早稲田大学 軟式庭球(ソフトテニス)部 小野寺 剛監督
早稲田大学 軟式庭球(ソフトテニス)部
小野寺 剛監督 インタビュー

文武両道で知られる早稲田。一般的には、早慶戦や早明戦で浸透している野球やラグビー、駅伝などのイメージが強いと思うが、実はソフトテニスでも日本一、世界で戦える選手を輩出する強豪である。
2012、13年はインカレ団体男女アベック2連覇、13年のインカレダブルス男女アベック優勝、全日本選手権男子ダブルス優勝と、タイトルでは枚挙に暇がない。
このチャンピオン集団を率いる指揮官が、小野寺剛監督。自身も早稲田出身、インターハイにインカレ、アジア学生選手権、全日本選手権を制し、世界選手権でも3位に輝いた世界的プレーヤーだった。
そのメソッドを生かし、超一流選手から超一流の指導者へ。全日本アンダーチームも10年間に渡り率いている敏腕指揮官は、語り口にも活力がみなぎっている―――。

取材日:2014年5月13日

―強豪クラブなわけですが、選手たちは、どのように集めているのでしょうか?
うちの大学は競技実績だけじゃダメで、学業成績も必要。スポーツ推薦(スポーツ科学部)は、良いか悪いか筆記試験はしない制度で、部長、監督、OB会がちゃんと責任を持って卒業まで面倒を見て、ちゃんと学業もやらせてというシステムです。うちの大学全部の部で80の枠をいろんな基準によって分配されている。基本的には軟式庭球部は2人枠、だいたい男女1:1。あとは自己推薦ということで、各学部がやっている推薦入試で、スポーツ学部、一昨年無くなったけど人間科学部、あとは社会科学部、教育学部など…。それぞれ多少推薦の形が違っている。こういう形で入ってくるのがプラス・アルファ。その他はセンター利用と言って、競技実績を点数に換算、それでセンターを3科目ぐらい受けるという方法。競技実績の点数がプラスされるので合格しやすいとも言われている。あとは指定校推薦。
このように様々な形で不合格もあるリスクを覚悟して受験して入学してくるので、部独自で入試対策勉強会を行って受験生に指導している。
―今年度の感触は?
多いときは一学年男女別で10人以上入る学年もあるが、今年は男子が6人で女子が8人、スポーツ推薦は男女とも1人ずつ。女子のほうは自己推薦で5人、高校生のトップレベルが多く入ってきた。だから女子は即戦力に近いのが多い。それに比べて男子は、たまに入学後に我々の予想をいい意味で裏切ってグーンと伸びてくれる子もいないことはないが…。女子に比べると物足りない。男子は、関東リーグは4ダブルス、1シングルスの9人でやるが、凄いときにはインターハイで優勝した子がこのうち6人とか7人とかいるときもあった。
テニスって、パワーがあればいいとかスピードがあればいいとかではなく、やはり大事なのは時間(タイミング)のコントロールができないといけないし、調整力というか、単純なフィットネスではないところも必要となってくる。パワーとか速いとかいうことに関しては素質の問題だが、ボールをコントロールすることとかになってくると、それだけじゃない。
―今おっしゃったような有望な選手を見抜く項目は、いくつくらいあるのでしょうか?
単純に動けるスピード、あとは、テニスって硬式も同じだが、平均ラリー数が1ポイントにつき6~8本で、その間の持久力も大事。野球みたいに途中で1息入れることができない。1球々々抜けない、ラリーが続いている間はずっと集中してないといけないわけだから。それも含めた持久力。あとはパワー、そして調整力というのが一番難しい。ある程度ボールに力を加えるためには準備をしないといけないですよね。ただ単純に遠くに飛ばすとか、速いスピード出すだけだったらいいんだけど、どこに来るか分からないものを予測してその場所まで動いて行って、なおかつその飛んできたボールに対してある程度コントロールつけながら、威力ある球を打つというのは、やったことない人からしたら凄く難しいと思う。
たとえばゴルフなんかは難易度は別にして止まったところから打てるし、野球だと、ピッチャーは自分から投げられる。でも、テニスというのは、サーブ以外は相手が繰り出してきたボールに対応しないといけない。それに対して今言ったことをやるのは凄く難しくて。動かないといけないから最初からガッ!と力んで、「さあ、今から力を出すぞ!」っていうんでも出来ないし、動いていく中で、構えて止まって、止まった段階で力入れずに柔らかくしておいて、どこにでも打てる状況にする。テニスをやってみると分かるが、上手い子というのはもの凄く柔らかいんですね。移動していく中でテークバックをある程度ピタッと止めながらも、リストには力を入れずにいろいろな方向に繰り出すというのは、実はもの凄く難しいんだけど…。どの競技もそうだが、凄く奥深い、難しい部分が多いスポーツだと思う。
―「柔らかい」選手の例としては…。
日本代表になったうちの現役の女の子は、たぶん他の選手は真似できない。ダブルスなんで、日本選手権は取ってないが、全日本シングルスは1年生のときに優勝、能力からしたら、誰が見ても日本で今トップ。ミックスダブルスで、1年、2年のときにうちのOBと組んで、2年連続国際大会のチャンピオン。その子なんかはほんとに、ピタッと止まって、手首はもの凄く柔らかい。中学校1年生で、3年生も相手にする全中で優勝するくらい。小さいときから能力は抜群だった。高校のときもやはり上手かったが、高校に同じような高いレベルのパートナーがいなかったので、勝てなかったんだけど…。大学に入って、今年卒業した能力のある先輩と組んで、1年のときにインカレでいきなり大学対抗、シングルス、ダブルス3つ全部取った。2年のときは2つ。小林奈央といいます。その子はやっぱり、10年に一度出るか出ないかの逸材。今まで見た中でうまい選手はたくさんいたが、技術的に見て「こいつは凄いな」という意味ではトップ。まだ彼女は女子のダブルスでは国際大会で優勝してないが、「続けるんだったら早稲田しかないんじゃないか。お前が取れ」と言われ、そしてうちに来た。もちろん僕も欲しかったけれどね。ちょっと故障があるので、今はナショナルチームの監督から、大会の出場制限などもされてはいるが…。そんな子でも、試合になったら力入っちゃうこともあるしね。
―非常に難しいスポーツですね…。
ベースライン・プレーヤーは相手から遠いが、ネット・プレーヤーは相手との距離が近いので、間合いを合わせるのが難しい。相手との間合い(タイミング)を合わせるのが一番大事。剣道よりは遠いけどね。それが一番難しい。この能力がある子とない子がはっきりしている。その中でスピードある選手はほんとに少ない。小林と一昨年ペアを組んで世界選手権のミックスダブルスで優勝した中本(OB)というのがいるが、この子も全中で優勝していた子だけど、スピードが凄く速い。今まで見たことない速さ。たぶん、今までの中で一番速いんじゃないかな。あのスピードは真似できない。ただ単に50mダッシュとかは、そんなにダントツで速くはないと思うが、ソフトテニスの中でポジションを取ってのスピードは、ものすごく速い。普通、球を打って、プレーヤーは「取られる」「取られない」っていうのが分かるのだが、この子の場合は、「え、届くの?」って感じだと思う。
―先生が監督に就任されたのは?
よく覚えてないが(笑)、今年で10年。2005年の1月かな?
―テニスの指導者としての醍醐味は?
良く言われるのが、「お前なんか強い選手を取って来てるだけで何も教えてないんだろ」と(笑)。インカレというのは団体は3ダブルスなので6人、そして殲滅戦と言って、最後は3ペア全てを倒さなければならないんだけど、ひどいときだと6人全員インターハイ・チャンピオンなんだよねうちの場合。「お前のとこふざけてるな」と言われる(笑)。みんな日本代表とか、ナショナルチームとか。それでも負けることがあるのが、ソフトテニスなんだけど。
硬式テニスの場合は3セットマッチだが、ソフトテニスは1セットマッチ。試合時間が短いので、番狂わせが多い。単純に強い選手を集めてくれば勝てるというのではないところが面白い。ジュニアの指導者、中学校の指導者、高校の指導者、大学の指導者、それぞれ指導法、指導環境が違う。僕は今、中学校・高校の顧問でもあるし、高校もかつてはインターハイ優勝を目指して、ってやってたけど、今は大学で指導してる中で、やはりその子がテニスの技術とか戦法だけではなく、ちゃんと早稲田の方針とか伝統を理解し、結果を残して卒業していってくれたときは嬉しいかな、指導者としてね。早稲田の監督をやらないかと言われたのは平成13年ごろ、でも1年間固辞したんです…。ジュニア・ナショナル・チーム(現在の全日本アンダーチーム)の監督もやっていたので、ちょっとできるイメージがなかったし、まあ別に僕がやらなくても、他にやりたい人がいると思っていた。
―テニスに魅了されたきっかけ、テニスの醍醐味。
基本的にテニスはやりたくなかった(笑)。中学のとき、仲の良い友達が3人いて、僕は野球をやりたくて、一人はテニス、そして他の一人はバスケをやりたかったんだよね。最初、みんなでバスケに仮入部したが、すぐにやめて、次にテニスと思ったんだけど、あの頃「第二期エースを狙え」ブームか何かで、学年で250人くらいしかいないのに100人くらいがテニス部に入ってた時代(笑)。でも、何とか入れてもらって。凄く厳しいところで、最初100人いたものが最後は男女それぞれ10人ちょっとくらいしか残らなかったんだけど、でも指導者に恵まれた。そんなきっかけ。
テニスの醍醐味としては…日本のソフトテニスは、ダブルスを基本に発展してきたけど、違う形で仕事をする2人が協力して1本取る、そしてお互いに勝負に突き進んでいく、これが一つの面白さだと思う。あとは、どちらかというと、マイナースポーツというのは、見て楽しむというよりやって楽しむもの。ソフトテニスの打感というのは凄く気持ちがいいので、打った時の心地よさが魅力です。あと、パートナーと協力してこちらの思い通りにうまく行ったとき、ずっと我慢して相手の攻めをしのいでポイントをあげる、そんなところが面白い。
―テニスは消耗の激しいスポーツ。テニス選手の必要な身体を作るためのトレーニングは?
最近は僕がやらなくても、連盟の医科学班がやってくれて、うちのナショナルチームやアンダーのメンバーに教えてくれる。それからうちには専門の学生トレーナーもいる。さっき言ったように、持久力に関して言うと、1ラリーについての球数は6~8本ほどなので、瞬間的に集中しながら、最大に動いても10m、実際にはその半分くらいのところを瞬発的に動くためのトレーニング。筋肉としての持久力、遅筋と速筋があるが、今は速筋のほうをより鍛えるべきと言われている。日本人はこの速筋を多く持ってる人は少ないと言われているが、これを鍛える。
今までソフトテニスの練習というのは、僕らの時代も含めてトレーニングはせずにボール打ってるだけだった。僕なんかは、中学時代にコーラの空き瓶に砂を詰めて、校舎の周り、1周400mくらいを30周とかしてましたね(笑)。そのおかげで走力はついたけど。今は体幹トレーニングですかね。ナショナルチームでも何でも、どのトップチームでもやっている。うちでも、学生トレーナーがメニュー組んで、導入期とか強化期とか分けて、きちんとやっている。
―監督の陣形・戦略などについて教えてください。
場面場面切り取るので…後衛がラリーすることが多いわけだが、まずはこの後衛が引っ張るのと流すのとどちらが得意なのかを見る。どっちが得意かということを頭に入れた上で戦法を練る。ソフトテニスは体を回して打つので、だいたい引っ張ることが得意な子が多いんだけど、勝ち残ってくるのは必ず、流すのがうまい子。流すのは難しいから…。受ける側は、流しのボールの経験数が少ないわけだけど、引っ張るかな、引っ張るかなと思っていて、ぱっと流しが来たときに対応できないといけない。
自分のストロークで言えば、フォアのほうが圧倒的、バックの練習回数は半分以下なのと同じで、不得意なほう、経験する回数の少ないほうに対応するにはどうしたらいいか。どこに来るか分からない中から対応していく練習。一般的には、クロスの展開からストレートとか、左ストレートから逆クロスとか…。あとは、あまりばらしたくないが、相手にいかに意外性を植え付けるかってことが戦法として大事。だいたい人間って、頭の中で計算してやりがち。その中で、相手の予測しないところに、「え、こんなところに打ってくるの?」というボールを使わないといけないが、その発想を選手に持たすのが難しい。どうしてもオーソドックスに、こうなってるときはここだよ、と教え込まれてるところへ行ってしまう。いったん意外性のあるボールを打てると、その残像とかイメージとかが残って、その次からはオーソドックスなボールも打ちやすくなったりもするのだが。だから、レベルが高くなってきたら、いかに意外性のある球を使えるか。かといって、しょっちゅう使ってるとこれまた意外性が無くなっちゃう。たまに使うことで、相手が普段通りのテニスが出来なくなってくる。
テニスと言うのは、いかに自分たちのペースで試合をするかということ。勝ちたい試合になればなるほど、選手ってのは失敗を恐れてセオリー通りの試合をしたがるので、そのときに、いかにそういうボールを使えるか。頭だけではだめで、メンタルの強さが大事なのが難しい。経験でも上達できるけど、性格的にもそういうことが得意な子と、どちらかと言えば安全志向で行っちゃう子と、いますね。
―頭脳スポーツでもありますね。では、最後に、指導者たちへのアドバイスなどをお願いします。
僕が指導者をやっていて、嫌だなあと思うのが、「この子は私が育てたんだ、勝たしたんだ」というようなことを平気な顔で言うこと。ソフトテニスって、教えられない部分が多く、最初から持ってるものも大きいので、「ティーチ(teach)」っていうより、ある程度のところまで自分で行けるように届けさせてあげる「リーチ(reach)」というのが、指導者の仕事だと思っている。
うちの大学でも、「お前らが頑張ったから勝ったんだよ」と言っている。指導者は一国一城の主で、自分がやらなきゃいけないという責任感は必要だが、最終的には選手自身がちゃんと自覚して成長できるような環境を整え、ある程度のアドバイスをして考えさせるというのが一番大事。僕も、どうしても怒鳴ったり叱ったりしてしまうときがあるが…(笑)。 あと、難しいのは、選手ってバラバラだから。男女の違いもあるし。それに対して、ここではちょっと強めに言わないといけないなとか、ここではちょっと別の形アプローチをしないといけないなとかが大変。コミュニケーション取るときに、コンディションもバラバラじゃないですか。「今、これ言ったらダメだな…」とか、「ここで逆に甘やかさないで、もっと押さないとダメだな」とか。僕は、人の指導法を参考にはするけど、真似はしない。自分なりの接し方とか指導法を、自分の経験で確立していくってのが大事なんじゃないかな。その中で失敗もたくさんしちゃうけど、失敗も糧に。インカレも優勝、全日本のアンダーの監督もやってるよとか言っても、「もうある程度まで行ったから勉強しないでいいんだ」とか思っちゃうと終わりだから。子供たちも変わってくるし、技術も戦法も道具も変わってくるし。吸収力を持った柔軟性が必要。僕は、いろんな方面で凄くいい加減に思われてると思うけどね(笑)。どちらかというと、負けて「この野郎、こいつが悪かった」って思っても、最終的には監督の責任なんで、思ってなくても「申し訳ない」って謝るんですよ(笑)。
あとは大学生に関して言えば、選手を大人にしないといけない。インターハイ・チャンピオンが多いということは、成功ばかりしてきている子たちが多いということ。そういう子たちは、大学で勝てばいいだけではなく、さらにナショナルチーム、日本代表にしていかないといけないので。そういうハイレベルの選手でも、ちょっと難易度の高い指導をすると、やはり自分の要求通りにできないものなんだけど、そうすると失敗経験の少ない子たちは、自分をいい方向に持って行くような精神的強さとか管理がなかなかできずに、ふてくされたり子供っぽい対応をしてしまう子が多い。高校の先生にも、勝ってるからあまり怒られなかったしね。そういう子たちに頭ごなしにやるとダメなんだけど、ついやってしまったり…反省することが、今でもよくありますよ(笑)。

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