目黒日本大学高等学校 ソフトボール部
佐藤 祐輔監督 インタビュー

第77回目となるトップ指導者&選手特集では、目黒日本大学高等学校(旧・日出高校)ソフトボール部を指導する佐藤祐輔監督のインタビュー記事をお届けします。
彼が指導者を志した理由、日出高校(現・目黒日大高校)へ赴任した当初、中々結果が出ず悩んだ日々のエピソード、指導において工夫していることなど、沢山のお話しを伺いました。
また、佐藤監督に監修していただいた指導DVD「守り勝つソフトボール~基礎から学ぶ初心者育成守備練習~」を撮影した際の感想等も語っていただきました。

取材日2019年7月10日

―佐藤先生がソフトボールの指導者になられたきっかけを教えて下さい。
はい。元々僕は高校まで野球をしていたのですが、将来は高校野球の指導者になりたいと考えていました。そのため日本体育大学に入学してからは、自分の指導力の幅を拡げたいと思い、高校まで続けていた野球ではなく、ソフトボール部に入部をしたのです。その時にソフトボールの魅力に気づくことが出来まして、それを今度は伝える側になりたいなと思い、ソフトボールの指導者になろうと考えるようになりました。
―ソフトボールの魅力というのは具体的にどういったところだったのでしょうか?
それは野球とは違うスピード感だと思います。ピッチャーが投げる球のスピードや、野手のフィールディングのスピード等、野球とはまた違ったスピード感がソフトボールにはあって、野球をずっとしていた僕にとってその部分は凄く魅力的だなと感じました。
―ソフトボールを指導している上で、ご自身の野球経験が役に立っていると思う時はありますか?
二種類の競技経験があることで、人とは違った視点を持てているのかなとは思います。野球の時はこうだったなと思いながら試合で采配したり、技術指導をする時もあります。ソフトボールは野球から学ぶところが沢山あると思いますし、野球もソフトボールから学べるところがあると思うので、そういう違った角度からの視点やアイディアは持てているかなと思います。
―先生にとってのソフトボール、野球とはどんな存在ですか?
なんて表現したら良いのでしょう…。そうですね、僕にとってソフトボールとは、人生をかけて追求したいものですね。答えを探し続けているものです。
―ところで、佐藤先生はどのような経緯で目黒日大高校(旧・日出高校)をご指導されることになったのですか?
大学卒業後、静岡県の公立高校で野球部の指導者をやっていたのですけれど、その時に、大学時代の恩師から「東京の日出高校(現・目黒日大高校)でソフトボールを指導しないか?」というお誘いをいただいたことがきっかけで、日出高校で指導することになりました。
―目黒日大高校(旧・日出高校)は全国の強豪校の一つですが、そのようなチームでご指導されることが決まった時はどんな気持ちでしたか?
正直申し上げると、僕は野球と男子のソフトボールしかしていませんでしたので、高校女子のソフトボール界についてあまり知識がありませんでした。ですので、そこまで学校についての情報も持ち合わせてなく、どういう学校なのかな?という楽しみな気持ちの方が強かったです。実際に学校に来てから生徒たちを見て「凄く強いチームだったんだ」と驚きました。
―そうだったんですね。続いての質問ですが、佐藤先生が高校生を指導する上で気を付けていることがあれば、教えていただきたいです。
まず「上から目線にならないように」ということを意識しています。また、「出来なくて当たり前」というところから指導をスタートさせます。例えば、Aパターンの教え方をしていても練習の効果が得られなかったら、その方法を続けるのではなく、違うアプローチとしてBパターンの教え方に変えてみよう、というような指導をするように心掛けています。
―スマートフォンをグラウンドに持ち込み、練習に活用したエピソードを以前お聞きしましたが、当時はかなり珍しかったのではないでしょうか?
そうですね。実は日出高校に来てから1年目の頃、色々と取り組んではいたのですが、結果が出ない時期がありました。その時に他の先生方に「若いから」という風に言われ、凄く悔しい思いをしたことがあります。けれど「若いから結果が出ないこともある。でも、若いからこそ持っている武器もあるんじゃないか?」とも言っていただけたことで、自分の持っている武器、若い自分だからこそ出来る指導について目を向けることが出来ました。その頃の僕は24、25歳くらいでしたので、他の先生方が思いつかなさそうなことを考え、行きついた先にあったものが、スマートフォンの活用だったのです。当時はまだ部活中に、グラウンドにスマホを持ち込み使用することは珍しい状況でしたが、スマホは手軽に動画を撮影出来て、直ぐに見ることが出来ます。これを活用しないわけにはいかないなと思い、生徒たちの動きを撮影して、それを生徒と一緒に見る等、お互いにイメージする動きを突き詰めていく説得力のある指導が出来たかなと思います。
―アイディアが功を奏したというわけですね。その後、全国大会に出場されるようになるわけですが、初めて出場が決まった時はどんな気持ちでしたか?
凄く嬉しかったことを覚えています。初めて全国大会に出場したチームは、お世辞にも上手いとは言えない子どもたちでしたし、僕も右も左も分からない中、とにかく必死にやるしかなかった。そんな中で、子どもたちが一生懸命僕についてきてくれました。技術的にも凄く上手くなりましたし、成長する姿も見ることが出来ました。最終的には選手に全国大会に連れて行ってもらったという感じでしたね。
―先生にとって忘れられない試合を教えていただきたいです。
忘れられない試合は沢山ありますね…しいて挙げるのであれば、初めてインターハイに出場した時の東京都予選の決勝戦でしょうか。この試合に勝てば「遂にインターハイに行けるのか…」という感じで印象に残っています。対戦相手はその年の新人戦で優勝していた神田女学園さんでしたが、僕のサインミスもありチャンスの場面で得点出来ず、苦しい展開になってしまいました。けれど、その重い雰囲気の時にキャプテンがヒットを打ってくれて、一気に流れが変わりました。あの時、僕のミスをキャプテンが挽回してくれたな、と思いました。またその後も4番バッターの子が自身初となるホームランを放って、試合の流れをチームに引き込んでくれた。その後の守備も皆で守り切り、初めてインターハイへの出場権を勝ち取ることが出来ました。凄く嬉しかったし、忘れられないです。
―まるでドラマのような試合展開だったのですね!話は変わりますが、この度ティアンドエイチから、佐藤先生の指導法をまとめたDVDを発売させていただくことになりましたが、収録時の感想をお聞きしてもよろしいでしょうか?
初めての経験でしたので、緊張しました(笑)でも、自分の指導を振り返ることが出来たので、知識を整理することが出来たというか、凄く良い勉強になりました。知らない人に伝えるためには、どうしたら良いのかなと思っていたのですが、こうやって見直すことが出来ましたし、僕自身、まだまだ頑張らなくてはいけないなという気持ちにもなりました。
―このDVDでは目黒日大高校(旧・日出高校)の守備にフォーカスを当て、練習メニュー等をご紹介いただきましたが、どのような経緯でメニューを考えられたのでしょうか?
高校時代に自分が経験した練習の影響があると思います。野球でしたけれど、その時の練習方法がベースにあって、そのメニューを自分なりにアレンジして考えるようにしています。あとは、プロ野球選手の練習方法をスポーツ番組やYouTube等でチェックするように心掛けています。それでソフトボールと感覚が合うなと思うものはトライしてみようと思って、日々の練習に取り入れています。
―プロ野球選手の練習方法も参考にされるのですね。
そうですね。テレビやYouTubeは結構見ていると思います。プロ野球選手のキャンプの練習の動画を見たりだとか、スポーツニュース等でも特集が組まれたりするので、そういう番組は必ず見るようにしています。これは高校生の女子にも出来るかな、出来ないかなとか考えながらチェックするようにしていますね。
―目黒日大高校(旧・日出高校)といえば、学校にグラウンドがありませんが、強豪校と言えば、設備が整っているイメージがあります。その点はどのように考えていますか?
僕は静岡県出身なので、グラウンドは学校には普通あるものだと思っていました。しかし、実際に東京へ来てみると、都心部にはグラウンドを持たない学校も沢山ありました。目黒日大高校(旧・日出高校)もその一つで、体育の授業もグラウンドでは行ないません。僕たちは学校からバスで30分程離れたグラウンドを借りて練習を行なっていますが、雨が降ってしまうと、どうしても練習が出来ない。体育館は他の部活動で埋まっていますし、廊下や教室となると出来ることも限られてしまいます。だけど、最近はその状況を逆に利用することが出来るようになってきました。今、目黒日大高校では教室の黒板が電子黒板に切り替わり、校舎を取り巻く環境が変化してきたのです。そこで、雨の日は生徒たちに見せたい動画等を電子黒板に映して、身体を動かす練習ではなく、視覚を通して指導をするようにしています。
―視覚を通した指導ですか。
はい。どうしても実際のプレイと、僕らが指導する動き方やイメージにはギャップが生じてしまいがちです。頭では思っていても実際の動きはそうではなかったりするので、そのギャップを、生徒たちと一緒に動画を見ることで解消していく狙いがあります。映像を見せながら「先生が言いたいことは、こういうことなんだよ。だからこの動きを取り入れてみようよ」と正しくイメージを伝えることが出来ると、生徒たちも納得して取り組んでくれるようになるのです。
―天候と言えばこれから暑い夏がやってきますね。例年、野外スポーツは熱中症の危険にさらされていますが、目黒日大高校(旧・日出高校)ではどのような対策を行なっているのでしょうか?
そうですね、夏場の練習に関しては少し方向性を変えて、基礎よりも実戦+課題練習を行なうようにしています。以前は、基礎技術をしっかり身につけてもらいたいと思い指導していましたが、炎天下で身体を動かし続けることになるので、生徒たちの疲労が大きなものになってしまいます。むしろソフトボールというスポーツは、攻守の切り替えという特徴もあり、実際の試合では動いている時間がそこまで長くありません。ですので、思っているよりも試合では疲れないと思います。だからこそ熱中症の危険がある夏場は、実戦形式の練習を多く行ない、その上で浮かび上がる課題や苦手だったことを練習する方が身体に負担が掛からなくて良いのではないかと考えています。
―実戦をイメージして省エネな練習をされているのですね。
はい。夏場に長距離走るようなメニューは行ないません。元々、僕らはあまり走らない方ではあるのですが(笑)特に走り込み、ウェイトトレーニングは全く行ないません。
―それはどうしてですか?
身体を鍛えるつもりで運動(ウェイト)をするのであれば、その分の栄養補給と休養を取らなければ効果は現れないと僕は思っているので、僕達の練習環境はそれには適していないということが一番の理由です。目黒日大高校(旧・日出高校)には寮がありませんので、生徒は全員家から通っています。そうすると、練習の直後に栄養補給もままならないまま、練習場から学校へ30分かけて戻り、家が遠い生徒の場合は更に1時間かけて帰宅することになるのです。もちろん補食程度は取り入れていますが、やはり身体を作るのであればしっかりとした栄養補給を練習後に取ることが望ましいと思います。それに休養として睡眠も大切です。帰宅する時間が遅くなってしまう環境では睡眠不足もあいまって、選手の故障を引き起こしてしまうと思います。そうなってしまっては本末転倒ですし、理想は両方を高めていければ良いのですが、今の環境ではトレーニング系は敢えて行なわず、技術面にこだわって指導するようにしています。
―佐藤先生は多くの選手を実業団へ送られていますが、それは日出高校で学んだ技術が活きているからなのですね。
ありがとうございます。けれど実業団へ進んだ生徒たちからは、「トレーニングに全然ついていけないです」と言われます…。やはり他の学校さんは普段から沢山走っているので、ランニングやウェイトでは差が生まれているようです。実は僕も昔、身体作りを目的にトレーニングを取れ入れてみたことがあったのですが、案の定怪我人が増えてしまったことがありました。その経験から思い切って考え方を変えてみたのです。やはりその環境に適した練習をすることが大切だと思うので、僕らの場合ではありますが、高校3年間は技術をメインに指導し、身体作り等はその先の環境で補うのも有りなのではないかと考えています。
―経験から導き出された指導方針だったわけですね。納得です。それでは最後の質問になりますが、佐藤先生の今後の目標をお聞かせ下さい。
はい。高校で日本一を取るように頑張りたいです。また、ソフトボールがメジャースポーツになるように頑張りたいとも思っています。やはりソフトボールという競技自体がメジャーになっていかないと、選手も指導者も中々クローズアップされないかなと思いますので、少しでもソフトボールが盛り上がるように競技をメジャーにさせたいですし、そのお手伝いが出来るように、少しでも勝ち続けたいなという風に考えています。
―ありがとうございます。私たちもソフトボール界を盛り上げていけるように、微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います!本日はお忙しい中ありがとうございました。
ありがとうございました。

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