筑波大学附属小学校
平川 譲先生 インタビュー

ティアンドエイチ最新インタビュー特集では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、全国一斉休校という異例の状態に陥った教育現場の今を取材しました。
特集の第一回では、筑波大学附属小学校の平川譲先生に、学校再開に向けて行なった感染対策や、休校中に実施された家庭学習への取り組みについてお話を伺いました。

取材日2020年9月24日

―新型コロナウイルス感染症により、全国の小学校は休校措置を取らざるを得ない状況となってしまいましたね。学校の再開に向けてどのような感染症対策を行なっていたのか、筑波大学附属小学校の取り組みを教えて下さい。
はい。学校の再開は6月からでしたが、本校では6月の2週目まで学年登校という形をとりながら登校を再開させる事になりました。文部科学省からは卒業までに小学校の教育課程を終了させれば良いという通達が出ました。そこで卒業までの期間が短い6年生だけは、生徒全員が登校出来る方法を考えなければなりませんでした。そのため、広い教室なら密が避けられるという観点から、二つある体育室の内一つを、これに加えて音楽室、図書室、講堂を6年生専用の教室にする事で、彼らが毎日登校出来るような環境を作りだしました。
そして本校には体育室が二つありますので、もう一つの第一体育室を第二保健室に充てるという取り組みも行ないました。これにより万が一感染者が出た時にその生徒を隔離状態に出来ます。体育室の中も仕切りで分ける等、発熱した子ども同士がお互いに関わり合わなくて良いように、このような対策をとっていました。
また、給食を無くして半日で下校、教室移動に関してもルートを指定して、廊下等で密が起こらないように注意をしていました。それから授業中はマスクをして前を向く事、お友達同士向かい合っての話し合いはしない、というような対策も行なっていました。
その状態で6月の2週目までを過ごし、6月15日からは全校生徒は難しいけれど、少しずつ登校出来る人数を増やしていこうという事で、1クラス32人を半分のグループに分けて(16人ずつ)分散登校に切り替えていきました。7月いっぱいはその形で、常に校舎内が密にならないように注意しながら過ごしていました。
―では8月から全校生徒が登校される形になったのでしょうか?
はい。一斉登校になってからは子どもたちも感染予防を強く意識していたという事もあり、経路指定等の制約は設けていません。向かい合って話し合うという学習も可能にするためフェイスシールドを購入しまして、グループでの話し合いや、図工室や理科室での授業等も行なえるようにしました。
―続いて体育授業についてお伺いします。毎年、夏になると子どもたちの熱中症が問題になっていますが、筑波大学附属小学校ではどのような対策を行なわれていたのでしょうか?
“マスク着用による身体へのリスクを考慮して、体育授業の際のマスク着用は必要ありません”という方針がスポーツ庁から出ていましたので、本校でも「マスクは付けても付けなくても良いよ」という方針に変えました。もちろん密にならないように距離を取れる事が前提ですが、体育室の場合はスペースもあり、換気をしっかり行なえば条件がクリア出来る環境でしたので、マスク着用に関しては個人の判断に任せることにしました。
また、本校では体育授業に水筒を持っていくように指導をして、授業中「いつでも飲んで良いよ」というように、水分補給の時間をこまめに設けながら授業を行なうようにしていました。ただ、一番暑い時期、8月末から9月の上旬ぐらいは、子どもたちが水筒の中身を飲み干してしまう事もあり、その時は各クラスで500mlのペットボトルを一箱分購入して、水筒の中身が無くなった場合、そこから補充をするという対策を取っていました。
―学校で水分補給用のドリンクを購入されたんですね。
はい。本校には、冷水機が数台設置してありますが、はじめのうちは“皆が顔を近づけて飲むのはリスクが大きい”という声もあり、使用禁止にしていました。それが9月に入る頃、そろそろ購入したペットボトルの水も無くなるクラスが出始めてきて、今後はどうしようかとなった時に、冷水機は水筒へ補充をするための物というルールを徹底すれば、安全に使えるのではないかという案が出ました。実際に「冷水機は直接口を近づけて飲むのではなく、水筒に補充するための物だよ」ときちんと説明をする事で、現在でも安全に使用が出来ています。
―学校が本格的に再開された頃の子どもたちの様子は如何でしたか?
やはり学校に来られない事への不安というものは、それぞれが感じていたようです。保護者からの声にもそういうものがありましたし、楽しそうに過ごしている様子も見て取れますが、本校は電車通学をする生徒も多いので、中には電車での移動に怖さを感じている子、ストレスを抱えている子もいました。
―学校が休校になっていた間、筑波大学附属小学校ではどのように子どもたちとコミュニケーションを取られていたのでしょうか?
休校期間や分散登校期間中には各担任の先生がZoomのシステムを使ってクラスタイムを行ない、その中で子どもたちとコミュニケーションを取っていました。全てのクラスタイムの内容を完全に把握しきれていないので伝え聞く話にはなりますが、主に、休校中に出していた自由研究の発表の場に使っているケースが多かったみたいです。
―Zoom以外にオンラインを使った取り組みは他にもされていましたか?
はい。本校では休校期間中に家庭学習に対するサポートとしてVimeo(動画共有アプリ)というアプリを使い、課題の動画をアップする取り組みをしていました。
我々体育授業の場合は、いくつか動画をアップし、そこから子どもが課題を選べるようにしていたのですが、ここでもまた縛りが多くて苦労しました(苦笑)
まず子どもたちに怪我をさせてはいけないので、あまりチャレンジングな事はさせられません。それから運動強度を抑えないと、家庭内感染を引き起こす可能性があるので、それもさせられない。屋外へ出る事も避け、安全且つ家の中で運動強度を抑える事を考えると出来る運動が相当限られてしまいました。
―具体的にはどのような内容をご提案されたのですか?
今申し上げた状況の中で行なえる運動としてDVDでもご紹介した(※「できた!」が増える筑波大学附属小学校 体育授業のタネあかし)「よじ登り」や「ダンゴムシの逆立ち」、投げる運動に近い「紙鉄砲(写真参考)」等の運動を動画に収めてVimeoに公開をしました。
ただし、我々教員の誰もが動画編集や公開に関するスキルが高いわけではありませんので、それらの作業は私にとっても、皆にとっても相当大変な作業ではありましたね。また、Vimeoを管理してくれているチームがあってこそ、これらの取り組みは成り立っていたと思います。このチームはICTの知識と技術に長けたメンバーで構成されたオンライン班で、我々の質問に対しても丁寧に対応してくれる等、相当な苦労をしてくれました。

※「できた!」が増える筑波大学附属小学校 体育授業のタネあかし

※紙鉄砲

―Vimeoの例が上がりましたが、今回の事でいわゆるオンライン授業という形式が日本の教育現場にも一定数増えたという印象を受けました。その上で、学校で皆と一緒に授業を受ける事に対して平川先生はどのようにお考えでしょうか?
やはりその場に一緒にいて、空間を共有する事で成立するものがあると思います。体育授業は特にそういう状況でないと成立しないところもあるので、同じ空間で授業を受けるという事は、オンライン学習では得られない特別な体験や、学びを得る大切なものだと考えています。
それと本校ではVimeoでの取り組みを「これは授業とは呼ばず、オンライン学習と呼ぼう」という事で、授業とは区別をしていました。Vimeoでの授業が成立したことにして、教育課程を進めていってしまうと難しい点がいくつか出てきます。大きな問題としては、保護者の参加が必須になってしまう事です。低学年の子どもに関してはパソコンの操作、低学年から高学年まで含めてもネットマナー等心配な事もあります。保護者の方がついてくださらないとインターネット接続を前提とした指導は成立しません。そうなると各家庭に「このように授業を進めていきますので、保護者の方はお家にいて下さい」とお伝えしなくてはいけなくなる。しかし流石にそういう形で授業を進めていくのは学校として問題があるだろうという認識です。
しかし、オンライン学習ならではの良い面もありますね。私が感じるのは、皆が一つの画面に同じ大きさで顔を見せてくれるので、全員の表情を同時に同等に見る事が出来て良いなと思いました。教室の場合、前の子と後ろの子では物理的に見える景色が違いますよね。けれどオンライン学習の場合は、後ろの席に座っていて性格が少し引っ込み思案な子も、皆と同じように顔が見えていて、その子の表情を窺い知る事が出来るなという気もします。ただ、通常の授業として行なうとなると、難しい面もあるなと感じています。
―同じ空間を共有し、助け合ったりする事で、学びや体験が深まっていくという事ですね。それでは最後の質問になります。冬に向けて、先が読めない状況が続いていますが、運動会や修学旅行等、様々なイベントが控えているかと思います。どのような形で行なわれるのか教えていただきたいです。
残念ながら今年は運動会を中止にしました。ただ、ここにきて屋外ならば、細心の注意を払って行なえば実施が可能かもしれないという状態になってきたので、運動会に代わるイベントを学年ごとに実施していく予定になっています。
―それは生徒さんたちも嬉しいですね。
また、本校には3年生~6年生の各学年が山梨県の清里にクラスごとで宿泊する清里合宿という行事があります。4年生が5月、3年生が6月、6年生は9月、5年生は10月中旬から末までの日程でしたが、これも残念ながら今年は全て中止にしました。その後も、1月に5年生が雪国の生活を体験する宿泊イベントがあるのですが、実施出来るかは今もまだ微妙なところです。文部科学省からは「修学旅行に近い行事は進めるように」という方針が示されていますが、冬に向けて感染拡大の状況がどうなるかが、我々にとっての問題となっています。また、2月には6年生の修学旅行を予定しています。これも実施したいと思って計画はしていますけれど難しいところです。旅行会社さんにどこまでご対応いただけるか等、様々な事を検討しながら進めている状況です。
更に、もし5年生6年生の宿泊イベントが可能になったとしても、今までとは違う形式を検討しなければなりません。宿泊する施設も2倍以上の広さが必要になりますし、6年生の修学旅行では大部屋で仲間と一緒に寝るという楽しさがありましたが、今回はビジネスホテル等で二人部屋、もしくは一人部屋に出来ないだろうかという可能性を探っているところです。
―感染状況が読めない事には中々判断が難しいですね。来年になればまた状況が変わるかもしれませんが…
そうですね。同じような状況でも、出来る方法が見えてくるかもしれません。我々も、今までと形式は違うけれども、どうしたら出来るのかという方法を見つけていきたいと思います。
―ありがとうございます。少しでも問題が改善される事を願うばかりです。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。

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