピック出場への可能性は凄く高いですから。今19歳の奥原選手とか…男子は、金子、井上選手なども。2年前の世界ジュニアを優勝したメンバーだから、そのまま持っていけば、オリンピックのメダルも夢ではない。
16年のリオは、現状、日本一の選手たちが揃っていると思います。もちろん、メダル獲得は狙えるはずです。これからは国際大会、世界での活躍を目指します!!

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