神奈川大学男子バスケットボール部
幸嶋 謙二監督 インタビュー

2017年末に開催された全日本大学バスケットボール選手権で、見る者を魅了した神奈川大学。
高校時代に全国大会で活躍した選手が大勢入学してくるわけでもなく、ましてや留学生がいるわけでもない。そんな無名集団と言われ続けた神奈川大学が、如何にして強豪大学を相手に互角の戦いを演じたのだろうか。
今回は神大バスケ部の強さの秘訣を探るべく、チームの指揮を執る幸嶋監督へ話を伺った。

取材日2017年12月19日

―1年間にわたる長いシーズンお疲れ様でした。
今シーズンを振り返ってみて改めてどんなシーズンだったのでしょうか?
どうもありがとうございます。
創部以来初となるインカレ7位、1部昇格、そしてオールジャパンの県予選も優勝して2次ラウンドに進むことも出来ましたし、結果的には素晴らしい充実したシーズンだったなと思います。
―3年前にチームがリーグ3部に降格するという体験をされていらっしゃいますね。それがたった3年で1部昇格ということになりました。当時と今のチームの違いはどのような部分にあるとお考えでしょうか?
実は今年、リーグ戦とインカレで良い結果が出たということで色んな方に同じような質問をされたんですけれど、実は3年前に3部に落ちた時と何も変わってないんです。3年前も今と変わらず凄く良いチームでした。我々、神奈川大学でスポーツ推薦枠を頂いてから今7年目なんですけれども、その時からやっていることは変わらないんです。「なんで急に強くなったの?」って皆さんによく言われるんですけれども、実は3年前も今年も本当に同じスタンスで、同じ練習メニューでやっていたんです。ただ3年前に負けた時に、やっぱり選手も私もこのままじゃ駄目だって思って、一から全部考え直したのは事実です。今まで頑張っていたつもりだったんだけど、こういうところが足りなかったね、もっと出来るね、ということが新たに発見出来た。その差だけだと思います。
―具体的にチームの方針を変えたということではなくて、今あるチームに対して、これも足していこう、あれも足していこうと考えて取り組まれていたということでしょうか?
そうですね。
―今シーズンのリーグ戦では2部から1部への昇格も決まり、チームとしては最高の状態でインカレにシフトチェンジ出来たのではないでしょうか?
はい。リーグ戦の最後、優勝は出来ず自力での1部昇格では無かったんですけれども、1部昇格という目標が達成出来て、あとはもう短期でインカレに臨む形でした。それでここまでくるともう戦術とか技術とかはそんなに関係がなくて、大事なことは技術よりも気迫ですね。気迫とかエネルギー、戦術よりもチームの一体感。このエネルギーと一体感という2つのキーワードを毎日常に意識して、「もっとエネルギー出せる」、「もっとチームは1つになれる」、そのためにはどういうことをやっていけば良いんだろうということを模索して練習した10日間だったと思います。
―インカレ本選はどの試合も盛り上がっていましたね。本日はいくつか試合の感想をお聞かせ頂ければと思います。2回戦に名門日本大学と対戦されましたが、留学生がいて高さのあるチーム、更に杉本天昇選手というスコアラーがいるチームを、どのように攻略されたのでしょうか?
実は2つゲームプランがありました。1つ目はとにかく我々の武器はディフェンスなので先ほども名前が出た杉本君をどうやって止めようかというところでした。うちにはディフェンスのスペシャリストが1人いまして、24番の河野という選手なんですけど、実はリーグ戦の残り2週間は怪我をしていて出られなかったんです。しかし彼の怪我が復調したので、まずはキーマンである杉本君を止めようというプランです。ディフェンスをとにかく徹底して頑張って、春のトーナメントでも1回当たっていたので、その時と同じような戦い方になるだろうと思っていました。
それが1つ目で、次に留学生のケイタ君とジャワラ君のフロントコートをオフェンスでどのように外に引っ張り出すかということを徹底して考えていました。なんとか途中でケイタ君が交代してくれて、本村君が工藤とマッチアップしたんですけれど、そうなると体格の差という意味ではイーブンに考えられるので、それが2つ目のプランです。
―作戦が上手くはまったということですね。
でも、そこまでが実は勝負なんですよね。リーグ戦もそうなんですけれども。
―4Qあたり日大の追い上げが激しくなっていましたが、皆さん落ち着いてパスも回っていましたね。あの時監督はどういった指示を出されていたんでしょうか?
やっぱり残り2分からが重要ですね。とにかく最後まで正しいことをやり続けることと、ビハインドを負っているチームは必ず目一杯の力で襲ってきますので、絶対に受け身になるなということを選手には伝えました。実は一戦目の京都産業大学もまるっきり同じだったんです。うちはファウルが混んでいたんですけれど、絶対に受け身にならないように更に攻撃的にいけと指示しました。京産大も間違いなくパワーがある、関西1部のチームなので、後半最後は全力でくるというのが日大戦とまるっきり同じだったんです。だから弱気にならないということが大事でしたね。あとうちの選手達は皆キャリアが無いので、残り5分くらいで10点負けていると結構慌ててシュート打っちゃったりとか、ギャンブルしてボールを取りに行ってしまったりとかがよくありました。競っているんだけれども残り5分、3分とかでやられてしまうということが多かったんです。その部分を皆で話し合って、最後の1秒まで効率の良いシュートを探そうと、まだ15秒も残っているのにいきなりシュートを打つんじゃなくてもう1個パスを増やせるだろうということにこだわっていました。今年の夏にプロチームとか韓国のチームとかと練習ゲームをやらせてもらったり、遠征に行って学んだんですけれど、強い相手とやるとそういうシチュエーションも多かったので、それは最後のインカレで活きたと思うんですよね。
―日本大学戦の次はリーグ戦優勝の拓殖大学が相手でしたね。1Qの入り、お互いにタイトなディフェンスが目立っていたように感じましたが、試合が始まってからの感触は如何でしたか?
選手にはもちろんゲーム前に話していたんですけれど、最初の5分が勝負だと思っていました。やっぱり関東1部でしかもリーグ戦優勝チームですから、実力はもちろんありますし最初の5分、10分で流れを持っていかれてしまうと後はゲームをコントロールされてしまう。とにかく最初オフェンスもディフェンスも、アグレッシブにいこうということを話してはいました。実際に最初は上手くやれてイーブンにいけたので、私としては第1Q終わった時点で、「あ、これいけるな」と感じました。選手達も第1Qが終わった時点で結構良いショットを打てていましたし、表情も私が見ていた時に不安な顔色をしていた子たちがいなかったんです。私としては「あ、これは大丈夫だな」と。
―そうだったんですね。2Qの途中、阿部選手(拓大)の得点で3点のリードを許してしまいましたが、あの時取られたタイムアウトではどんな指示を出されたのでしょうか?
拓大戦は岡田君とドゥドゥ君のツーメンゲームが必ず左であります。そこからオプションで逆サイドに、今回多田君にも結構やられてしまいましたけど、阿部君のフレキシブルな動きがキーになっている。彼がカットで合わせてきたり、リバウンドであったり、そこから出てきてのドライブという動きを警戒していたんですけれども…やられてしまいました。タイムアウトで私が出した指示は、ツーメンゲームを2人で押さえられているので不用意に寄るなっていうことを確か言ったと思います。
最初はドゥドゥ君に対してもダブルチームの準備をするように方向付けもしていたんですけれど、そんなにやられていなかったのと、ドゥドゥ君もちょっと外に出ていたので、そのような指示を出したと思います。
―試合を通して我慢比べが多かったように感じますが、選手にはどのように指示していらっしゃいましたか?
そうですね、第2Qの途中と第3Qは少し得点が止まってしまっていたんですけれども、ただシュートが打てなかったわけではなかったので、とにかく効率の良いシュートを作りなさいということを言いました。とにかく最後までちゃんとパスを回せば必ずタフショットではなくて良いショットが打てるからということと、あとオフェンスリバウンドですね。良い形で田中が取ってくれていたので、そこを田中だけではなくて後から出てきた小酒部と7番の田村にもオフェンスリバウンドを頑張れと言って、ペースを一回でも良いから上げろということを指示しました。
―小酒部選手、凄い活躍でしたが、まだ一年生ですよね?
彼はこれから主軸になっていってほしい選手ですね。うちは無名高校出身の選手が多いんですけれど、彼は山北高校という小田原にある学校出身で3年間で2回しか県大会に出ていなくて、しかも1回戦負けだったんです。
―そうなんですか?凄く落ち着いていたので2年生か3年生かな?と思って見ていたんですが…
いや、1年生です。実はまだ今年使うのは早いかな、なんて思ってはいたんですけど。うちはリーグ戦をほぼ3、4年生の7人で回していたんです。それで選手達と話をして、私が「ちょっと小酒部を使いたいんだ」と言ったら「幸嶋さん、どんどん使ってください。最後勝負所に絶対必要になるので」と皆が言ってくれて、リーグ戦の途中からスタートで使ったりしていたんです。結構良い仕事をしてくれたんですよね。びっくりするような場面もあったりとか(笑)来年のチームは松岡、工藤、小酒部あたりが軸になると思います。
―そうなんですね。来年のお話はまた後ほど伺いたいと思いますので話をインカレに戻させて頂きます。惜しくも拓大に敗れた後、順位決定戦では青山学院大学が待ち構えていました。この試合は如何でしたでしょうか?
全体を通してオフェンスもディフェンスも機能していたんですけれども…
前日に青山が筑波と対戦していた時の試合映像を見て、やっぱり木田君のところがキーになるよっていう話をしてはいたんです。だけどディフェンスが潜り込んでしまって、スクリーンにかかって木田君のところで後半にやられてしまった。彼に持っていかれてしまったというところがあります。
―後半は青学のディフェンスがかなりハードになった印象でしたが…
そうですね、うちのオフェンスは田村と工藤がキーなので、そこをやられてしまうとちょっと手が止まってしまうんです。それをさせないようなシステムは作っているんですけれど、ボールと逆サイドで田村と工藤のスクリーンを多くして、スイッチをさせないようにするとか、そういう工夫はしているんですけれども、でもやっぱり相手が強いとそこを止められてしまうんですよね。
―結果としては6点差(64-70)で敗戦となりましたが、青学との差はどういった部分だったのでしょうか?
リバウンドですね。青山戦はリバウンドが12マイナスだったはずなので。もちろん映像も見直しましたし、選手達と話をしてやっぱりフィジカルで負けていた。フィジカルコンタクトが拓大戦よりも全然多かったので選手達からも「後半は足を止められちゃいました」という言葉が出ました。これは来年への課題かなと思います。
―青学は大きい選手多いですよね。
サイズももちろんあるんですけれど、東海と青山はディフェンスのフィジカルコンタクトが多いんです。我々もそれを承知の上で、トレーニングは重要視してやっているつもりなんですけれど、更に激しかったですね。
―コンタクトが増えればその分ファウルになる可能性も高まりますよね。そのあたりはどのようにお考えでしょうか?
うちは小さいチームなので間合いを詰めなくてはいけないんです。だからハンドチェックは夏から徹底的に細かくやっています。両手で触っただけでもファウルになるので、そこはとにかくファウルにならないように、フットワークよりもハンドワークが重要ですね。結局フットワークが出来ないから手が出ちゃうんです。そういった部分は、夏に色んな講習会とかに行って、色んなレフェリーの方のハンドチェックの解釈とかを勉強して、それをドリルに全部落とし込んでやっていました。
―ドリルに落とし込んで修得されたんですか。
そうですね。でも青学戦は、後半に疲労が溜まって足が動かず手が下がってしまいファウルを吹かれているんです。あと、青学戦の最後、木田君のところのヘルプポジションが映像を見直して見ると多分30cmから50cm位なんですけど潜り込んでしまって、そこを全部やられてしまいました。
―最終的には創部初となるインカレ7位という素晴らしい結果となりましたが、この結果を幸嶋監督、選手達はどのように捉えていらっしゃいますか?
3年生以下では既にミーティングをして、来シーズンに向けてどうしようかという話をしているんです。今日も練習で取り組む予定なんですけれど、まず選手の中から出てきたのはフィジカル面でした。工藤なんかは意識が高いので「幸嶋さん、3月はバスケットよりも身体を鍛えましょう」と言っています。そういう言葉が選手達から出てくるということが、インカレで7位になったということもそうなんですけど、そこから得た物かなと感じています。来年1部の中で、はっきり言ってしまうと、うちはお荷物チームになると思います。だからこそ絶対1部に残留するという目標もあります。1部に残留出来ればインカレには出られますので、そうしたら「インカレでもう1個上を狙おうよ。ベスト4を狙おうよ」という言葉がこの前ミーティングで出てきたんです。
実は今シーズンの目標はインカレベスト8だったんです。日大に勝った時点で達成はしたんですけれども、でも蓋を開けてみて拓大と対戦してみたら変な話ですが、最後まで勝負が分からないゲームが出来た。そうやって考えると「何年か先にベスト4狙えれば良いね」とかなんとか言っていたことが実は目の前にある、と今回のインカレで実感することが出来ました。だったらそれに向けて来年も頑張ろうよと、新しい課題を見つけられた大会だったと思います。
―来年は2部から1部へとステージを変えて1年間戦うことになります。またチームを支えてきた4年生がいなくなるわけですが、来年はどのようなシーズンになるとお考えでしょうか?どのようなチーム作りをされていかれるのでしょうか?
主軸になるのは松岡、工藤、それと小酒部は今年ゲームキャリアが出来ましたので、この3人になってくるかと思います。ただ今の3年生以下もゲームタイムは無かったんですが、普段の練習ではスタートチームと本当に真剣にやって勝ったり負けたりしている選手達ですので、やってくれると思います。
―来年は楽しみな一年になりそうですね。
期待されるとあんまりあれなんですけれど(笑)
でも、難しいからこそやりがいがあるなっていう考え方を最近になって本当に持てるようになっているんです。はっきり言ってしまうと練習環境は良くないですし、ビックマンがいるかとか、凄い選手がいるかというと決してそうでは無い。そういったことに対してこの位で良いかなと決めていた部分が何年か前までは実際にありました。けれど今はこういった環境でも、こういう選手達でも、だからこそ色々工夫も出来るし、こういう環境も楽しいねって選手達と話せるようになってきたんです。もう楽しみたいと思います。チャレンジを楽しみたいなって思えるようになりました。
―そうなんですね。チャレンジを楽しむということは簡単なようでいて非常に難しいことだと思います。幸嶋先生と神奈川大学バスケ部の新しいチャレンジを私達も楽しみにしております。本日はお忙しい中ありがとうございました。

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