東海大学バスケットボール部 陸川 章監督
東海大学バスケットボール部
陸川 章監督 インタビュー

ここ数年、上り龍の東海大学バスケ部。
2012、13年はインカレ連覇、今季関東トーナメントも初制覇…指揮官を見ればしかし、それは納得の結果でもある。
陸川章監督は、かつてはNKKでプレイし、日本代表も務めた名選手だった。99年、廃部と同時に現役引退、アメリカやドイツに渡ってコーチングを学び、2001年から東海大に就任。それまでは振るわなかったチームを、06年には関東大学リーグ優勝へ導いている。
その徹底したディフェンス戦略、また一方で機動力溢れるファストブレイク、そして緻密なモーション・オフェンスと、バスケの醍醐味をすべて詰め込んだような緩急自在なスタイルは、なるほど本場NBAでもチャンピオン・チームが必ず持ち合わせるものだ。
アメリカン・スタイルも熟知した陸川監督は、専門誌の戦略分析記事などの執筆、TV解説なども務め、今や日本を代表するバスケ指導者の一人だが、その物腰はいたって柔らかく、謙虚すぎるほどに謙虚。
「超一流ほど腰が低いもの」――世間で語られるそんな人物像がぴったり当てはまる。
選手たちにとっても、とても優しいお父さんのようなのだとか。現役引退後に、しばらく我慢の時期があったことも、この人にはすべてプラスに働いてきたのだろうか。
自身を「ポジティブ」と分析するトップ指導者に、存分に話を聞いた。

取材日:2015年1月22日

―今季のチームの感触は。
今年のチームはそんなに上背もないチームでしたけど、まとまっていて団結心の強い、明るいチームだなあと感じます。特に今の4年生が、2年生のときに久々に優勝してくれて、勢いをつけてくれた。
彼らがほんとに押し上げて行ってくれて。インカレ連覇、今年も春の関東トーナメントも初優勝、また秋は2年連続で完全優勝してくれました。残念ながら最後インカレは決勝で負けてしまったけど…。
―陸川監督の理想のスタイルというものがあるかと思うのですが、今年のチームはそれを表現できていますか?
そうですね、私の中で、3本の矢と思っていることがあって。やはり1番はディフェンス。ディフェンスがみんなを勝利に導くよと常に言っている。ディフェンスが強いということは、当然リバウンドもいいわけですが、そこから必ずファストブレイクが生まれてくる。ですから、2本目の矢としてはファストブレイク。とは言え、ハーフコートでもしっかり攻撃ができないといけないので、モーション。今年はトライアングル・オフェンスを導入したんです。
非常に難しいと言われているんですが彼らもよく理解してくれて。モーション・オフェンス、要はディフェンスを見て判断して、次の行動、攻撃をする―――見たり考えたり、コンビネーションが大事。バスケスキルだけじゃなくて、考え方も成長できるオフェンスだと思って採用しました。とにかく、この3本の矢は、どの代も変わらずやってきた。そのときによってサイズなどいろいろありますから、どこが攻撃の起点となるかは違うけれど。
―陸川監督の掲げる「3本の矢」は、それこそNBAでも、優勝するチームには必ず備わっているものですよね…
監督は、アメリカでもコーチングを勉強された。
はい、CSU(カリフォルニア州立大学)でね。その理由と言うのは、私がNKKでプレーヤーだったときに、2シーズン夏のサマーキャンプに来てくれた、デイブ・ヤナイ・コーチ。初めてアメリカのコーチに2週間来ていただいて、ディフェンス・キャンプをやった。元々ディフェンスで有名なコーチで、それこそUCLAからも声がかかるし、レイカーズからも…その人に2回教わって、練習の考え方、プログラムの仕方など、日本では経験なかったものを学んだ。だから、もしコーチになるとしたら、アメリカのどこどこに行きたいではなくて、デイブ・ヤナイ・コーチのところに行かせてくださいと頼んでいたんです。
ところが、全然チャンスがなく…それから10年経って、チームからリストラになりしばらく社員をやってて(笑)…で、39歳のときにやめて、アメリカに行った。CSUでボランティア・アシスタント・コーチを1シーズンやらせてもらって、非常に勉強になりました。
―当時学んだコーチ法は、今でも陸川さんの武器に。
そうですね、ディフェンスはもう、デイブさんから教わったものをベースにしてます…あと、日本でもコーチされたドイツのジョン・パトリックさん。今、ドイツのディビジョンIのトップ・リーグでやっておられる。5,6回師事しに行き、ヨーロッパのバスケを教わりました。アメリカとはまた違った、いろんな考え方、ドリルを。
いい勉強になった。まあ、ファストブレイクは、私自身が日体大で、ファストブレイクのチームだったからね。またモーションは小野秀二さんに。全日本でもずっと一緒にプレイしましたし。非常にいろんなコーチの方々に教わりながら、今の土台ができていると思います。
―なるほど。指導理念はいかがでしょうか。
まず、バスケットボールは楽しいものだと思ってます。バスケットボールが楽しい、やりたい!って気持ちを、凄く大事にしたい。それと、やはり勝負。勝ちたい、では勝つためには…というトレーニングですが、それも「やらされてる」んではなくて、自分たちがそれを理解して「やろう!」と協力するとか、そういうのが理想。楽しさって何か、やはり真剣に勝負して勝ったり負けたり、もしくはその過程を大事にして、みんなで積み上げていくものだと思ってるので、みんなで勝つ、みんなで負けるというチーム作りをしていきたいなと…。まあ、ここは大学生ですから、やはり仲間を思いやったりとか、励ましたりとか、あとはものの考え方。失敗は当然ある、じゃあこの失敗を踏まえて次にどういうステップを踏んでいくのかということを、学生バスケを通して学んで、社会に出ていってほしいなと思います。
―陸川監督は、怖くなく(笑)、凄く優しい監督という印象です。
指導上で、やはりあまり怒鳴らないとか、気をつけていらっしゃるのでしょうか。
いや、ほんと、全然怒鳴らないですね(笑)。私自身は物事をポジティブにとらえるタイプだけど、いろんな子がいる、失敗して落ち込んでしまう子も…でもこれは非常にもったいなくて、それが試合で負ける要素になる。で、そういう子に、「こら!」と怒ると、もっと沈んでしまいます、そうなると、次に上がってくるまで凄く時間がかかる。チームがフォローするにも非常に大変になるし…ですから、その落ち込んだときに、怒るのではなくてどうしたらいいのか、どうしたら成功につなげることができるのかということを一緒に考えて、それを行動に移すことを勧めます。
まず考える、次に行動する。ネガティブになってしまうと、どんどんそっちに行ってしまうから…。コーチK(デューク大:マイク・シャシェフスキーHC)も良く言っていたが、「next play!!」って。時間があってそこにとらわれると、置いてきぼりをくらう。そうではなく、「今、今、今!」。今ここにあることに切り替えよう。それでも捉われているときには、プレイを止めます。そしてみんなに聞く。私も言いたいことはあるけど、みんなで言えばいい。コーチがひとりで言っていても、チームというのはそこまで結束は生まれない。今、何が悪くて、何が良いのか。みんなで察知してみんなで声を掛けたり行動に移していけば、凄い早さで修復されていく。
ただ、うちの場合は、トレーニングはどこにも負けない。ウェイトとかもね、私は怖くないかもしれないけど(笑)、練習は厳しいし内容もハード、トレーニング量もあるし。時間はそんなに長くないけれど、みんなが目指しているところに行くためには、当然そういう厳しい練習やトレーニングをしなきゃいけないと思ってますから…。そしてそういう厳しいトレーニングを「わあ、しんどいなあ…」ってやるのか、「なんともないよ!」って向かってくるのとでは、全然開きがあるじゃないですか。よくうちのトレーニングを見に来た人は、「東海大のみんなには悲壮感がないね」と言うんです(笑)、楽しそうにやっていると。一番の褒め言葉。あとは、ディフェンスというと、普通そんなに集中して楽しくはやれないイメージがあるけど、うちの連中は、24秒相手を抑えたときなんか、ベンチも総立ちで「うわーーーっ!」ってなるし。ダイブしたり、オフェンス・チャージなんかとった日には…。ディフェンスを楽しめるチームだねって言われる、それは凄く嬉しいこと。
―指導者としての醍醐味とはなんだとお考えですか?
そうですね…昔。北原(憲彦)さんに、「選手よりも指導者のほうが面白いよ」って言われたんですけど、そのときは選手だったので、全然分からなかった(笑)。
でも、自分がいざコーチの立場になってみると、勝利の喜びというのは選手のときより大きいです。
―そういうものですか!
そういうものです(笑)。というのは、選手のときは1考えているとしたら、コーチは10、100、1000とか10000とか考えなきゃいけないんです、いろんなことを。指揮官だからというのではなく、うちの場合は。コーチ陣、学生スタッフ、選手たちもAもBもいるし…もっともっとたくさんいるんですが、全員で1つ。全員のチーム。スタッフたちがビデオを分析してくれたり、トレーニング・コーチたちが朝から来てウェイトやらせて追いこんでくれたり、ATがケアしたりね…そういうこと全部の積み重ねでチャンピオンに到達できるんだということが、コーチになってよく分かった。勝った時にはほんとに嬉しいです、みんなで積み重ねて勝ったんだという感じ。個人で嬉しいと言う感じではない。ファミリーとして、大きな喜び。逆に負けたときには、みんなでモヤモヤする。
こないだ(インカレ決勝で敗れたとき)もみんなが、終わったあと寝れない…とかね。チャンピオンチームになってきたなと思いました。負けも勝ちもみんなで、プレイしてない子もスタッフも、このモヤモヤ、悔しさを共有する。また来年楽しみだなって思えるようになってきました。 私が部員たちによく言うのは、私が親父で、4年生が長男、次男三男四男…ほんとファミリーなんだと。もし、実際の弟が何かトラブルがあったりしたら、助けるのが兄弟だろうと。助け合うことができて、個人では味わえない喜びがあると思う。
―残念ながら今、日本のバスケ界は大変な状況でもあります…監督のご意見をお聞かせください。
そうですね…ここは、非常に残念、としか言えない…とは言え、協会の方々とかもみな同じことを思ってると思うし、今、全力で努力しようとしていると思うのでね。私も、今できること、とにかく現場で子供たちを預かっていますから、今の制裁が解除になってね、この子たちが東京オリンピックなどの世界大会に出ていけるようになったときに、十分戦えるように、よい選手になれるように、鍛えていきたいと思ってます…今、何かに文句を言っても始まらない。みんなが今できることを、精一杯やることだと思います。
―ありがとうございます。最後に、全国の指導者の方々、また選手たちに向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
まずはでは、コーチの方々に。私がアメリカにコーチ留学したとき、デイブ・ヤナイに最初に言われた言葉があります。それは、「選手は機械じゃないよ、人間だよ」ということ。これ、凄い大事かなと思う。ついコーチも傲慢になって、選手をマシーンのように、駒のように扱ったりしがちだが、みな同じ人間。
うまくなりたい、喜び、悲しみ、それを共有できる人たちと、一緒にバスケを学んで成長していく…それがコーチの精神だよと。ですから、まず、愛情を子供たちにかけてほしい。ほんとに人として自分を磨いてくれる存在です。うまくいかないとつい怒りたくなったりするところを、うまくいかないからコーチが考えないといけないんだし、指導法を変えたりね、いろいろ勉強したりしないといけない。そういう、勉強するチャンスを与えてくれる存在なわけだから、逆に選手たちに感謝しないといけない。
またもう1つ、デイブ・ヤナイに教えてもらったんですが、コーチ業は凄くストレスがかかります。そのときにプレッシャー・リリースができる仲間と、そういう会を持ちなさいと言われました。何でも言える友達でもいいでしょうし、ご飯を食べて飲みに行ってもいいかもしれない。プレッシャーをしっかりリリースしないといけない。
最後にもし、コーチ業のプレッシャーで体を壊すようなことがあれば、ストレスとか…だったらやめなさいと言われた。おかげさまで今楽しくて、自分にはピッタリ合ってるのかなと思えているんですけど、やっぱり、人生のほうが大事だと彼は教えてくれたので。ぜひ、指導者の皆様は健康で楽しく、成長できるように、挑戦していただきたいなと思います。選手のみんなには、これはジョーダンがよく言ってたんですけど、「こうなりたい」「こういう選手になりたい」というイメージを描いてほしい。そして一生懸命練習してほしい。毎回100%で。で、ここで、描いてトライするときに、よく人や周りを見てしまうんだけど、「この子うまいな、この子に負けちゃうな」とか…ではなくて、昨日の自分に勝ってほしい。昨日の自分よりちょっとうまくなる。それならできると思うんですね。それを繰り返していったら、成長できる。人と比べるのではなく、まず自分。今の自分は100%なのか、それをいつも自問自答して。今。自分はどこにいるの、今日、この自分が描いたところに行く練習をしたのか、それを問いかける。昨日より今日、と成長していってほしいです。

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東海大学バスケットボール部 晴山 ケビン選手
東海大学バスケットボール部
晴山 ケビン選手 インタビュー

陸川監督に評価された、今年の4年生。
中心となって牽引してきたのが、晴山ケビン選手だ。
アメリカ人の父を持ち、体格や運動能力にはもともと恵まれているが、バスケを始めたのは遅く、15歳のとき。それでも、努力を重ねてめきめきと頭角を表し、U16,U18と日本代表入り。
東海大では、下級生時から主力として貢献してきた。
卒業後は東芝でプロとしての一歩を踏み出す。
夢はNBA,まだまだこれから伸びていく、そんな期待の星に迫ってみた。

―今年のチーム。
今年は、後輩たちも先輩たちにのびのび言いたいことを言えて、ほんとに真のチーム、真のシーガルズになれたかなって感じがしています。
―今年独特のスタイルなどもあるの?
オフェンスの部分では少し。新しいことを1つ入れてる。
―トライアングル?難しいでしょう?
そうです。難しいですね…確かにこの1年だけでは完成できるものではないんですけど、やっぱりコーチが必要って言って、選手もそれを理解してやったんで、別にそれで負けたとは思っていない。
―NBAチームでも、トライアングルは難しいものね。
現在のニックスなんかも(笑)。フィッシャーが現役のころのレイカーズは結構成功していたと思うんだけど、あとはジョーダン時代のブルズ…それを見てコーチも取り入れたと思うし、自分もNBAは好きだけど…でも、NBA選手でも苦戦してるのに、自分たちでできるのか?っていう問いに答えられなかったときもあるし。まあでも、あれはほんとにやり込むしかないんで。
―NBAを目指そうという気持ちは?
バスケをやってる以上は、やはりそれが目標。誰が相手だろうと、自分のプレイを貫きたいというのがやはりありますね。
―最近新しく加えたもの、または大きく向上している分野などはありますか?
大学入って最初に覚えた武器がミドルシュート。そして2年生のときから試合に出してもらって…で、ミドルからだんだん3P,そこから外からの1オン1など、毎年何かしら武器を自分のものにしてきた。
近年で言うと、外からの1オン1というのが凄く自分にとってはうまくいっている。さらにもっと上を目指すには、パスだったり、周りを活かせるような選手…というのが今後の目標です。
―バスケを始めたのはいくつのとき?
15歳かな。
―遅いですよね(笑)
まあ、ざっと見渡すと、一番遅いほう…つい最近ですよね(笑)。
―きっかけは?
小、中と野球をやってて、中学でいきなり、1年で14cmとか身長が伸びて。野球に少し飽きた自分もいた。また、お父さんがアメリカ人なので、別に1つのスポーツを一生やることもないし、と…。アメリカの大学ってシーズンで別れてるじゃないですか。日本はやはり、1つのスポーツをずっとやり続けるのが凄いみたいなところあるけど、でもお父さんには、「人生1回しかないから、好きなことに挑戦しな」と言われて。で、中学の時もNBAに凄く興味が出て…両親も好きだし、友達にも相談したら「全然遅くないと思うよ」って言ってもらって…それで決めました。
―ちなみに、NBAでは今一番誰が好きなの?
レブロン・ジェイムス。
―やっぱレブロン!
はい、凄いですよね彼は…文句つけようがない。
―今までで一番嬉しかった瞬間は。
高校1年の時、初めてユニフォームをもらって全国大会に出たとき、1本目のゴール下のシュートが入って。で、僕がいた高校の監督は、がーっと言う人だったんだけど、その監督に凄く褒められて。
みんな、凄い中学とかの有名な選手が集まっていた中で、自分がやれたってことが、「ああ、間違ってなかったんだ」って思って、そのときに凄くいろいろ込み上げて来ました。
―自信になった。
そうですね、そこから自信もついて、ミニバスどこだろうと中学どこだろうと関係ないよ、って。
―今の自身の最終目標は?
いやー…出来る限り上を目指し続けたいので、ゴールは決めたくない。そこまで行ったら終わりになってしまうから。たとえばプロに行ったら、ヨーロッパに挑戦してみたいとか。ヨーロッパの次はNBAとか…NBAに入ったとしたって、今度はチャンピオンで居続けるとか…だから、出来る限り上を向いて。
―東海大卒業後は東芝ですよね。
はい。
―では、今度は北監督の元でプレイですね…ちなみに、今の陸川監督は、選手から見てどんなコーチですか?
いいお父さんです。自分たちを家族と言って、いろんな意味で包み込んでくれている。悪いことはもちろん怒るけど、いいことは凄く褒めてくれる。失敗を恐れずにいいよ、と言ってくれるので、ほんとに自分たち選手はのびのびとできる環境を整えてくれている。みんなが成長すると思う。
―日本で一番のライバルは?
野本健吾です。
―仲良し?
はい、仲もいいです。
―最後に、ケビンに憧れている後輩たちに、アドバイスやメッセージを。
バスケットボールでは、凄く失敗すると思うけど、それを恐れずに、自分を信じて努力し続ければ絶対報われる可能性が高くなる。努力し続けて頑張りましょう!

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