勝山高等学校 女子バドミントン部 小林 陽年監督
勝山高等学校 女子バドミントン部
小林 陽年(こばやし はるとし)監督

元来バドミントンが盛んな地域であるという勝山。
県立勝山高校も、女子、男子共にインターハイの常連という強豪校である。
その名門を率いて11年の小林陽年監督は、自身も勝山高校出身の元プレーヤー。だが、現役時代はもっぱらチームのムードメーカー役、縁の下の力持ちだったというだけに、日の目を浴びない部員たちへの気配りも忘れない、温かい青年指揮官だ。
昨年には、史上最年少で日本代表入りを果たしている超高校級選手、山口茜も入部。世界レベルのスーパー・プレーヤーを得て、今年のインターハイでは見事4強入り、次回はぜひ団体優勝へと、小林監督も腕の見せ所である。
平日は2時間のみの練習、「短い間に集中し、とにかくとことんバドミントンを楽しんで、勝つ」―――新時代の監督の、指導理念を聞いてみよう。

取材日:2014年8月29日

平成26年度インターハイ女子バドミントン団体3位
―インターハイの感想、良かった点、反省点などをお聞かせください。
そうですね、監督としてはやはり団体戦が一番なので、そこで強豪の埼玉栄を破っての3位入賞を果たすことが出来て。昨年と同様の順位だが、価値ある3位を取ったかなとホッとしている。
―名門を破った満足感はありますよね。
埼玉栄には、日本のU-19のメンバーが4人いるんです。
うちはまあ、山口茜がいますけど、U-19を4人擁するところに勝ったと言うのは非常に大きいかなと思っています。
―今後の課題などは見えましたか?
今現在の2年生4名が残るので、あと1年間はこの4人を中心に頑張れるかなと思うが、やはり3年生が抜けた穴を、残りの1,2年がどのように埋められるかが鍵になるかなというのが1つ。
あとは、周囲は皆、山口以外のところで勝つことを目指してくると思うので、彼女以外でどうポイントを上げるかということが課題になってくると思う。
―監督から見た山口茜選手について教えてください。
何が一番優れてるかというと、相手を見抜く力、観察する力が、とてつもなく強い。桁外れに強いので、相手の球回しをしっかりとラリーの中で読んで、後半はそれにきっちり対応できてくる。
今までの努力とかセンスとかもあると思うが、それ以上にあの子は試合の中での適応が早い。事前に研究は一切しない。分析はせず、その日の試合の中で、相手の球出しとか、相手のここが弱いとか、パターンとしてここに打ってくるとかいうのをしっかり把握して、勝負どころでは相手に絶対点数を取らせないバドミントンをします。
―勝山高校バドミントン部全体の、今年の感触は。
山口以外の主力3名も2年生なんです。団体戦でも、山口との第1ペアのパートナーも2年生だし、第2ペアも2年生で起用している。その山口を含めた4人が、試合あるごとに非常に力をつけているので、今後も期待できると思うのが1つ。
あとは、うちはまあ、練習時間が、強豪校に比べると圧倒的に少ない。平日は7時間までみっちりある、進学校なので…。
だいたい4時半に帰りの会が終わって、アップを始めるのが5時前、そして7時終了だから、2時間しか練習できないんです。その中で、短期集中型でしっかり練習するというのがうちの伝統としてある。
あとは、バドミントンが好きな子が集まっていて。他の強豪校に比べてガツガツやってくタイプではなくて、楽しみながら和気あいあいとやって強くなろうみたいな雰囲気なんです。
特に2年生はそういうのが強い。そんな伝統が今、着実に生まれて行っているのがいいのかなと思う。
―監督ご自身も選手だったのですよね。
はい。僕も勝山高校が母校なんです。
―現役時代も含めてバドミントンに長く関わってこられたわけですが、そんな監督の、バドミントンに対する思いとは…?
僕は38歳なので、現役時代は「水を飲むな」とか、そんなのの最後の時代。厳しい中で過ごしてきた。
それも精神面を鍛える上では非常に大事だが、強くなる上では、やはり楽しみながらやるのがより効果が上がるなと自分は感じている。だから、うちの部員たちにも、とにかくバドミントンをとことん楽しんでやっていこうというスタンスを貫いている。
――バドミントンの面白さとは。
一番は相手との駆け引き。一試合での疲労度も、トッププレーヤーになるとかなりあるし、勝つためにはやはり考える力がないとダメ。ただひたすら頑張って練習してても結局は体力的なものの影響が出てきたりもするし…。
まあ、最も自分が大事にしてるのは気持ちですね。追い込まれた時に、「勝たなくちゃいけない!」て思ってると、自分が練習してきたプレイが出来ないので、追い込まれた時にそこを楽しもうというか…。
そこをみんなで和気あいあい応援しながら、笑いながらコートの中に入っててほしいなあというのが、うちのスタイルなので。
―なかなか難しそう…。追い込まれたときって、つい焦っちゃいそうです。
そうですね、はい。でも今年のインターハイなんかでも、団体戦の勝負どころなんかは、ギャラリーにいる自分たちの応援団は真剣に力入れて応援してると思うが、自分も含めてベンチにいるメンバーは楽しみながらだった。そういう雰囲気が、一番勝ちにつながりやすいかなと思う。
―今までのお話を聞いていると、先生はあまり怖い監督ではなさそうですね(笑)。
はは、ただ、締めるところは締めてますよ(笑)。
特にうちは進学校なので、勉強もおろそかにしたらダメですし、授業もしっかり聞くことが大事ですし…。そういうふうに普段の生活をしっかりやることによって、学校の他の先生方とか他のクラスメートとかみんなが「バドミントン頑張れ」って応援してくれるんでね。そういう人間でいないとダメだという指導は徹底している。
―文武両道ですね。
ところで、先生の現役時代の思い出で、印象に残っているものがありましたらお話し下さい。
自分も勝山高校1年と3年生のときには、インターハイにメンバーとして名前を書いてもらったのだが、でも、全国で試合をしたという経験がないんです。
ほんとにチームのムードメーカー的な役割で(笑)、3年間頑張って来た。強い子はもちろん強い子で、試合を経験できるのでいい思い出が残ると思うが、うちにも全国大会に出場できない部員もいる。その子たちも一緒になってバドミントンを楽しんでいこうというような気持が、自分の中では凄く強いんです。
全国大会で試合に出られなかった思い出が、自分としては辛いものではなくて、逆に「みんなで頑張る」といういい思い出となっている。そんな思いを経て、今の自分があるのかなと。
―なるほど…。日の目を浴びない選手の気持ちも、良く把握しておられるのですね。
ちなみに、先生がバドミントンを始めたきっかけとは?
小学校の5年生のとき、ちょうど地元で卓球かバドミントンかどちらかに出られるという大会があって、そこでバドミントンを選択したのがきっかけの1つ。あとは、勝山という地域が、昔からバドミントンが盛んな地域でもあるんですよね。それもあって、バドミントンを選ぼうと思って。
ただ、本格的に始めたのは中学校から。高校、大学でもそのままやっていました。
―そこから指導者となっていったきっかけはどこにあったのでしょうか。
地元の大学へ行って、教員になろうと思ったきっかけが、バドミントンの顧問をしたいという強い思いからだった。ただ、最初の新採用の赴任校が盲学校だったので、そこではたずさわれず…。
その次の異動で、自分の恩師だった先生の異動にともなって、04年、僕が勝山高校に赴任することになった。そこから本格的に指導を始め、今年11年目になります。
―11年というのは既にベテランの域ですよね。先生が今、感じておられる指導者としての醍醐味とは?
一番嬉しいのは、高校を卒業して、さらに大学を出て、戻って来る教え子たちがたくさんいて、平日や土日の練習もそういうOBやOGたちが一緒になって練習してくれること。
仕事を終わって一緒に練習しに来て、みんなで一緒に、勝山の地域を挙げてバドミントンを強くしていこうという雰囲気を作れているところが、一番指導者冥利に尽きるというか…それが一番嬉しいですね。
たとえ私服でも、女の子たちなんかは「先生、ちょっと顔出しに来たよ」などと、子供を連れて体育館に来てくれたり…それだけでもありがたいです。
―高校生の女子…多感な時期だと思います。先生が指導上心がけておられることはありますか?
そうですね、その日の練習、2時間しかないが、一言ずつでもいいからなるべく部員のみんなに関わろうという意識はある。コミュニケーションを取るというか…冗談言うというか(笑)。
まあ、ほとんどが冗談なんだけど、バドミントンに関係ないことでも、学校生活で、たとえば「この前の模擬試験で点数良かったな」とか、そういうたわいないこと。「今日お前あの先生に怒られただろう」とか、バドミントン以外のことでもちゃんと声をかけてあげるように。
バドミントンに関してのアドバイスでも、もちろんコミュニケーションは取れる…。ただ、なかなか強くなれない子というのは、どうしても同じことを繰り返し言われてしまうんですね。そうなるとやはり、本人たちもなかなかモチベーションが上がらない。なので、他のコミュニケーション方法の1つとして、学校生活のことを引き合いに出しながら、声をかけてみる。
女の子なので、「ちょっと髪の毛切ったな」とか、そんなことでもちょっとちょっかいかけてみるというか(笑)。
―短時間で凝縮された練習をなさっているようですが、先生独自の練習メニューなどはありますか?
2時間しかないので、1時間はだいたいノック練習が中心。
残りの1時間でパターン練習、またはゲーム練習というスタイルで行っているが、3対1の状況を作るパターン練習とか、結構OBが来て、ノックとか上げてくれる。そうすると、自分がコートに入らずにみんなを見渡せて、質の高い練習ができ、効率を上げられる。
平日でもなかなか、コーチ陣が来てくれるというような環境は、他の強豪校にはあまりないと思う。
―OBたちですから、練習方法なども知り尽くしているわけですものね。
そうですね。勝山高校のスタイルとかも共通理解ができてるわけですし…。
例えばコーチがたくさんいると結構もめるパターンも多いが、うちはまあ、そういうことが全くない。自分の考えていることをOBたちは分かってくれているし、それを超えないようなアドバイスの仕方を丁寧にしてくれる。非常にありがたいです。
その子たちのおかげで、山口も含めこの結果が出ていると思う。
―今後の目標、先生の最終ゴールなど。
団体戦でタイトルを取りたいというのが、今後の目標。山口に関しては、世界で、できればオリンピック出場を果たしてほしいというのが願いです。
―最後に、全国の指導者の方々、あとは選手たちへ向けて、アドバイスやメッセージなどをお願いします。
練習時間だけがすべてではないというのが、うちの練習スタイルからは言えるかなと…。
これは、他の選手の皆さんへもそうだし、他の指導者さんたちへも言いたいことの1つかもしれない。
要は、いかに集中して、楽しみながらやることで効果を上げることができるかっていうことだと、自分は思っているので。そんなスタイルを自分は作っていきたい。スパルタも大事だが、戦うのは選手本人なので、彼ら本人が自ら考え、戦い抜く力を作っていきたいなと思う。選手はそういう思いでこれからもバドミントンを頑張っていって…。
そうですね、全国の選手の皆さんへは、バドミントンをみんなでメジャーにしていきたいと伝えたいですね。

ページTOPへ