日本女子体育大学 新体操部
橋爪 みすず部長 インタビュー<後編>

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ティアンドエイチでは、新型コロナウイルス感染拡大により、様々な影響を受けている教育現場の状況を多くの方に知っていただきたいと考え、「教育現場の今」を特集するスペシャルインタビューを行なっております。
特集の第三回目では、日本女子体育大学、新体操部部長の橋爪みすず先生をゲストにお迎えしロングインタビューを行ないました。後編では、無観客ライブ配信という形で行なわれた第49回日本女子体育大学演技発表会への想いや舞台裏エピソード、更には橋爪先生の今後の夢などを語っていただきました。

取材日2020年12月22日

―本年のインカレ、全日本選手権は残念ながら無観客開催となりましたが、日本女子体育大学の皆様は美しく洗練された演技を披露され、両大会ともに団体総合優勝、個人総合でも複数の選手が入賞されるなど素晴らしい結果を残されました。学生たちの演技を見て橋爪先生はどのようなことを思われましたか?
インカレでは一スタッフとして、全日本選手権では審判として学生たちの姿を見るという貴重な経験をさせていただきましたが、振り返って考えると6月に練習を再開した時は、インカレ、全日本での演技をイメージすることはとてもできませんでした。しかしながら「目指している演技を絶対にさせるんだ、演技をして欲しいんだ」という気持ちで、綿密な計画のもとトレーニングメニューを作り、一日一日を本当に無駄にすることなく、練習に向き合ってきた成果がここなんだ!という風に感じて、演技を見た時は感動という気持ちより、彼女たちと歩いてきた、一緒に過ごしてきた時間に間違いはなかったなという確信的な気持ちになりました。
―大会後休む間もなく卒業公演「ボレロ」(日本女子体育大学卒業発表会は本年無観客、オンライン上で開催された)の発表が控えていましたね。私もオンラインで拝見させていただいたのですが、とても難しい演目だったと思います。ボレロという演目はどのような経緯で決まったのでしょうか?
演技発表会の演目は例年であれば学生たちの意見を踏まえながら決定されます。ただ今年は49回目の発表会で、来年の50回を迎える記念すべき公演に、何か繋がるような演目を選びたいという気持ちもあり、「49回目の公演では一度はやってみたかったけれど、今まで挑戦できなかった大作に挑んでみよう」という想いからボレロが選ばれました。ただ、演目が決定した時は、新型コロナウイルスの感染拡大が起こる前でしたので、このような状態になることを全く予想していませんでしたし、長い自粛期間があった中でボレロを創作することは本当に大変なことでした。
―ボレロの創作に取り掛かる時に苦労されたことや、創作活動をする際に意識されたことなどはございますか?
先ほどもお伝えしました通り自粛期間があったため、演技創作、構成や構想を練るということに関して、スタートの段階でつまずき後れを取ってしまいました。自粛明け後に練習再開はできたものの、今までと同じような形での練習はできません。週に3回から4回、それも1度の練習は2時間のみという状態で、6月から8月末までずっとやってきたものですから、部員全員が集まって創作を行なったり、演技を練習するということは一切できなかったんです。また、練習できる人数にも制限が掛かっていましたので、約75人で練習をするということも、ほぼ不可能というような状況でした。
また、ボレロは例年日女が発表してきた演目とは異なり、ストーリーがある演目ではないので、ストーリーを追いながら場面展開に合わせて創作をしていく作業ができなかったことがとても難しかったです。更に、バレエの演目として世界的に誰もが知っているタイトルですので、どのような振り付けをしても、バレエ版のボレロと比較されることにも難しさを感じました。ですからまずは日女版ボレロ、新体操版ボレロとして、ボレロの音、刻むリズムをどのように表現していくか、ということをコンセプトとして、全編創作をしていきました。
―私もバレエのボレロは見たことがありますが、今回新体操版のボレロを初めて見て、スポーツと芸術がかけ合わさった表現や、振り付けのアイデアにとても感動しました。
ありがとうございます。とにかく演技創作にかける時間が足りなくて、毎回、時間と戦うような練習となってしまいましたし、できることならばもっと演技を練って深めて、日女にしかできないボレロの世界観を明確に表現したかったと誰もが思っていますが、なんとか皆様にお見せできるところまでいけたことは良かったかなと思っています。
―今年1年間は全国の4年生にとって本当に激動の一年間だったと思います。学生たちに、メッセージをいただけますか?
私は人との出会いや、物との出会いは全て偶然だと思います。しかしながら私たちは、その偶然である出会いを必然に変えていくことができると考えています。偶然に出会ってそれで終わりであれば、出会った相手も、手にした物も自分にとって絶対に必要な物にはなっていきません。偶然に出会った全ての物を、自分にとって、またはお互いにとって必然であったと言えるためには、一人一人がその出会いによって、どのように考えどう過ごしていくのか、日々の努力の積み重ねがとても重要になってくるのです。
4年生にとっては、この新型コロナウイルスとの出会い、またコロナに翻弄された1年間も、偶然ではなくて必然であったと思えるような、これからの人生を歩んでいって欲しいと思います。「この経験があったからこそ今の自分がある」という言葉があるように、自分たちにしか経験することができなかった、この新型コロナウイルスと共に過ごした1年間こそが、未来の自分を、誇れる自分に変えるその時間だったのだと思って欲しいですね。
―最後に橋爪先生の今後の目標や夢を教えていただきたいです。
はい。私自身は高校時代に新体操に出会い、新体操という競技に魅せられて、ここまで迷うことなく生きてきた人間です。ですのでどちらかと言えば、年を重ねて大人になったというよりも、子どもの時に思い描いた夢を持ったまま、子どもがそのまま年を取ってしまったなと、自分自身の人生を顧みてそんな気がしています。でも、それはある意味で特別なことかもしれません。やはり大人になると忘れてしまったり、後回しになってしまう物が増えてくる、そうせざるを得ない日常を過ごされている方が多い中で「ああ、私は凄く幸せなんだな」ということも実感しています。そのように、今までは自分が幸せだなと感じる日々を過ごさせてもらってきたからこそ、遅まきながらこれからは、皆様が本当に幸せだと思ってもらえるような新体操に関わる何か発信をしたり、また自分が今まで経験してきたことを多くの方々に役立てていただけるような研究活動であったり、指導を行なっていきたいと考えています。
―ありがとうございます。橋爪先生、日本女子体育大学新体操部の皆様の今後のご活躍をお祈りしています。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。

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