東福岡高校 男子バレーボール部
藤元 聡一監督 インタビュー

「『魂のバレーボール』をしたいんだ」―――熱い言葉に、思わず目が止まる。どんな人の口から発せられたのか―――文頭に戻ると、なるほど、「高校バレー界で最も熱い監督」として名を馳せるこの人の名前があった。
藤元聡一、東福岡高校バレーボール部をいっきに全国区へ押し上げたと称賛される若獅子。2008年にはインターハイ初出場でいきなり3位。09年インターハイでも2年連続3位となり、同年「春高バレー」では出場2度目で準優勝、粘りのバレーが全国に感動を巻き起こした。11年インターハイでは遂に準優勝まで上り詰め、全九州選抜では昨年度で怒涛の4連覇と、今や西日本屈指の強豪校に育て上げてきたのである。
「日本一」を目指し、藤元監督は日々、檄を飛ばし続ける。部員たちに望むのは、「日本一のバレーボール選手」ではなく、「バレーができる日本一の人間」。溢れ出てくる熱い思いには、周囲の人間も心を揺さぶられる―――。

取材日:2014年4月14日

―監督ご自身も選手だったのですよね?
はい。7歳のときから大学4年までプレイしていました。
―その間に辞めたいと思ったことは一度もなかったのでしょうか。
そうですね…しんどいこともありましたが。
―「魂のバレーボール」を目指していると書いておられました。監督のバレーボールに対する思いをお聞かせください。
僕自身が、バレーを通じていろいろな出会いもあり、心身ともに成長していく上で常にバレーというものがあったんです。
自分が社会に貢献できるものはこれしかないというような思いでした。
―バレーボール無しの人生は考えられないと。
そうですね。ずっとバレーに助けてもらってきました。
―バレーボールの醍醐味って何でしょうか?
バレーボールって難しいんですよね。遊びではできませんから。子供のころは、フェイク・ボールとプラスチック・バットで野球もサッカーもできるけど、バレーボールってそれでは続かないんですよ。キープする時間がなくて、ワンタッチで次の人に渡すので…一人でもできませんし。
野球のホームランとか、サッカーの全員抜いて一人で決めるとかいうように、一人で点を入れることもできません。必ず、その思いを、次の人に『上げやすいように』、『打ちやすいように』って託していかないと、点が取れないスポーツなんですね。素人でも分かるんですよ、思いのこもったパスだな、とか、ていねいにしようとしてるなというのは…全身を使って、次の人に柔らかいボールを、上げやすいように、打ちやすいように…思いの伝わり方が、次の人を奮い立たすこともあるんです。うまい、下手は関係なく、思いが伝われば次の人が本気になれます。それによって、実力的にはそんなになくても、思いの強さで勝ってしまうことがあります、バレーというのはね。
―そういう意味では、究極のチームスポーツと言えるのでしょうね。
お互いの思いやりが大事…メンタルが大事なスポーツ。
だと思います。特に20点以降などというのは、それが8~9割を占めるのではないでしょうか。
―指導上でも、精神面を鍛えることを重視していますか?
そうですね。日頃の生活から人に思いを伝える、託すという言動を取っていかないと、いざコートの中だけやっていたって信頼もないし絆も生まれてきません。バレーの実力も日本一を目指すし、取り組み方も日本一を目指してやっています。人間が良かったら、できます。「一流バレーボール・プレーヤー」ではなく、「バレーができる立派な人間」を作っていけば、思いが伝わるプレーヤーになれるのかなって思っています。
―監督が就任なさってから、特に強くなったと言われています。
具体的な練習メニューでは、どの部分を重視しておられますか?
やはりパスですね。1本目、2本目の部分を大事にしています。3本目のスパイクっていうのは、それぞれの能力があって、70点のスパイカーもいれば90点も、60点もいますし…でも、なかなか、90点、100点のスパイカーっていうのはいないですが。でも、70点のスパイカーしかいなくても、1本目がちゃんと2本目の人が上げやすいように、2本目が3本目の人が打ちやすいようにしてあげると、常に70点満点で打てるんです。1本目がちょっと思いやりがなければ2本目が苦労して、2本目が苦労すると3本目が70点満点のスパイカーに60点や50点で打たせることになってしまう。常に70点満点で打てれば、かなりの確率で勝つことができます。いくら90点のブロッカーがいても、それが毎回揃うかと言えば、スパイカーも3人も4人もいるし、90点のブロッカーを60点くらいにする工夫をして、70点満点でいければ…。
―理想のスタイルは?
スパイカーが70点なら70点満点、80点なら80点、90点満点なら90点の力が発揮できるところに、常に3本目のボールがいくことですね。
ピンポイントなんですよね、スパイカーがその満点の力を出せるスポットって、ほんとにピンポン玉1個くらいのところしかないんです。
―ピンポン玉1個!難しいですね…
そうです。だから、そのピンポン玉が5か所、6か所ある子っていうのはやはり、100点スパイカーに近いんだと思います。能力が高いと、そのピンポン玉をたくさん持ってて、その「辺」に上げておけば決めてくれるというのが、100点に近いスパイカー。
点数が低いスパイカーというのはもう、ピンポイントしかないから、そのピンポイントにいかにきちんと持っていくか。そうするとやはり1本目が大事になってきます。
―精度が要求されるんですね…。ところで、高校生を指導する上で、心がけていることなどはありますか?
部活動なので、まずは教育ありき。取り組み方というのが非常に大事です。「バレーもできる人間的完成」を目的としています。「目標」は日本一だけれど、目的は人間的完成。なので、不定期ですが、部でも道徳を教えたりしているんですよ。
高校ではもう道徳の授業はありませんから。バレーボールとかけ離れていることではなくて、思いをどれだけ託せるかとか、逆に、応援してる子たちの思いをどれだけ、試合に出てる子たちが汲んで、託され、託していくかということにもつながります…。だから、コートの外のほうが多いかなあ、僕がやかましく言うのは(笑)。
―コミュニケーションを取るタイプの監督なのでしょうか。
取るほうじゃないと思いますね(笑)。
―では、態度で示していくほう?
僕はもう、きつく言いますけどね(笑)。
―あ、そうなんですね、じゃあ割と怖い監督(笑)。
ははは、どうかな(笑)。最初は、あまり説明はしないんです。技術的なことに関しては理屈を言うこともあるけど…。頭では理解しているけど、納得できてないこと、要は本人たちにとっては理不尽なことでも、飲み込む力というのが一番大事だと思うんですね、これから社会に出ていく上で。例えば、髪型ひとつ取っても、いけないものはいけないと。それを、「はい」と素直に受け入れるという度量を作っていかないといけません。今の子は、「何でダメなの?」と思っちゃうんですね。
―なるほど…。
でないと、将来が心配ですから。だんだん、2年、3年になってくると、理屈が分かって来ます。こちらと同じ側の思いになってきて、自分たちで掟を作っていく。
血と汗と涙の練習の中で、3年生が分かって来て、そして1年生に、その理屈まで教えていくようになります。1年生は最初、訳分からんと思いますよ。2、3年になってくると、ようやく先輩が言っていたことが分かってくるんです。
―日頃の練習は、基本休み無しなんですよね?
そうですね。毎日放課後、4時間半。朝は遠方の子が多いのでやっていません。
―先生独特のメニューなどはありますか?
基本のものばかりやっているから、独特のものはないと思いますね。東福岡での基本をまずしっかりしないと、コートには立てません。
―東福岡での基本…
守備に関してのことが多いです。柔らかいボールをもぐる、ハーフボールを走る…。
もぐる、走る、倒れる、というのを、託し方が全部決まっていますから、それを反復して繰り返します。
―全国の指導者の方々へアドバイスなどをお願いします。
いやいや、まだ駆け出しですから。そんな大それたことはできないのだけれど…。自分が理解し、納得したものをやればいいのではと思います、お若い監督さんでしたら…。いいものは自分に合えば取り入れて、合わなければまた工夫していけばいいし。何よりも「死んでも勝つ」というような情熱があれば、上り方はいっぱいあると思うので…。
情熱が大優先。それさえあれば、上り方は自分に合ったのを見つければ、ちょっとずつ目標に近づいていくのでは。あくまでも、僕よりも年下の先生方に向けての話ですよ(笑)、「アドバイス」というものではないです。
―競技者へは。
うまくなりたい、強くなりたいという情熱と、いろんなモノを受け入れる素直さ。これもまた上り方はたくさんあるので、この二つが第一です。

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