東大阪大学柏原高等学校 バドミントン部 近藤 一生前監督
東大阪大学柏原高等学校 バドミントン部
近藤 一生前監督 インタビュー

1974年、バドミントン部創立と共に監督に就任したという近藤一生。以来、約40年という月日を、柏原高校と関西バドミントン界隆盛のために費やしてきた。負けて、負けて、負け倒して―――そして40年をかけて、やっと昨年度の全国選抜団体優勝までたどり着いた。涙が出るかと思っていたが、意外にもそうではなく、感じたのは「安堵」だったと言う。律義で責任感の強そうな近藤には、自身が認識している以上の重圧が、長年のしかかっていたのだろう。
近年では、かのオグシオらを始め、全国各地から近藤のメソッドを学びに訪れる指導者、競技者らが後を絶たない。昨年には後進に代を譲り、立場は「前監督」となったが、現在でも細かなデータを取り、精力的な指導を続けている。
真摯な熟練指導者と、温かい「理科の先生」、2つの顔が行き来する近藤の、次の目標は―――未完の選手を近藤の手で成長させ、勝利をつかませること―――その瞬間には、遂に涙がこぼれるのだろうか。夢は尽きない。

取材日:2014年4月28日

―近藤監督にとってバドミントンとは。
私がバドミントンに出会ったのは、昭和45年前後。その頃は、「女の子がやる遊び」だとか、「羽根つき」だとか呼ばれていた。一番残念だったのは、バ「ド」ミントンではなくて、バ「ト」ミントンだと思われていたこととか…。やっとここ数年、オリンピック種目に入ったり、人気女子選手がたくさん出てきたりして、バドミントンがスポーツとして見てもらえるようになったので、非常に嬉しく思っている。
今、ジュニアもどんどん育ってきているし、若い選手がたくさん出てきてくれている。世界選手権とかオリンピックとかで活躍してほしいなあというのが、僕の1つの思い。それともう1つは、私が指導している高校男子の分野は、インターハイ優勝もずっと関東か東北か、という状況で…。小学生、中学生もみんなそっちのほうに流れていく傾向があってね。よく「インターハイは面白くない、もう優勝は決まっている」って言われている。私としては、優秀な魅力ある選手が地元に残って活躍し、インターハイでももっともっと各学校競い合って、面白い大会になったらいいなと思っている。
―バドミントンというのは、真剣にプレイすると非常に激しくスピーディーなスポーツですよね。
先生が考えるバドミントンの醍醐味とは?
なかなかテレビでは映らないが、男子のトップ選手のジャンピング・スマッシュなんかは凄く魅力だと思うし、同じく男子ダブルスのドライブの応酬なんかも凄い。
とりあえず多くの人にそういうのを見てもらいたいと思っているのだが…
―指導上心がけておられることは?
私は本職は理科の教師でしてね(笑)。学校の授業や公務も大事にしているので、他の先生や生徒たちにも「バドミントンの先生」と言われるのが、ほんとは嫌。なので、バドミントンで授業を抜けたりなども極力したくないし、会議とか研修会とかも必ず参加して、他の先生方に迷惑をかけないように心がけている。
バドミントンの試合などにも、他の先生方から気持ちよく、快く送り出してもらえるように。それが一番心がけていること。当たり前のことだが…。バドミントンのことで、迷惑をかけたくない。
―気を使ってらっしゃるんですね…。的外れかもしれないんですが、理科の先生ということ、バドミントンは理数系スポーツというイメージがありますが、何か関連性はあると思いますか?
(笑)、どうでしょうねえ。でも、よく、「理科の先生だから、データとか細かい」などとは言われるけど(笑)。ノートに細かく書いたりね。
―選手たちも一人一人、力の差や性格の違いもありますよね。
個々の力を引き出すために、先生が工夫していることはありますか?
よく「自主性」と言われる先生方も多いと思うが、私は実は、そのあたりはあまり信頼してなくて(笑)。
自主性に関しては、中学生、高校生、最近は大学生も、難しい…。やはり、監督、コーチらがしっかりしないといけないなという感じがある。自分で弱点を分かってても治そうとしないし、嫌な練習はなかなかやらないし。
やはり私たちが、彼らのプレイをしっかり見てチェックして、ミスが多い箇所とか弱い箇所とか悪いショットとか、そういうのを把握すること。そしてそれを生徒に根気よく伝え、理解させて練習させる、それが一番。特に男子は、女子に比べて集中力が長続きしない。すぐ飽きてしまうから、同じスマッシュでもカットでも、10分か15分ごとにちょっとパターンを変えたり、結局同じことをやっているのだがちょっと目先を変えてごまかしながら(笑)、続けさす。そんなところを特に意識してやっている。
―男子のほうが、ひらめきや瞬発力は優れていると思いますよね。
そうですね。だが、持続力は(笑)。男子の場合は、30分同じ練習は絶対もたない。だからちょっと方向を変えたりするんです、1球増やしたり減らしたりとか。
―先生のそういった細かい配慮が、選抜大会で団体優勝、シングルス優勝、ダブルス2位という快挙につながりました。
大阪が全国代表になるまで7年以上かかり、全国へ出てからも優勝するまで40年もかかっている。負けて負けて負け倒して、全国へ出てからも負けて、負けて…。それが財産になって、いろいろ工夫しながら長い時間かけて進化して、やっと40数年目に結果が出たなあという感じ。でも、まだまだだ…と思っている。優勝はしたが、うちでも勝っているのは結局は、中学のときとかにも全国大会で3位以上の子とか、そういう子たちだから、考えてみたら当たり前で…。だから、僕は快挙とは思ってないんだ。
贅沢かもしれないけど、全国大会にも出てなかったり、出ても始めは負けてた子を強くして勝ちたいなあと、それが僕の願い。優勝したのは確かに嬉しいけど、どちらかと言えば、ほっとしたという感じかな。ほんとは、「泣くかなあ?」と思ってたけど、終わってみたらほっとしたと(笑)。
―これまでの「負け」があったからこそ、今回の勝利が実現できたんですね。
先生の話を聞いていて、スポーツは違うけど、かつてジョーダンが「私は負けて負けて、失敗に失敗を重ねてきたからこそ成功した」と語っていたのを思い出しました。
そうですね。負けることって大事なんです。最初に強い子を預かって、ぱっと優勝したりする学校もある、でもやはり、それだと長くは続かないんですね。5、6年で消えて行ったりする。
―先生オリジナルの練習メニューなどはありますか?
これもほんとに良く聞かれるが、いつも答えは一緒で「ほんとに他の学校さんとまったく同じ練習をしてます」と答えてる。トレーニングをして、ノックして、パターン練習してゲーム練習して…。ちょっと細かいこともやらせてたりするが、ほとんど他と一緒。正直、私自身は、練習を見られるのは嫌、恥ずかしいから(笑)。
でも反対に、他校さんの練習を見るのは好き(笑)、試合を見るより。練習試合行ったときとか、どこかで一緒に練習させてもらったりしたときとか…。何か気づくとメモして、それを自分とこに合うようにアレンジして、ずっと今までやってきた。早く言えば、よそさまのパクリのようなものです(笑)。特にインターハイとか、試合前に10~15分練習するのだが、あれを見るのも好きでね。彼らなりに自然にやってるから、ものすごくいいヒントが隠されてる。あの練習は、じっと見てたら凄くいい。各学校、みな違うし、参考になる。関東一高、埼玉栄比叡山など、みんな全然、その10分の練習が違う。いい勉強をさせてもらっている。練習開始の一発目からぶわーーーっとスマッシュ打つ学校もあるし…。なんかネタないかなあと(笑)、しょっちゅう見てます。
―近藤バドミントンの戦略、決まったスタイルなどはあるのですか?
戦略とか、これまでは考えたこともなかったのだが…。方針はあった。たとえば、大阪の大会でも、どんなところとあたっても絶対に手は抜かさないとか、オーダーも変えないとか。練習でも、中学生や女子などが研修に来たりもするが、そういうときも決して手は抜かさない。だから「柏原の子は手を抜かずにしっかりやってくれる」という評価もいただいているし、そういうのが、次の選手の入部にもつながっている。
ちゃんとやってきたことが長続きしている、敢えて言うなら、それが戦略だったのかな?と。慣れたような練習や試合をしてたら怒りますよ、相手が誰であろうと、自分の試合をやれと。その辺はみんなちゃんと守ってくれているので、外部から来た人は、柏原に来てよかったとみんな喜んで帰ってくれる。女子選手たちもよく勉強に来てくれるが、柏原に良い印象を持ってくれて、そしてその中の子の弟が今度はうちに入って来てくれたり(笑)。ライバル校にいる子の弟が来てくれたりとか…。だから、そんな方針が、私の戦略とも言えなくはなかったのかなと。
―取り組む姿勢が、よりよい次世代へとつながっているんですね…。
実績ある先生から、全国の指導者へのアドバイスをお願いします。
いろんな方がうちに勉強しに来てくれるが、特に、全国大会を狙っているところも良く来てくれます。そういった先生方からは、「何とか出たい」という気持ちをひしひしと感じるから、僕も協力したいと思っていますよ。自分もそうだったしね。応援したい。
―選手たちへは?どんなことをすれば、もっといい選手になれますか?
良く言うのはね、高校生の選手なら、良い高校生プレーヤーのビデオを見なさいと言う。
日本のトップや世界のトップのビデオは、見ていて確かに面白いが、高校生としてはあまり勉強にならない。だから、強い高校のビデオを見なさいと。そして研究しなさい。

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