国士舘中学校柔道部
川野 成道監督 インタビュー

名門国士館で肉体的にも精神的にも大きく成長する、中学生という重要な育成期間を任されているのが川野成道氏だ。今回は2年ぶりの優勝を飾った全中について、試合中どのような話を選手としていたのか、そして誰もが気になる日頃のコミュニケーションやスカウトの実情などを詳しく訊いた。

取材日:2016年9月27日

―全中優勝おめでとうございました。今回2年ぶりの優勝を果たしたわけですが、全中を振り返ってみていかがでしたか?
去年全国大会の東京都予選で負けて、そこから今の全国大会優勝したメンバーが2年生の時に2人出てたんですけど、その子たち二人が去年負けて全国大会に出れなかったんです。そういう苦しいところからスタートして、本当に一年長かったというか、がむしゃらにやってきて、大変なことも色々苦しいこともあったんだけど、本当にその負けた経験が今回の全国大会優勝に繋がったのかな~ていうのは正直思ってますね。
―今年は雪辱を果たすつもりで練習や試合に臨まれましたか?
雪辱を果たすというのもそうだけど、リベンジとかそういう言葉は抜きにして、本当にゼロからのスタートのところで、夢であったり目標であったり、そうゆうのをちゃんとしっかり持たせて、たとえ苦しいことからスタートしても、辛いことがあっても一生懸命信じて頑張れば、必ず目標とか夢っていうのは叶うんだよ!叶うために出来てるからっていうことを教えてやりたかったっていう一年ですよね。なので、苦しいとか辛いところからスタートして、もちろん勝てる確率があれば負ける確率だって当然あるんですけど、これが自分の中でもやっぱり子供たちの将来のためにも負けて学ぶことっていうのもたくさんあると思うんですけど、ここは勝って、そういう夢であったり目標っていうのは「絶対に叶うんだ。可能性はゼロじゃない限り叶うんだ。」っていうことは勝って証明させなきゃいけないというのが私の中にはあったので、雪辱を果たすとかリベンジをするというよりもそっちのほうが強かったです。まっさらな状態から子供たちにそういうことを教えてやりたいって思った一年ですね。
―夢や目標を達成させるために(優勝するために)練習量やメニューは変えましたか。
確かに練習量は、「日本一になりたかったら日本一の稽古量をつむぞ!」ということで、特別なにかすごいことをやるとか、やり方を変えるってことはしないんですけど、ひたすら稽古はしました。あともう一つは、中学生だし、特に今の選手だった子供たちはすごく真面目で優しいから、半分もろい所もたくさんあるので、そういう面では練習のメニューをどうこうするよりも子供たちのメンタルのケアをいつも以上に力を入れて、神経質になって。とにかく本当に弱い、メンタルが今の子たちは。だから萎えちゃう時もあるし、自分がダメだと思ったら本当に下に沈んでっちゃう時もあるから、それを掴んで引っ張り上げるような、下に行かせないメンタルケアをすごく重視してやりました。
―そういうのは選手を見ていて監督が気付くものですか。それとも選手から何か言ってくることもあるんですか。
(選手は)僕には決して弱音は吐かないです。僕には絶対言ってこないです。だから、僕は常に毎日1人1人の顔は見てるんです。長い間僕が経験してきて、体験してきて、失敗して覚えた技術の一つなんですけど、とにかく顔色の変化を見逃さないんです。ちょっとでもいつもと顔つきが違うのが分かるんです。そういう時に呼んで話すとだいたいメンタル的にそうで、話すと泣き出す子たちもいるし。そういうのは見逃さないように僕が神経質になって子供たちの顔をいつも見ています。
―そういう時はどのように声をかけるんですか。
「どうした?」でだいたいこれで分かるんです。「どうした?」って言った時点で“先生は気付いているんだ”と(生徒が)分かるんですよね。でもだいたいの子供たちが「大丈夫です。なんでもないです。」って言うんです。だからそれを上手く諭して、どんどん聞いてやるんです。「なんかあったんだろう?痛いのか?うまくいかないのか?正直に言え」ってゆっくり時間をかけると段々初めて、それによって「もうちょっとこうやって頑張ろう!」とか「ちょっと休もうか?」とか、よ~く考えて一番合う言葉をかけてやったり、一番合う対処をしてやろうとは思っています。
―コミュニケーションを大切にされてるんですね。
生徒は僕に対してコミュニケーションを取ろうとは思ってないと思うんですけど(笑)「はい」とか「いいえ」とかしか言わないんで。けど、僕自身はなるべく生徒に話しかけて、そういう変化は見逃さないようにしたりとか、たまには冗談を言ったりとかして、コミュニケーションとか信頼関係っていうんですかね(築こうとしています)。試合の時なんかも、例えばこの前の全中の時もそうなんですけど、みんな緊張してるんで、僕が緊張してると生徒も余計緊張しちゃうし、怖がっちゃうんで、僕はわざと試合前に冗談を言うんです。それで笑わせて、一回リラックスさせてるんで。しょっちゅうではないですけど、たまにそうやって冗談とか言ったりして、普段からそういう関係は築いておこうとは自分の中では思っています。
―今回の全中ではシード校の4校が順当に勝ち上がったわけですが、それは予想されてました?
それは予想してました。他の強い学校さんもいっぱい来るんですけど、やっぱり去年や地方大会のデータの勝ち上がりを見て、どこ学校のどれくらい力をつけてくるかっていうのがだいたい分かるので、そのデータ通りいけば4校が来るのは間違いないなと思ってました。
―その対策はされてたんですか。
しないんですよね、それがうち。お恥ずかしい話なんですけど、僕ビデオ研究って嫌いなんですよ(笑) 他の学校さんに聞かれたら怒られるかもしれないけど、本当に相手の研究ってしないんです!
―コーチがされているとか?!
しないんです!誰もしないです。(笑)
―では、全中は決勝まで圧勝で勝ち上がってますが、それは現チームでは予想できてたことですか。
いや、してないです。中学入った時には、うちは他の強豪校の学校さんに比べたら実績のある子が入ってこないんで全然。それは、受験があるから、勉強が出来ないと。(国士舘柔道部に入ってくるのは)勉強で受験して合格してでも国士舘に入りたいと思ってくれてる子たちばっかりなんで、本当に強い子なんかは勉強しなくても特待で入れる学校さんにみんな行っちゃうから、うちなんかはそれよりももっと下のレベルの子供たちなんですよね、最初のスタートは。だから、中学一年生の段階では、今回全中やってる学校何校かと練習試合やらせても、うちの学校の方が全然弱いです。だから、当然3年になったときにそんな勝ち上がり方するとは思ってないです。ただ、私も生徒も思い込んでるんでしょうね!“うちは夏になったら絶対に出てくる”っていうのは、私もそう思ってるし、生徒たちの中にもそうあるんです。「夏は絶対俺らが出てくる!」っていう、そういう思い込みが自分達を強くさせてるし、そういう気持ちで練習していくから、夏になったらガーと上がっていくんですよ。だから、そういう結果が全中に繋がったのかなっていうふうに思います。
―小学生をスカウトしても学力の問題で必ずしも(スカウトした選手が)来てくれるとは限らないということですね。
そういうことです。(スカウトの)小学校の監督には私立なんでお勉強の方もありますと話をして、そこら辺がクリアにして国士舘に興味を持ってくれてる子はだいたい来てくれます。でもやっぱ、地方の子は遠方だし、私立でお金もかかるから、なかなかそんなに(スカウトした子が)来てくれないですよね。
―決勝の大成戦では先鋒、次鋒、中堅と3連続引き分けで、副将、大将戦を制しての優勝でしたが、やはり厳しい戦いでしたか?
やはり厳しい戦いでした。僕なんかはむしろですね、最初中学の指導を任された時には大成の神谷先生に全然勝てなくて、自分の中で神谷先生に追いついて追い越したいっていうのが目標だったんですよ!だから、神谷先生はものすごい指導力もあるし、子供たちからの信頼も厚いし、必ず夏にはすごく鍛え上げてくるチームなんで、大成さんと決勝やってる時に簡単に勝てると思ったことは一度もないです。
―先鋒の鈴木選手(国士舘のエースでキャプテン)は決勝までずっと勝っていましたが、最後の大成戦では引き分けになりましたよね。正直なところ、そこで一本取っておきたかったという想いがありましたか?
正直なところ、、、ちょっとここ取れなかったのが痛いなと思いました。というのは、ポイント的にリードするっていうのはもちろんそうなんだけど、鈴木っていうのはうちのキャプテンで精神的支柱であるんですよ。だから、この子がどういう試合をしてくれるかによって、次の子の精神安定剤になってくるんですよ。だから、鈴木が勝ってくると他の子たちがホッとして自分が持っている力を発揮できるんですけど、鈴木が引き分けられちゃって止められちゃうと、次の子たちがやっぱりちょっと不安になって力が出せない時も実はあるんですよね。だから鈴木が取ってくるっていうのは精神的にすごくチームを安定させるっていうことだったんですけど、そういうことを試合前に言うとプレッシャーに感じちゃうから全然言わないんですけど、でも実際はそうだった。だけど、今回の試合に関しては、いつも鈴木が頑張って取ってきてくれるから、「鈴木が取れなくても俺らが頑張ろう!」っていう気持ちが他の子たちにあった。「よし、俺たちがやるぞ!」って。
―三戦連続引き分けが続いた後、次の選手(副将)には何か声掛けをしたんですか?
まぁ、なんとなく。「やったろうぜ」とか、「ここで勝ったらお前がヒーローだ」とか。(笑)
―副将の道下選手が勝ったのは大きかったですよね。
大きかったですね!あの道下っていう子は北海道の帯広から来てるんです。小学校の時には体が小さくって、こっち入って40キロ太らせました。身長もグーと伸びたじゃないですか!だから、最初一回(小6の)10月位にうちに来たんですよ。「入りたい!」って言って、自分から。眼鏡かけてて、全然強そうじゃなくて、投げられて泣いてて。すぐに泣く感情の豊かな子で、「大丈夫か?本当に。」って思ってた子なんです。だけど、“自分から入りたい”って言ってわざわざ北海道から来てるんだから、なんかあるんだろうなって程度で(最初)取ったんです。そしたら、(今回の全中で)全部の(試合)道下が活躍して勝っちゃったっていう。
―選手の皆さんは(入学当初よりも意図的に)大きくさせているんですか?
大きくさせたんです!入ってきたときはヒョロヒョロ。あとは、ぽっちゃりでちっちゃかったり。
―みんな3年生というメンバーの中に最後の2試合に2年生(岡田選手)が一人出てたじゃないですか。それは、なぜですか。
何個か理由があって、まず一つ目の理由としては、岡田というのは常に控え選手で、7人目の補欠で大舞台には全然出てない子なんですよ。だから、岡田が出てくるとは他の学校みんな誰も思わないんです。中学校の試合って体重順に並ぶんで、準々決勝まで次鋒で出てた子が、岡田が入ることによってその子が中堅にずれて、岡田が次鋒に入るんです。だから、そこの対策は他の学校絶対してきてないだろうと思ってたんで、そこをわざと戸惑わせるために入れたっていうのもあるんですけど。ただ団体戦で全国行ってメンバーを変えるっていうのはよっぽどのことがない限りやらないんです。っていうのは、予選リーグから試合にちゃんと出て、緊張してガチガチの状態の中でどんどん試合をこなしていって調子をあげてっていうんで、変えるっていうことはほとんどしないし、ましては2年生の子を準決勝から使うっていうのは本当に非常識でやっちゃいけないぐらいのことなんですよ。2年生で全国大会の準決勝で、今まで試合にほとんど出てない子出すってガッチガチなんです。絶対負けんの分かってんです。だけど、僕は常に岡田には、実は一年、半年ぐらい前から言ってたんですよ!「お前全国出るぞ!出るかもしれないよ!常に準備しておけ!頭にイメージしておけ!」ず~っと言ってきたんですよ!これは岡田と自分しか知らないです。それで、全国大会(全中)の時に、みんな3年生カチカチなんだけど、岡田がもう出たくてしょうがないんですよ。準備してるんですよ!俺にそう言われてたからずっと。それ見て、「あっ、こいついけるな!」と思って。
―では、ギリギリまで岡田選手を使うことは決めてなかったんですか?
ギリギリまで決めてなかった。ずっと迷ってたんですよ。試合見ながら。で、ちらちら(岡田選手を)見ると、もう出たそうなんですよ!出たくて我慢してるんですよ。で、準々決勝終わった時に岡田呼んで、「お前どうだ?」て聞くと、「やります!やらしてください!」ってにこにこしてるんですよ。で、チェンジした。
全国大会終わった後のマルちゃん杯でも優勝してるんですけど、それは岡田出してない。もうバレちゃってるから。(笑)
―今、監督から見る現チーム(全国優勝メンバー)はどんな印象ですか?
性格は努力家でとにかく一所懸命になんでもやる子たち。毎年そうなんだけど、特に今年はそうかな。あとは、柔道的には体が大きい分、まだまだ粗削りなところがあるんで、そこは高校行ってもっとしっかり鍛えてもらって、そつのない柔道をして良い選手になってきてくれればなって思ってるんだけど、まだまだ発展途上ですね。
―全中に出たメンバーはほとんど3年生でしたが、新しい世代(1、2年生たち)はどうですか。
(今の3年生と比べて)体も小さいし弱い。岡田が今回次鋒で出たけど、今度体重順でいったら副将に上がるんですよ。それくらい前が本当に小さい。で、今は本当に弱いな。東京でも勝てるか分からないし、全国出ても中間ぐらいかな。ベスト16とか8ぐらいの力だと思います、正直。1年生なんか、他の公立中学校の方が強いですよ。冗談抜きで今は。だけど、僕は楽しみにしています。
―3年生になった時に国士舘中学校の代表として戦うと思いますが、そのために体を大きくさせるなど、何かあるんでしょうか。
もちろん体を大きくされるのもそうだけど、子供たちが自分達で分かってくれてて。これは子供たちに感謝しなきゃいけないし、歴代の先輩たちや伝統に感謝しなきゃいけないというところがあって。「やっぱり俺たちは国士舘だから、どんなに弱くても、どんなに身体が小さくても絶対張らなきゃいけない!そんな簡単に俺たちは負けない!」っていう、そういう意地であったり自覚が3年になると出てくるんですよね。そういう気持ちが新メンバーになって、2年生1年生にすごい出てきているんで、だから楽しみ。どこまでいってくれるか。勝てないかもしれないけど、その子たちの試合を見るのが楽しみ。3年になった時。
―今の3年生は東京オリンピックどうですかね?期待できます?
東京はちょっと無理じゃないですか。本人たちはその気でやってる子たちもいるんだろうけど、現実的にはちょっと厳しい。柔道ってピークが23、4、5なんで。
―では、川野監督がこれまで指導された選手たちの中に東京オリンピック期待できますか?
何人か絡んでもらいたいなって思う子はいますよ、正直。
―最後に、近代柔道杯、全中、マルちゃん杯と中学三冠を今年取りましたが、次の目標は?
来年も全国優勝するっていうのは当然目標の中にはありますけど。今は試合に対しての目標ないですね。なので、今この時期に新メンバーの子たちをじっくり基礎からたたき上げて、まずは試合で(勝つことの)目標を立てる前に、目標を立てられるぐらいの力をつけさせていこうとは思ってるんで。まずは試合に向けて頑張るというよりも、試合に向けて頑張るための練習をするための体づくりや技術づくりを今はしていったりしている。要するに下地作りですね。

変化を見逃さずに生徒と真摯に向かい合い、“まだまだ弱い”“発展途上だ”等と言いつつも今後の生徒の活躍を期待している川野監督。今回のインタビューで監督の生徒に対する溢れる愛情を感じることができました。国士舘という看板を背負い、それを力に変えて頑張る監督と選手の活躍から今後も目が離せません。

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