藤枝明誠高等学校 男子バスケットボール部
金本 鷹監督 インタビュー<後編>

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強豪ひしめく静岡県を制し、全国大会で快進撃を見せ続ける藤枝明誠高校男子バスケットボール部。
ティアンドエイチ最新インタビュー特集では、藤枝明誠高校を率いる金本鷹監督のロングインタビューを前後編に分けてお届けします。
後編となる第113回では、金本監督が指導者を志したきっかけや、指導の中で大切にしていること、金本監督が目指すバスケットスタイルなど、様々なテーマについて語っていただきました。

取材日2023年8月22日

―ここから少し話は変わりますが、金本監督が指導者を志したきっかけを教えてください。
理由は二つありまして、一つは父親を超えたいと思ったからです。父は高校の教員をしていて、現在もバスケット指導者を続けているのですが、宮崎県ではそれなりに知られている存在でした。国体のスタッフを任されたり、指導するチームが県大会の決勝まで進出したり、九州の中では有名な父親でして、その背中を見て育った私は、いつか父を超えたいという想いがあり、指導者になりました。ただどこに行っても「金本先生の息子さんでしょ」と言われるんです(苦笑)反発心じゃないですけど「俺は金本鷹だ!」という気持ちもやはりあって、就職は地元から離れたところを希望しました。また、もう一つの理由に、高校時代のチームメイトでもある大切な友人が、交通事故によりバスケットができなくなってしまったことがあります。その友人とは中学時代からずっと一緒にバスケットをやっていて「一緒の高校に進学して小林高校を倒そう!」と言いながら切磋琢磨をしていたのですが、交通事故に遭った彼はバスケット人生を失い、心に深い傷を負いました。そんな彼の想いも自分は勝手に背負い込んで、バスケットを頑張りたいという気持ちと、高校生という多感な年代の選手達に「バスケットだけが人生の全てではない」ということを伝えていけるのかなと思い、高校カテゴリーの指導者になりたいと思いました。
―金本監督はどういった経緯で藤枝明誠高校の指導者になられたのでしょうか?
これは指導者の繋がりが大きいと思います。私は鹿屋体育大学に進学して、バスケット部に入部するのですが、当時鹿屋体育大学は学生主体のチームでした。自分としては選手としてバスケットを続けた後に、指導方法を学びたいと考えていたのですが、チームに指導者がいない日々を過ごす中で、いつか指導者に転向するならば、先にコーチングを学んだ方が良いのではないか?と考えを改め、大学二年生になるタイミングで学生コーチに転向をしました。ただ、当時チームにはスタッフが誰もいない状況でして「誰がヘッドコーチをするのか?」となった時に、キャプテンや四年生から「お前しかいない」と言っていただけたことと、自分の中でもチャレンジしたいという想いもあり、ヘッドコーチをやらせてもらうことになりました。そして大学二年生からの三年間はコーチをやりながら、色んな繋がりを頼りに沢山勉強に行かせてもらったのですが、この時に素晴らしい指導者の方々と出会えたことが現在の自分を支えているなと思っています。
―それは凄い経験ですね。
私は大学卒業後に学生時代の先輩の繋がりもあって、東京エクセレンス(現・横浜エクセレンス)に所属をするのですが、その年の国体メンバーにエクセレンスの選手が選ばれた関係で、国体チームの練習に参加させてもらいました。その時に、学生時代に大変お世話になった高木彰さんという指導者に再会をしました。高木さんは日本鉱業(現・ENEOSサンフラワーズ)のコーチをされていたので、三上先生(故・三上淳氏)とも深く関わりのある方だったんです。その高木さんから「藤枝明誠高校のバスケット部が今少し大変だから、手伝ってくれないか?」とお誘いをいただいたのですが、その時エクセレンスの仕事が軌道に乗っていたこともあり、苦渋の決断でしたが一度お断りをさせていただきました。
―そうだったのですね。
はい。そして二年後に東京の実業団の試合会場で再び高木さんとお会いするのですが、その時にもう一度、藤枝明誠高校へのお話をいただきました。私としては「是非やらせていただきます」と返事をいたしまして、アシスタントコーチとしてチームに入りました。そういった経緯もあり、藤枝明誠に来られたのは高木さんという存在が大きいです。どうして宮崎人が静岡にいるんだ?という感じですよね(笑)卒業生でもないですし、これは高木さんが繋いでくださった縁だと思い、やらせてもらっています。
―前任の日下部先生が総監督になられましたが、金本監督にとって日下部先生はどういった存在でしょうか?
日下部先生は自分の考え方を二回り、三回り大きくしてくださる存在かなと思います。バスケットだけでは駄目だと指導をする際に「コートの外に勝負あり」と我々は言っているのですが、その言葉を教えてくださったのが日下部先生なんです。人間力の指導に関して、日下部先生はとても経験豊富な方なので、色んなことを相談させていただいています。「僕はこう思っているんですけど、先生はどう思いますか?」と相談すると、先生は凄く寄り添ってくださって、本当に人徳者だなと感じます。また、日下部先生は普通でしたら定年退職をしておられる年齢なのですが、半分冗談半分本気で「先生、あと5年はいてください」とお願いしているんです。先生は北海道から単身で来られていて「老後は北海道で孫と一緒に過ごすんだ」と仰っているのですが、「先生、あと5年はいてもらわないと困ります。色々なことをもっと教えてください」とお願いしているところです(笑)本当に色々と私を助けてくださっていて、心の支えだと思います。
―日々の指導ではどのようなことに気を付けていらっしゃいますか?
先ほどの育成の話と繋がるのですが、やはり選手には成長して欲しいと考えています。ですので与えすぎないというか、答えを言わない指導を心掛けています。ただし、足し算が分からない子に「何故掛け算ができないんだ?」と言っても分からないですよね。そこに関しては間違えてはいけないと思っていて、まずはティーチングを行ない、その上で選手達が選びながら上乗せをしていけるような方法を取っています。自身で考えながら積み上げていくことが必要だと思うのです。一年生と二年生は8月ぐらいまでこの部分に対するストレスとか、分からないことの方が多いと思いますが、こういった考え方を高校三年間の約半分で教えていきます。そして後半の半分では、ある程度自分達で考えながらやっていけるようになって欲しい。自分で考えて行動する力をどのように育ませられるかと、考えながら日々の指導にあたっています。
―考える力が大事なのですね。
そこが一番大事なのです。私がコートに立ちプレーすることはできませんし、チームを勝たせるのは選手達自身なのです。私が言ったことを言われた後に実践しても間に合いませんし、自分達で状況を考えて行動する力がないと駄目だと思います。ですので、練習の時から私が言ったことをただ行なうのではなく、自分達でアレンジする力を身につけて欲しいと思っています。それで「最後は俺を驚かせてね。面白いプレーをするなって最後に言わせてね」ということを選手には求めています。考えていないことが駄目で、考えていればオッケーです。
―例えば考えていることが間違った方向にいってしまった時はどうするのでしょう?
自分の考えとずれている時もあります。でもそれはその子の特徴でもあると思うんです。今までの15年があって、そういう考えを持っている。それはそれで「君はそういう考え方を持ってるのか」と、尊重して認めてあげるべきだと思います。それも私達の学びだと思いますし「駄目だ。カラスは黒なんだ」と自分の色に染めたくはないですね。「先生、こう見ればカラスって白くないですか?」と言われたら、なるほどと思うことがあって良いと思うし「その考え方を成立させるんだったら、このスキルが必要だよね」と次の展開を見せていく。生徒には「一つの引き出しとして持っておきなさい。だけどチームのスタイルはこうだから、こっちも引き出しとして持っておいてね。どっちもいけるようにしよう」と伝えるようにしています。だから絶対に否定はしないです。選択肢の一つとして捉えるならこっちもあるし、見方を変えればこっちもある、と考えればバスケットは無限に広がっていく。その中で自分は何を選択するのか。例えば紙を切る方法に対しても、折り曲げて手で切る方法や、定規を使って切る方法、はさみやカッターを使う方法もありますよね。さあ何を使う?となった時に、もしかしたら「ノコギリを使います」という子がいるかもしれません。僕としては「なんでノコギリ(笑)」というような対話ができればいいと思っていて、それがその子の考え方だし、そういう世界もあるんだということをお互いに理解し合えれば良いと思います。100人いれば100人の知恵があるので、絶対に否定はしないし、無理やりこちら側に寄せることも絶対にしないです。裾野をどんどん広げて、最終的に大きいピラミッドにしたいなというのが一番の方針ですね。
―今のお話を聞いていて、選手としてはとても発言しやすい環境だなと感じました。
そこは受け皿にならなきゃいけないですし、指導者としての感受性を高めるためにも本を読まなければいけないと思っています。常に色んな状況が考えられるし、何故この子は今こう言ったんだろう?ということに対して、ある程度の予測を持ちながら、大人が認めてあげる力を持たなきゃいけないと思います。また、ただ認めるのではなくて、背景まで含めて認めてあげるということがとても重要です。そのためには「子供達に勉強しなさい」と言うのではあれば、その3倍4倍勉強しなきゃいけないですし、それは大人の務めだと思います。私は大学時代にそれを学びました。というのも私は大学二年からヘッドコーチをやらせてもらいましたが、そうしなければならない環境だったんです。当時チームの四年生には高校時代にインターハイ優勝経験のある選手や全国大会に出ている選手達がいましたが、自分は県ベスト4の成績しかありません。全国大会に縁がない自分が日本一を経験した選手に何を教えるんだ?と考えた時に「この人達の何十倍のスピードで自分が勉強しなくてはいけない」と気づいたのです。今となっては立場は逆転しましたが、選手に「やりなさい」と言う分、自分自身には“もっとやらなければいけない”と言い聞かせているところもあります。
―最後に、金本監督の目指す藤枝明誠高校のバスケットスタイルを聞かせてください。
“泥臭くディフェンスをして徹底的に走る”ところから、自分達のリズムを作るのが戦術的なベースでありスタイルかなと思います。更に、スカウティングをされても対応できないバスケットにしたいなと思っています。具体的には“後だしジャンケン”をしたいんです。例えば、対戦相手の監督が「藤枝明誠はグーを出して来るから、パーで行くぞ」と対策をされた時、「いつでもチョキを出せるようにしといてね」と言えるようにしていきたい。選手達の状況判断力はもちろんですが、私が「こうしなさい」と言ってしまうとそこにしかいけなくなります。そうではなくて「色んなパターンを君達は持っているよね」ということを教えていきたいなと思っています。対戦相手から「藤枝明誠って抑えようがないよね。あっちを抑えたらこっちがやられるし。しかもディフェンスから走られるし」と言われるような、相手が「うわ…」と感じるようなバスケットが理想のバスケットスタイルです。また私個人の目標としては、日本代表を世界で勝たせたいという想いがあります。これは指導者を始めた頃からの目標でもあるのですが、決して自分が代表のスタッフに入りたいということではなく、育成年代に関わる指導者として、このカテゴリーで選手を育て上げること、その選手達が将来、世界で戦って勝つということを目標としています。
―ありがとうございます。金本監督と藤枝明誠高校の皆様の今後のご活躍を応援しております。
ありがとうございました。

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