小平市立小平第二中学校 テニス部 全国中学テニス連盟事務局長 篠田 徹監督
小平市立小平第二中学校 テニス部
全国中学テニス連盟事務局長
篠田 徹監督 インタビュー

中学テニスの名門、小平二中。公立中では珍しく硬式を導入、全国大会も常連で、昨年度冬の全国選抜では女子団体で優勝している。顧問の篠田徹監督は、あまつさえ全国中学テニス連盟事務局長。こんな「いわゆる」強豪校の練習内容とは、果たしてどれほど厳しいものなのか―――?
興味を引かれ、小平二中のHPへ行ってみる。「テニス部」をクリックすると、そこには「習い事がある人は、休むのも早退も可。両立できます」――――、意外な紹介文が載っていた。通常、強豪校というのは、朝練午後練週7日、休みは盆暮れ正月のみ―――ではないのか!?この自由さはなんだろう。
この好奇心が、筆者を小平へと運んだ。迎えてくれた篠田監督は、どこか金八先生!?を思わせるような、優しくて気さくな紳士。彼が展開する練習とは「コンビニ」なのだと、何ともユニークだ。
小平二中の強さは、この指揮官が指針とする「自主性」と、何よりも「テニスを大好きにさせること」にあった―――。

取材日:2014年5月14日

―強豪中学の指導法としては、変わっていそうな…。
(笑)、変わってるんじゃないかな。普通部活動って、毎日来なさいとか、何曜日は絶対とか、そういうのがあると思うんだけど、うちはない。逆なの。拘束してない。人数多いのも原因なんだけど…。
テニスって拘束したら面白いとは思わないから。僕自身がやってみて、面白いと思えば毎日やりたくなるスポーツだってことを分かってるから、拘束することはいらない。だから子供たちには、うちは「コンビニ」だと説明してる。毎日営業してるけど、来たい時だけ来ればいい。
―確かに、強豪校としては珍しいですよね。
他にそんなとこ知らないでしょ。義務感は与えないんですよ。結果的に、来れば練習はできるし。スクールとか、他で練習する子もいるしね。例えば、毎週何曜日は習い事があるとか、そういう子もいるし。だから、店はいつでも開いてる、でも、その子その子で、どういうリズムでやるかを選べると。その代わり、来たら、ちゃんと頑張ってって。だからやる気ないときは、来ないでいい、休んで、って言ってる(笑)。
今、98人で2コートしかないからね。とにかく、やりたい人が最終的に残る、発想がちょっと違うんです。休むことには全然怒らない。
―そういった自由がある中で、練習の中にはこれは必須という義務メニューはあるのですか?
こっちが選手に合わせるから。誰が来るかによって、こちらでそれぞれメニューを決める。特に、レベルが上の子に関しては、来るときにははっきり言ってもらわないといけない、練習もそのレベルにするから。そうじゃないときには、中庸のレベル。1年生など、初心者は初心者のレベルがあるし…。
何種類かは同時にできるけど、ランクを上げるときには気をつけておかなくてはならず、結構大変。ほんとに、マネージャーなんですよ(笑)。監督とか、顧問とかじゃなくて、マネージャー。
―先生は理事会のほうのお仕事もありますものね。
理事会は、仕方がないですね。大会運営側のトップと、監督の兼任ていうのは矛盾するところもあるんだけど…そこは監督優先で行くということを皆さん分かって下さっているので、出来ている。
―1日何時間くらい練習しているのですか?
水曜日は5時間授業なので、3時ちょっと前から6時15分まで。6時半には帰さないといけない。それはでも水曜だけで、あとは2時間。あと、朝練は7時から、誰が来てもいい。これは、僕はメニューは設定しておらず、自由にやっていい。テニスをやると分かると思うが、自分でやりたいことができてくる。
そうすると、とやかく言われずにやる時間もないと、面白くない。僕も朝の6時半頃から来ているけど、子供が来る前に来てないといけないと思うから…。日によって人数にばらつきはあるが、やはり毎日来てる子は上達するし、毎日来たくなるスポーツだと思っているので、それでいい。
―練習の流れは、どのような感じ?
基本練習がほとんど。いわゆる球出しから。子供たちだけでも同じ練習ができるようになっている。ローテーションもうまく組んで、コートに入ってる子と入ってない子、できるだけ平等になるように回転させる。だからその中には、ある程度うまい子とそうでない子が混在しているが、下手な子は上手い子を真似してやればいいし、上手い子は基本に関して完璧になるくらい自分のものにしてくれればいいと思う。
2時間だとほんとにあっという間なので、コートの外でやることが、コートに入ったときにいかに生きるようにするか。コートの外は大事にしている。
―コート外練習と言うのは、たとえば素振りとか?
いや、素振りはあまりしないんだけど…。テニスがある程度出来る子は、素振り嫌でしょ(笑)。嫌なことを強制的にさせてもダメなので。僕は自分が、素振りやれって言われたら、「いや、素振りですかあ…?」て感じになっちゃうと思うし(笑)。それだったら、ボールを落としてネットに向かって打ったほうがマシだと思う。
例えばサーブなんかはみんなで集まっちゃうと、ひとりが打てる球数なんてたかが知れてて、下手すれば3~4球。だからコートの外で、ネットに向かってひたすらサーブを打つ。そこで回数と、習慣を身に着けて。あとはコート上で、数は少ないけど実戦に置き換える。そういう意味では、コート外でかなりやっていますよ。
―コート外での、テニスに必要な体力―――持久力、スピードなどを作る練習…たとえば、走り込みなどは?
変な話だけど、今までずっとやってきて、ランニングして持久力を高める必要性を感じてないんですよ、テニスの場合は、なぜか…。昔からそう思っていたが、そんなに走りまくってない。たとえば毎回、ヘロヘロになってしまうほど走るとか、そういう学校もあるけどね…。
僕のとこは、夏の暑いときに持久力がなくなったという気はしない、全然問題ない。そんなに走らせてないのに何でなのかな…。走るのは、基本アップとダウンしかやってない。夏は練習時間が比較的長いし、その中で自然と持久力がついてしまうのではと。ダッシュはやるけどね。最初の3歩で、一番速いスピードが出るかっていうところだけ。最初の3歩が遅いと、テニスの場合、球が取れないので…。あとはジョギングで20分、距離はまかせるから走んなさい、その代わり自分のペース、っていうのはある。脚力のためには、走ることにはある程度意味があると思うけど、持久力にはどうかなあ、僕は、テニスと持久力ってそんなに関係ないような気がする。某強豪校でも走らないと言ってたし、「あ、一緒だ」(笑)って。
―筋トレなどは?
筋トレは毎日やってはいけないという説もあるし、中学生は成長期なので、あまり筋力をつけすぎると背が伸びなくなるとも言われているし…。だから、雨のときなど、筋トレってこういうもんだよ、って程度にはやるけど、身長を止めてしまうことも意識して、強くはやらない。
―テニスというのは、やはり上背があるほうが有利なのでしょうか。
いいと思う。ネット競技だからね。でも、うちの子たちは小さいけど(笑)。
―先生独特のメニューなどは。
いっぱいあるけど、言葉では言いづらい…。いろんな試合をやってて、この試合で足りない部分がこれ、この選手はこれがないからダメ、あれがないからダメというのを蓄積してって、それらを克服できるようなメニューを溜めていったのが今なので…。やれなかったことを、毎日体に覚えさせるために入れてった。体の動きです。どう動いたら一番要領がいいか、自然に動けるか。体がいざそういう場面に遭遇した時に、やったことがない動きじゃないからできるっていうふうに。その発想はいつもある。もちろん、僕自身も大学のときテニスをやってたので、そのときに「こういうことがやれれば良かったな」というメニューもあるけど。今はその当時よりも道具も改善されてるし、自分が嫌だなと思ったことはやらせようとはしない。それなりに面白くやっている気はする。
今年、新しい顧問の先生が他の学校から来られて、「どうしてこんなに楽しそうにやってるの?」って、第一印象で言われた。もっとこう、怖く、きちんと、微動だにせず(笑)、なんかしょっちゅう怒られる、みたいなイメージで来たというんだけど、なんでみんなこんな楽しそうにテニスやっているのかなって。
―練習メニュー自体も、先生の工夫で楽しいものに仕上がっているのでしょうね。
楽しいと言っても、そんな笑えるメニューとかはないんですよ(笑)。ただ、あまり間延びはしないかも。毎日、とにかく全種類。たとえばフォアだけとかバックだけとか、ストロークだけやってボレーやらないとか、そういうことはない。2時間でも3時間でも、とにかく全部やる。昔から「今日ってこれだけなの、つまんないね」ってことだけはないようにしようと思ってきた。毎日同じことやっているけど、パッパッと、1個1個が短い。キッチンタイマーをテニス練習に使ったのも、僕が初めてじゃないのかなって思う。
―キッチンタイマー???
この学校の前のときから、どうやって時間を計って、練習時間が終わるまでにすべてのメニューをこなせるかていうのを考えていたんだ。1人何球、てやるとダメ。何球とか何回周って、とかやると、時間が読めないんだよね。トロいときは押してしまうから。だから時間で切ってるんだ。交代していろいろやる…てことを考えると、音が出て、時間が簡単に表れるのは、ストップウォッチじゃだめ。で、キッチンタイマー持っていろいろなところで練習してたら、最初は僕しかいなかったのに、最近は使ってるところも増えて(笑)。
―それは先生の真似ですね(笑)。
そうかも(笑)。キッチンタイマーは便利ですよ。だいたい使うのは3分、4分、5分が多い。繰り返しセットしても、同じように鳴るからいいんだよね。すぐ壊れるけど。すぐ落としちゃうし…。電池交換する前に壊れることが多い。だいたい500円~1000円くらいのかな。100円ストアで買ったのはすぐに壊れちゃう(笑)。
―いろいろ工夫しておられるのですね。テニス指導者として、もう何年になるのですか?
最初の学校って、自分の希望の部活動は持たせてもらえないのが普通なんでね。穴埋め的に使われるから…。だから、2番目の学校で8年、トータルで22年以上。ここに来たのは1999年だから、もう15年。今の中3が生まれた歳から(笑)。
―長い指導歴の中で、有望選手を見抜くポイントとは?
やはり、練習に臨む姿勢じゃないかな。それはもう間違いない。どんなときでも手を抜かない子は立派。怪我を予防するためにちゃんと体を休めてっていうのはあるけど、でもやはり、ちゃんとやる子は、どんなくだらない簡単な練習でも、その子ができる最大限でやる。それやってない子は無理。限界。追っかければ取れるのに、追いかけない、練習だからいいや…という子は、結局、「練習だからいいや」じゃなくて「いつもいいや」になってしまう。
―テニスの場合、何歳くらいがプライムタイムでしょうか。
20歳前後かな。男子は特に。体ができるのが遅いので。
―中学生は心身共に大きく変わるときで、大変な年代だとも思うのですが、指導上気をつけていることは?
目標はかなり高く置く、そして本人にそれが可能だと思わせること。そう思えるように、周りがいろんな意味でフォローする。それがないと伸びないかな。精神面は、本番で緊張しても、それがマイナスと出ないように日頃の練習をしている。ちゃんと普通どおりにやっていれば、この試合は単なる通過地点に過ぎないんだよ、って言って、あまりぎゃあぎゃあ騒がない。この試合大事だぞ、頑張れ!とか、言わないんです(笑)、そんなこと言ったら緊張しちゃうから。いつも普通、平常心。
―部員たちに慕われていそうですね。指導者としての醍醐味とは?
去年は日本一になって、でもじゃあ、何が変わったのかというとね、それを周りが教えてくれること。
例えば、前の学校で教えた子が、「嬉しい!」って言って連絡くれる。それが指導者の醍醐味かな。1年のゴール=次年度のスタートだから、勝ってもあまりゆっくり噛みしめてる時間はないかなあ。満足してる場合でもない。去年はこうだから、お前ら今年もこうやらなきゃだめだとか、僕はそういうことは言わないけど、もちろん連覇したい、連覇できるチャンスは、僕らにしかないわけだから。で、子供たちが、「そうだなやりたいな」って思えばそれに越したことはないし。で、出来たら出来たで喜ぶだろうし、出来なかったらできなかったで、残る反省は大きいだろう。
―前年度が良かった理由は。
戦力的に言うと、メンバー10人いるけど、10人全部比較したとき、その前年が3位、その前前年も3位、でも全員総合の戦力を勝手に採点したとすると、去年が一番高いとは思わないんですね。でも、去年は、そのときそのときの持ち分で勝たなきゃいけない持ち回りになった人が勝ったので、うまくいった。一人一人が責任を全うしてくれたんだ。その場で自分が勝てなくても、全体で勝つ。だから、負けてもそんなにしょげない。次の試合で自分たちがどうやればいいかという役割をきちんとやってくれれば、それが生きてくる。別にわがままを言わずにやった。結構試合に行くと、つまらないことでもめるんですよ(笑)。でも、去年は、そういうのがなく、まとまっていった。心が成長したのかな。上手に逆転もしたし…。「やるねえ」(笑)という感じだった。
―そこはまた、先生のキャラクターで、部員たちが自由に楽しくできたからでは。
先日も、取材の方が子供たちに「どんな先生?」って聞いたんだけど、「優しい」って言うから、「おい、嘘だろ!」(笑)って。俺、結構、言ってるんだけど。試合中はそんなに怒らないけどね。試合中のことは、練習中の責任だし…。試合中は、怒っちゃったらあきらめになっちゃう気がして、どちらかと言えばフォローに走る。「これが練習の結果なんだから!」って思う。テニスは自分との戦いだから、たとえコーチでも、試合になって他人が入って来たら邪魔なんだ。
―テニスの面白さとは?
僕自身が10年間競技をやって思ったことは、テニスってのは相手とのやりとりの中に隠れたものがある。特にダブルスは。「ここに打たれたら嫌だな」っていうスポットがお互いにあって、それをお互いに承知した上でラリーが続くと、これはもう面白いんです。でも、このレベルに到達するまでには10年くらいかかる、だから僕は子供たちには、「最低10年やって」と言う。思い付きではだめ。生涯スポーツとしてやって。
―息長く続けられるスポーツなんですね…。
そんなプレーヤーたちを育てようとしている、全国のテニス指導者の方々へアドバイスをお願いします。
結果が欲しいかどうか。結局部活動って顧問のエゴがあると思うんだけど、それと合わないことが起こった時にどうするか…。僕は、子供たちに合わせて自分のエゴは捨てている。練習やプレイの内容には、それは「こうしてほしい」というのはあるけど、練習回数とか受け入れ方とかは、本人のライフスタイルに合うように。そうすれば、もっとテニスが好きになる。好きになってしまえば、うまくなる。変なルールがあると、その時点でテニスを嫌いになっちゃうからね。

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