東京北砂リトル 久保 洋一総監督/清水 久幸事務局長

(左)清水 久幸 事務局長
(右)久保 洋一 総監督

東京北砂リトル
久保 洋一総監督
清水 久幸事務局長 インタビュー

「ベースボール」発祥の地、アメリカで、大人たちが毎夏もっとも夢中になる野球大会―――それが、「リトルリーグ世界選手権」だ。この時期はもちろん、大リーグの試合も各地で行われているのだが、その比ではない人気を誇るのは、やはり少年たちの全力プレイのけなげさに、大人たちは自分がどこかに置いてきてしまった大切なものを見る思いで、胸を打たれるからだろう。
そんな大きな大会で、実は日本のリトルはこれまで9度の優勝を誇る強豪国だ。特に2012年、13年は連覇を果たし、本家本元のアメリカを悔しがらせてもいる。
その12年に世界一となった東京北砂リトルは、01年にも優勝、07年には準優勝と、まさに日本を代表するトップ・チーム。「世界一リトル」を率いるのはどんなスパルタ指導者たちなのかと思いきや、久保総監督も清水局長もとても温厚で優しそうな、シニア紳士たちだ。指導上の体罰も一切禁止、一軍も二軍も皆同じ練習という人情派システムながら、世界一のチームを作り上げてきた、その秘訣とは何なのか――――選手、指導者、スタッフ、親の4つどもえ、「四考一心」を掲げてここまで来たというお二人の、子供たちを見つめる目には限りない愛情がこもっている―――。

取材日:2014年4月29日

<以下、久保 洋一 総監督インタビュー>

―まずは、世界一チームを率いる監督の指導理念を教えてください。
守備をまず先に考えて、打てなくてもいいよ、守れなくても、走れればいいよって言う。要するに、このリトルリーグという狭い野球場の中で、まずスピードを考える。最初に監督になったときに、まずそれを念頭に置いて育成していこうと決めた。それが今は伝統となっていて、「北砂ってよく走るよね」とみんなに言われるよ。今年のチームも凄く走りますよ。
―やはりスモールボールですか。
そうですね。走って走って。
―「審判から見て嫌なスタイル」を目指すともおっしゃっていました。その発想が面白いですよね。
今年のチームはとても有望だとも。
うん。今年のチームも良く走る。先発9人の中で、走れないのは1人くらい、あとは全員走るね。
―それは心強いですよね。
うん、やはり、走れるということは、チームの得点が3点から5点は違うから。それだけ得点力がアップする。
―やはり、ランニング練習にも力を入れているのでしょうか。
入れてるよ。まず冬場はめちゃ走るし、普段の練習のときでもまず走りから始まる。あとは、最近はどのスポーツでも、プロアマを問わず、体幹トレーニングが注目されてるでしょ?うちもその体幹ストレッチをいち早く取り入れた。アップにもダウンにも、全部入れている。
―へえ…。リトルでも体幹トレーニングとは、興味深いですね。どなたが受け持って?
杉山コーチ。体幹が鍛えられて完成すると、球も速くなるしスイングも鋭くなる。今はどんな競技でも体幹やってるよ。うちも、もう2011年ごろから。だから、(12年の)世界大会で優勝した連中は既にやっていたんだよね。
―リトルとは言え、大人と変わらない練習をやっているのですね。
そう…。でも、そうかといってクラブチームだから、プロじゃないから、練習は上から下まで全部同じ練習なんだ。うちは、先発の子たちをファースト9、控えの子たちをセカンド9って呼んでるんだけど、例えばこういう打撃練習でも、時間配分の違いはあるにせよ、どんなクラスの子たちにもすべて同じ練習をやらせてる。
―普通は、レギュラーの子たちと控えの子たちの練習内容が違うところが多いですよね…。
うちの特色のもう1つはね、例えば練習試合でも、普通に1チーム同士でやるときには、普段試合に出られない子たちが戦う試合を、間に必ず1つは入れてあげるんだ。
レギュラー優先的な考えは持ってはいるが、対等に同じチャンスは与えようということでね。だから逆に、メンバーの入れ替えは結構激しくやる。
―セカンド9からファースト9に昇格する子もいるわけですよね。
もちろん。逆に、故障とかしている間に下がってて、その後もなかなか上がってこれなくなっちゃう子もいるし…。
―指導上気をつけていることは?
対話。それも、上から目線じゃなくて。若い監督コーチにも言うんだけど、子供たちが使ってるような、今流の「超」とか「マジ」とか、そういう言葉を覚えなさいよって(笑)。
それを、対話の中にいれてあげなよって。やっぱ、もうね、コミュニケーション以外には何もないんだ。
―怒鳴ったりすることも?怖いときは怖いのではないですか?(笑)
そりゃーそうだよ(笑)。この子たちはね、僕が本気で怒ってる時が分かるの。普通はね、名前で呼ぶんだ。太郎とか、篤人とか。でも、ほんとに怒るときは、名字でバーッ!と怒るから。そうすると、「ああ監督、怒ってるな」って分かるの。みんなびりっ!!としてるよ。
―やはり、メリハリが大事なんでしょうね。
そう。それをつけてあげないとね。
―やはり今季の目標は「世界」ですか。
もちろん。今、うちは幸いなことに、監督、コーチは全員世界大会体験者ばかりだから、その素晴らしさを知ってるんだ。僕はもう3回行ったが、彼らは2回目を目指して、子供たち以上に頑張っている。
―強いチームを作る秘訣とは何でしょうか。
やはり選手だよ。選手が、名監督や大監督を作ってくれるんだ。決して、指導者が作るわけじゃない。やはり選手がその気になってくれないと。まあ、その気にさせることが、素晴らしい監督がいないとできないんだけどね。子供たちがその気になるかならないか、それだけなんだ。
―伸びる子を見極めるポイントは?
取り組む姿勢だね。見てると、同じ練習はしていても、伸びる子は取り組む姿勢が全然違う。
―持ち前の運動能力があまりなくても、取り組む姿勢で伸びていく子も。
それはやはり、運動能力の個人差はあるけれど、あとは取り組む姿勢。姿勢が素晴らしい子が、5人いればいい。9人中に5人、取り組む姿勢と「勝つんだ」って気持ちの強い子を見つけられれば。5人を育成できれば、チームの柱になってくれる。あとは、今の監督、コーチもそうだけど、今、チームに例えば25人いるとする。そうすると5/25、その5人に、気持ちも実技もすべて近づこうと努力することがチームワークだという、伝統的な育成方法がここにはある。この子たちもそれを知っているんだ。それからもう1つは、叱られるのは、基本、機動力のベースランニングだけということ。あとは、三振しようがエラーしようがそれはもう、叱ることじゃない。叱られるのは、ベースランニングを怠ったり、全力疾走を怠ったり、スコアブックに書けない、「お前、これはチョンボって書くのか?」ていうようなプレイ。手を抜いたり、気を抜いたりの。そういうの以外は、スコアブックに三振も、エラーも、書けるものだからね、それは叱らないよって。選手と監督、お互いの努力が足らないだけだから。それも、この子たちはちゃんと知ってる。「うちで叱られるのは何?」って聞くと、「ベースランニングの手抜きです」ってちゃんと答えられる。
―素晴らしいですよね。普通はエラーしたら叱られちゃうのかな、って思いますが…。
でも、エラーだって、したくてするわけではないですもんね。
そうだよ。あとは、うちがもう1つ大事にしているのは、イージープレイを大切にということ。フライは、とりあえず取れば、フライアウトでしょと。
だから、フライで落球はだめだよ、前にポトンと落とすのはだめって。「フライは?」って子供たちに聞くと、「アウトです」って。フライは打つのもダメだし。
―監督ご自身も野球をやっていた?
僕はね、恥ずかしながら、本格的に野球をやったことはないんだ。中学に入ったとき、見たこともないスポーツに出会っちゃって。僕の時代はまだ、「籠球」と呼んだんだけどね。
それから大学までずっとバスケ。ずっとバスケを追っかけ、のめりこんだ。当時、バスケに入ってからは野球のやの字もなかったよ(笑)。
―そうなんですね。そんな監督が考える、野球の面白さとは?
それはもう、打った、打たない、エラーした、みたいな、一喜一憂が、一番楽しいんじゃないのかな。
―選手や指導者へ、監督のアドバイスをお願いします。
今年は、選手は日々、進化しなさいよと。監督やコーチには、融和を大事にしなさいってこと。
そしてお父さん、お母さんたちには、子供たちから感動をもらいなさい。進化、融和、感動が、我々の目標。

以下、清水 久幸 事務局長インタビュー

―今年のチームの感触を教えてください。
今、メジャーとして30人近く。よそのチームと違って、うちはエースが一人ではないんです。エース格の子が4人も5人もいるから変えられる。よそはいても2人だから、ちょっと延長になったりすると、もう試合にならない。今年もだから、ほとんどの試合をコールドで勝っているという、圧倒的な強さなんですよ。2012年とはまた違うイメージ。全部で60人ですが、世界大会に行ける子は14人。
―楽しみですね。普段はこちらの専用グラウンドで練習と聞いていますが、合宿練習なども?
毎年春先に、春休みを使ってカリフォルニアに行く。うちの唯一の遠征。ことしは3月25日から4月の3日で行ってきました。
―東京北砂の持ち味は、足が速くて良い投手もたくさんいるということ。パワー・ヒッターは?
いますよ。3人ほど。楽しみだね。やはり、2012年とはちょっと違う。12年は清宮くんや逢坂くんが目立っていた。その子たちがちょっと違ったんですね…。周りをまとめる、陰のキャプテンだったというのが、普通の子とは違った。今回は、みんな仲良しで、まとまって、俺が打てるんだからお前も打てるようにというような、雰囲気がいい。今年は珍しく、投打、走る、全部揃っているチーム。だから逆に、スタッフが心配してるのは、足元取られないようにしようと。教えるスタッフがしっかりしてないとね。
―伸びる子のポイントとは?
親があまり構わない子(笑)。放ったらかしにされている子がいい。構うんだったら、とことん一緒に、キャッチボールでもやってくれる親とか…。中途半端が一番良くない。
―名門、東京北砂リトルの強さの秘訣とは何でしょう。
うちが一番違うのはでも、ハートの強さ。野球ってのは、ある程度やればうまくなる。でも、最後の5分はね、ハート。その辺は、久保監督も新しい若監督もかなり厳しくやる。特に今の子は、ひとりとかふたりとかで親が甘やかしているからね。ここではかなり厳しく。バットでおなかをポーン!とやったりもするよ。「どうして自分をもっと出さないんだ!攻めて来い!」なんてね。「待ってたんじゃ何もできない!」って。アピールできない子は使わない。親が文句を言うのもダメね。「うちの子は、打つのも投げるのもうまいのに何で使わない?」とか…。「打つ、投げる、走る、取るの、次の5本目がないでしょ、お宅の子には。ハートがないから使えないんだ」って、僕ははっきり言いますよ。入部するときも、全部私が親子面接する。両親のスポーツに対する情熱、考え方などを聞き取り調査するんだ(笑)。
その分、指導者たちにも大変な要求をしていると思う。子供たちがうまくならないのは、指導者が悪いと思っているから。親子でこのグランドに来たくなるような指導をしろと。
―指導者たちが心がけていることとは?
まず、ティーボールでは、「野球は楽しいんだよ」ということを教える。マイナーになったら、ルールをきちっと教えるのと基本を。そしてその集大成をメジャーで。基本+勝たなきゃ面白くないよと。
今度は、「勝利にこだわる野球」を教えていくんだね。それと、暴力はだめとは言ってないの。しつけに関しては、手を出してもいいと言ってある。だけど、「指導上」ではダメ。野球でできないことがあるから、ここへ来ているんだから。指導上の暴力は、僕は絶対許さない。でも、しつけに関しては、今は親がやらないからね、うちに預けられらたからには、きちんとやる。言って分からなかったら、2回目はひっぱたかれるよと。見てもらえば分かると思うけど、このグラウンドにはゴミは無いでしょ。僕がここへ来た時にはゴミだらけだった。「これじゃあ日本一にはなれない」、まず環境をちゃんとしようと。たまたま01年、世界一になってちょっとお金が余ったので、グラウンドを少し整備できた。ブルーの球場なんて、ないでしょ、当時中日くらい?みんなモスグリーンが多い。このブルーのバックネットは、これだけで60万もするんだよ。見やすいからと、僕が勝手にブルーにしたんだ。卒業生の親のプレゼントなんです。
―子供たちもゴミ拾い?
やりますよ。大人もやる。はっぱとか石とかも。みんな、言えばできるんだ。夕方帰る前にお菓子をあげるんだけど、もし帰りにそのゴミを落として行ったりしたら、そこから1か月間はあげない(笑)。
親が悪い。普段から家でやってないから、できないんだから。親も教育する。年にひとり、ふたりは、親たちも凄くお利口になって卒業してくれる。そして、地域に口こんでくれるから(笑)。
「北砂に行ったら、いろいろなことが身に付くよ」って。だから、うちは常に60人くらい部員がいるんだ。
―練習は一日中?
はい。朝8時から夕方5時くらいまで…。午前中は、アップを1時間くらい、そのあと内野の守備、ノック。守備のフォーメーション。午後は打撃がメイン。
走者を想定して走らせたりね。28人いるから。2つに分けて、片方が守ってるときは片方が打つ。なるべく全員、同じ練習をやらせてあげようとしてる。
―子供たちに自信を持たせることが大事ですよね。
その通り。だから僕は、Bの子たち(控え組)にいつも言うんだ。「君たちはどこも悪くない。ただ、一生懸命さが足りないだけなんだ」ってね。「取ることも打つこともできてるじゃない。ただ、まだ本番でできないでしょ、それは、普段の練習を手抜きしてるからだよ」って。だから僕はたまに、バッティングケージにも行って、見ている。ケージではいっぺんに4人が打てるんだけど、遊んでる子は遊んでるから、そういう子には怒鳴る。「何考えてるんだ!」って。それを分かってる子は、僕がそっちに歩いていくと、びびって真剣にやり始める(笑)。
―局長ご自身、野球は?
55歳まで現役でやってたよ。でも、足を怪我してしまってね。そしてやめた。
子供のころは、親父がグローブやバットを手作りしてくれたんだ。熊本では、野球ができない人は馬鹿だと言われたくらい。めんこで肩も強くなった(笑)。セカンドとキャッチャーをやっていました。
―野球の面白さはどこにあると考えますか?
リトルでは、距離が短いからスピード感があるところが面白い。プロなんかもう見れないよ(笑)。子供たちは、驚くくらい出来るしね。前田健太(広島東洋カープ)が驚いてたんだ。13年の正月特番で、前田健太とうちの子たちと勝負したんだ、そしたら、清宮とかに打たれてね。うちが7-6で勝った。うちの子たちは速い球も何とも思ってないよ。ベース間が大人より4m以上短い中で、110kmくらいの球を打つんだから、体感速度は150kmくらいもある。
―150kmと言えば、大リーグのレベルですよね!今の北砂では、最速ではそのくらいを投げる投手がいるのですか?
115kmくらい投げるよ。左も一人いるし。こないだピッチャー返しをくらって、怪我しちゃったけど…まだ1週間くらいだけど、でも来てるよもう。根性あるよやはり。そういう子でなければ、うちは務まらない。
―球種も?
最低でも4つはある。ストレート、スライドするカーブ、縦に落ちるカーブ、シュート。ほかに持ってる子もいる。
軟式と違うのは、リトルは球数制限があるから、体を壊さないんだ。最大85球まで。連投もだめ。1試合明けないといけない。完投したら、中2日。だからリトルでは肩を壊したりはしない。外から入ってくる子だと、壊してから入ってくる子もいるから、そういう投手には3か月間は休ませる。打たせはするけど、投げさせない。
清宮くんも、うちに来た時は小3だったけど、もう肩を壊してた。うちでは結局、打者として起用して、投手としては育てなかった。
―体のケアもきちんとしているんですね。
お父さん、お母さんにも言いますよ、マッサージしてあげてねと。それと、うちでは投げた子にはきちんとアイシングもさせるしね。
―指導者へのメッセージをください。
大事なお子さんを預かっているんだから、夢を持たせる指導をしてほしい。たとえば、うちに来て、ずっとやったけどレギュラーを取れなかったという子だっているけど、そういうときは、「うちでこれだけ一生懸命やれたんだ、この先必ずチャンスがあるから、あきらめないで、親子で夢を追いかけて」と夢の先行きを必ず言う。うちではAもBも同じ練習をするというのも、選手にとって大事なこと。
あと1つは、子供ひとりひとりの性格を早く覚えて指導してほしい。ちょっと大きい声を出しただけで、きゅっと縮んじゃう子だっている。そういう子にわーっと言っても無理だから。そういう子には優しく、野球の楽しさを教えてあげる。結構きつく言わないとダメな子もいるし。強弱をつけて。みんな同じ性格じゃない、それを見抜かないと、いい指導者にはなれない。相手の気持ち、性格を良く掌握した上で、指導する。頑張るような指導。縮んじゃうような指導はだめ。
言葉もね、気をつけないと。言葉って、響くんです。「お前なんか下手くそなんだからやめちまえ」とか言ったらだめなの。そうじゃなくて、「まだ頑張りが足りないよ」って。
選手たちには、「あきらめない」。自分で勝手に判断しないこと。「自分はこれだけ野球をやりたいんだ」ってことを常にアピールして、周りの友達にも絶対負けない!って気持ちを育てなさいと。その辺はしつこく言う。今の子は、さっきも言ったけど、5本目、ハートがない。
―子供たちへの愛情を感じます。
選手がいて、指導者がいて、私たちみたいな運営スタッフ、そしてお父さん、お母さんたち。この4つの柱がうまくまとまらないと、絶対夢をつかみに行けないよということで、「四考一心」という言葉を、僕が作ったの。「4つの考えを1つの心に」という意味です。4つのそれぞれの持ち場をちゃんとやれば、ちゃんとまとまってうまくいく。これを常に言っている。この言葉をここの理念に掲げてから、10年は超えたかな。

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