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平塚市立金目中学校 柔道部
真田 州二郎監督 インタビュー

第68回目となるトップ指導者&選手特集は、赴任した公立中学校の生徒を次から次へと全国の舞台へ導いてきた真田州二郎監督です。
生徒のモチベーションの上げ方や大舞台でも本来の実力を発揮できるようになるための指導術などを語っていただきました。

取材日2018年10月2日

―まず初めに、真田監督ご自身も柔道家として東海大相模高校、東海大学と名門校で柔道をされていたと思いますが、そこから指導者としての道を目指されたきっかけをお聞かせください。
もともと僕は小学校の時から学校の先生に憧れていて、教員になりたかったんです。4歳の時に他界した父が社会科の教員で、母も保育士として教育に携わっていたこともあり、自分が競技生活をやっていく中でいつかは指導者になりたいという気持ちがありました。
最初は高校の教員になりたかったのですが、教育実習で中学校に行ったことで気持ちが変わりました。中学生というのは人生経験が少ない分「あなたはこれだけ出来るよ。」という言葉を真摯に受け止めてくれるんです。ある程度人生経験があると自分で決めた壁を“乗り越えられないものだ”と諦めてしまうのですが、中学生は自分の位置がどういう位置にあるかをまだ知らないので「この練習の先にこうなるよ。」と未来を見せてあげると、すごく目を輝かせてくれる。教育実習に行って、子供たちのそういった純粋さに触れて、“指導するなら中学生をやりたいな”と、そこで思いましたね。
―指導者としての道を歩まれてからは、大野中学校、浜岳中学校、そして金目中学校と赴任された先々で素晴らしい結果を残されています。公立校ということもあり、毎年実績や実力のある生徒が入ってくるわけではないと思うのですが、その中でもすばらしい結果を残されている真田監督の指導法や育成法を知りたい方はたくさんいらっしゃいます。そこでですが、柔道部の監督に就かれてから、まず取り組むことを教えてください。また、精神面、技術面の指導を通して生徒に必ず身につけさせることがあれば教えてください。
技術面は後からいくらでも付いてくるのでそれを教えるのは早いんですけど、「俺はできる!」「私はできるんだ!」という風に子供たちのモチベーションを上げさせることがすごく難しいんです。そのためには常に足場を固めていく指導をしています。それは、今まで出来なかったことが出来るようになった時に「あなたはここまで出来るようになったね。」と認めてあげることで、足場が固まっていくんです。たとえ僕が背中をどんどん押してやらせたとしても、最終的に一歩を踏み出したのは自分の意志なので、それを認めてあげることで、子供たちは頑張れるんです。そして、“次の一歩はどこに出せばいいのか”を示していけば、子供たちは自ずと足を進めていきます。そうやって “最終的にはこうなるために、今はこういうことをやっていくんだ。”という長期的な展望と今、目の前の課題を見せながら、“この練習の先にこういうことが待っている”という先を見せて本気にさせてあげるんです。
例えば授業でも同じですけれど、金目中学校の生徒は体力が低く、全国体力運動能力調査の全ての種目で全国平均をかなり下まわっていました。しかし、ここ数年で上がりまして、昨年度は8種目中7種目で全国平均を超えました。それも結局は“子どもたちを本気にさせればいい”ただそれだけなんです。“こんなのやっても評価に関係ない”と打算的にするのではなく、遊びの中に勝負したくさせることが大切で、それはどの種目でも同じじゃないかなと思います。だから共通して言えるのは、子供たちの目をいかに輝かせて本気にさせるか。それは部活だけじゃなくて、授業もそうだし、いろんなところでそうなのかなと思っています。
今の柔道部の1年生もすごく時間がかかりましたけど、半年経ってやっと自分たちで進めるようになってきました(苦笑)。
―今年の1年生は何名入部されたんですか?
22名です。今年は多かったですね。いろんなお子さんがいて、健康の為に部活をやる子もいるし、競技成績を上げたくてやる子もいます。だから、その子に合わせた目標を設定してあげるんです。
例えば、去年卒業した柔道部の女の子で中1の時に50メートル12秒ぐらいの子がいたんですけど、一生懸命やることを覚えた子で、授業中の走る姿がものすごく頑張っていたので、入部して2か月ぐらいの時に「中学校3年生になったらリレーの選手になろう」と目標を伝えました(笑)。最初は本人もそんなことできると思っていなかったと思いますが、3年生の時にはクラスで4人しか選ばれないリレーの選手にぎりぎり滑り込んだんです。それは彼女の努力だし、遥か彼方向こうの目標だと思っていたリレーの選手になるということを、「あなたがリレーの選手になったらみんなが驚くだろう。そのみんなが不可能だと思うことをやってみようよ!あなたが頑張っている姿が素晴らしいから走り負けるな。」という話をして、最終的に実現しました。リレーの選手は柔道とは全然関係ないんですけど、そんなことを言っていたら、柔道も一生懸命頑張って、最終的には関東大会ベスト8までいきました。全く経験がなくて、中学校でゼロからスタートした子です。
そんな感じで、その子が頑張っていることを認めて、目標を設定して、足場を固めて、「あなた出来ているよ。出来るようになっているよ。」と言ってあげた時にその足場の上に子供が乗っかってきてくれるんですね。そうすると、次の一歩もその次の一歩も堅い地面を歩くから進みが早くなります。
もちろん、結果だけではなくて上達していることを感じないとダメです。例えば柔道だと、出来なかった技が出来るようになる、かけられるようになる、今まで耐えられなかった相手の技を耐えられるようになるとか、小さなことでもいいのでそういった瞬間を見逃さず、認めてあげることが大切です。でも、出来ないことは徹底的に指導しますし、怒ります(笑)。それで、なんでそんなに厳しくするかということをちゃんと伝えます。そこをちゃんと伝えることによって、子供たちに「だからなんだな。そこを見逃さないんだな」と伝わり、それを理解して納得してくれた時に伸びていく気がします。
―では、真田監督が赴任された2014年まで金目中学校の柔道部は20年間休部状態だったと伺いました。その状態からどのように部を再開されたのでしょうか。当時の様子をお聞かせください。
まず部活をするにあたり、活動場所を作ろうと、空き教室の掃除から始めました。畳もないし、活動場所もないし、子供もいなかったので、まず活動できる場所を3か月間かけて作って、そこで体育(柔道)の授業をやって、柔道ができる場所ができたことを証明してから、職員の方に部活を作ることを認めてもらいました。
―そこから(再開から)2年目の冬には男女とも神奈川県の新人戦団体優勝をされました。この短い期間ですばらしい結果を生み出された要因は何とお考えでしょうか。
遠征に行くのもどこにいくのも全員に声をかけて、全員救ってやるというのが僕の指導の原点です。だから、今は実力がなくてまだまだ頑張らなくてはいけない選手にほど声をかけますし、そういう子たちが目を輝かして頑張るチームはその次の子たちが頑張るんですよね。それで、その次の子たちが頑張れば、その子のまた次が頑張るんですよ。そうやって連鎖していくと、そのチームのトップの子たちは示しがつかないから、“自分たちもやらなくては!”となるんです。ですから、最初の話に戻るんですけど、その子が一生懸命頑張っていることを認めて、その子が一番頑張れるような目標を設定してあげています。腕立て伏せを頑張っている子がいれば、「その回数だけは他の人に絶対負けないようにしよう!」と言うとか、その子の中でのナンバーワン、オンリーワンを伸ばしてあげることで、それに付随してどんどん目を輝かしていくんです。その子たちが目を輝かせれば、他の子たちだって頑張ってくれます。そうした相乗効果が結果に繋がったのではないかと思います。もちろん、才能に恵まれたお子さんたちがいたというのもありますし、タイミングが良かったというのもあると思います。
―では、現在の部員は全体で何名いらっしゃいますか。
50名です。
―空き教室を柔道場にしていらっしゃいますが、50名という大人数が限られたスペースで練習をするためにどのような工夫をされているのでしょうか。
55畳に50名いますので、量ができない分、質を高めるためのスキルトレーニングをさせていきます。スキルの練習は多少狭くても投げなければ危なくないので。でも、技は実戦の中でかけなかったらタイミングとかフェイントとか複合的なことができないので、そこについては短期集中型でやっています。子供たちは必然的にそこで出た反省点を廊下でまた反復しています。
―普段の練習量はどのくらいですか。
朝練もするんですけど公立中学校だと下校時間があって、冬は16時半なんです。学校が16時に終わって、16時半完全下校なので、16時5分から16時15分までの10分間しかないんですよ(笑)。だから、冬場の夜の練習は学校外の練習が多くなりますね。それが平塚柔道協会や東海大学で、週4回、18時半から20時半ぐらいの約2時間練習しています。東海大ではジュニアの強化チームが来たりするので、子供たちは世界に目を向ける環境にいます。国際交流で南京のチームやロシアのチーム、ドイツやイギリスのチームと練習することもありました。
―練習量としては他校と比べても特別多いわけではないと思うのですが、真田監督がご指導される選手の飛躍は著しく、特に3年生になった時には全国トップクラスの実力を誇る選手に成長していらっしゃいます。監督の指導の中に、3年計画のような指導マニュアルがあるのでしょうか。
基本のマニュアルはあります。だいたい2か月スパンで課題を変えて、次の課題に移動しています。中学校3年間の中で身につけなければならないスキルは毎年根本的に変わらないはずだと思っているので基本的にはみんな同じマニュアルですが、その年の子供たちの様子とか体格とか体形、筋力の有無によって、課題を変えなくてはいけないので、そこのプラスアルファの微調整はその年々で変わってきます。
―3年生でトップレベルの結果を残されるという意味では、今年の全中、男子55キロ級で五十嵐健太選手、73キロ級で平野蒼空(そら)選手が優勝というすばらしい結果を残しました。金目中に赴任されてから4年目にして日本一の選手を2人も生み出したわけですが、その時のお気持ちはいかがでしたか。
本当に長かったし、自分自身が挑戦し続けてきたことだったので、なんとも言えない気持ちでしたね。最初に決めてくれたのが軽量級の子でしたが、この子は練習試合でも負けたことがないし、同じ階級の子には負けたことがないので勝つと思っていました。けれど、やはり今までの思いがあったので、優勝した時は涙が出ちゃうんですよ。だけど、ハッと見れば、緊張した顔の平野がいるので、顔をリセットして、「さぁ、行くぞ!」と切り替えました。
―真田監督は今回の全中のみならず、前任の学校から9年連続教え子を全国3位以上に入賞させていますが、好成績を継続している要因は何だとお考えでしょうか。
何度も言い続けてきたメンタル面ですね。例えば、全国大会に出るとだいたいみんなホッとしてハングリー精神がなくなるんですよ。心の準備も出来ていないから、試合場にパっと立った瞬間に、頭が真っ白になって、全然戦えないことがたくさんありました。でも、そうじゃないということを子供たちに言いながら想像させました。例えば、「関東大会では最低でも決勝に残らないといけない。残らないと全国でシードがもらえない。3位だとノーシードだ。でも関東大会2位になったとしても全国では他ブロックの優勝校と当たる。優勝したら(他ブロックの)2位と当たる。だから全国で勝ちたかったら、関東大会で優勝しなくてはいけないんだ。」という風に言います。今年優勝した五十嵐は小学校の時、県ベスト8が最高だし、平野もベスト4が最高。県大会優勝した経験は今まで一度もない子たちでした。だから、関東大会でメダルなんていったらそれだけで満足しちゃうんですけど、それではいけないということを中1の時から言い続けるんです。そうすると子供たちの関東大会に対するモチベーションが全然変わっていきます。それで全国大会に行けばまた同じ話をします。「全中3位になるとメダルを貰えるからホッとするけど、全日本の強化には入らない。3位になっても『良かったね』でおしまい。でも決勝まで上がれば、全日本の強化に入る。でも、それも全日本の強化に入って海外遠征に行っても優勝者の打ち込み相手になるだけ。それがチャンピオンになると国際大会に選ばれる可能性が出てくる。だから、チャンピオンにならなきゃいけないんだよ。」と。そうすると、子供たちは全国の舞台に立つことが当たり前でそこから更に“優勝するんだ”と本気で狙う選手に変わっていきます。そこ(メンタル)がおそらく違うんじゃないかな。公立のチームは毎年強いチームなんか作れないので、10年、15年に一度狙えるチームができるかどうかという苦しい中で、やっと掴んだチャンス。だけど、子供たちはそこで勝つ力があったとしても、それを出し切れずに終わるケースが多いんですよ。だから、全国の舞台を見ていない子供たちに言葉で先行体験させていくことが大変ですね。実力をつけることが出来ても、勝ちきれない部分というのは、自分の心が揺れ動くことを想定できているかどうかです。同じ人間が戦っても、メンタル面が安定しないと実力は出せないですからね。スキルの話もたくさんできるんですけれど、どのスポーツでも共通するところと言ったらメンタル面の安定というか、そういう時の心境をしっかり作っていくことです。そういうことを常に考えて、教えて、言い聞かせながら、経験を積ませてあげると本番でも実力を発揮できるんじゃないかなと思います。
―全中が終わり、3年生が引退して新チームになられましたが、どのようなチームでしょうか。
まだまだ未知ですね。正直苦しい部分もありますが、ここからどう変わっていくかは僕にも分からないし、現時点は非常に厳しいことは子供たちに伝えてあります。だから、「諦めるのは簡単はことだけど、だからこそ自分たちはこうしていかなきゃいけないんじゃないか」とは言っています。
―では、今後も全国の強豪校と対戦する機会があると思いますが、そこで勝ちきるためには何が必要だと思われますか。
現時点ではベース的な筋力の強さなど課題がたくさんありますが、その中でどれをチョイスして与えていくかですよね。心技体とありますけど、強化課題としてメンタル面・技術面・体力面の3本柱があると思うんです。いつも予定表はその3本柱で立てて、課題はその前の月に決めていますが、その中で“全国で勝つために今やるべきことは”というのを伝えています。もっと言うと、僕は世界を見ているので、世界で勝っていくために“今はこういう技をしていこう”と考えつつ指導をしています。実は、僕が今まで二十何年間やってきた技をつい数か月前に変えたんです。
―そのきっかけは何だったんですか。
いろんなものを見て、僕が学んできたことや伝えてきたことと違うと気づいたので(笑)。
―そうなんですか。確かに、時代の流れや選手の体格や性格はそれぞれ違うので、それに柔軟に対応して変化させていくことも重要なことですよね。
おっしゃる通りです。自分の経験からでしかものが言えない人だったらダメですよね。色々な子供たちの色々な境遇があるわけだから50人いたら50人の経験をさせてあげなくてはいけない。自分の経験ひとつだけではその枠に収まるはずがないので、自分も学び続けなければいけないし、何か質問された時には全て答えられるようにしていきたいです。
柔道の話ですと、昔は自分の得意技をまず作って技をあまり教えないことを信条にしていたのですが、今は真逆です。いろんな技を教えます。例えば右組みだけど左の技を教えて左で組ませたりとか。世界と戦っていく中で、日本人選手の良さと外国人選手の良さをミックスさせていかなくてはいけないから、伝統を守るだけでは対応できないし、それに合わせて指導方法も変わってきました。そのためには、シニア選手の試合をよく見て、タイミングや掛け方を学ぶし、いろんな講習会にも参加したり、一流選手に聞いたりもします。
―選手に色々な技を指導して、身につけなければいけない量が増えることで技の質が落ちてしまうような気もするのですが、その辺のバランスはどのように取られているのでしょうか。
長期的な展望で5年後10年後にできれば良い練習と、今、目の前の戦いに使うためにやる練習を分けているつもりです。シニアで戦った時に使えた方が良い技というのは毎日3回、5回ぐらいでそんなに厚く練習しないで、それ以外の今主軸にしている技だったら50本100本練習します。長期的なものというのは、とりあえずそういう体の動きをさせておくだけで、自分が必要になった時にそれを磨けるようにしておくんです。でも、そういう形を全くとったことがない子は、その技を習得するのには時間がかかります。だから、「今すぐは使わなくてもいい。でも必ずあなたの引き出しの中で大事なものになるから、ちゃんとやっておいて必要になった時にその引き出しを開けなさい。」と伝えています。
ジュニアの強化というのは、そこでの結果を求める部分とそこから先の伸びしろをちゃんと作ってあげることの2つを考えてあげなくてはいけないと思うんですよね。それがメンタルだったり、スキルだったりするんですけど。そこをちゃんと考えてあげます。
―では最後になりましたが、長期的な展望として、真田監督の柔道の目標というのがあれば教えてください。
今、実践してるんですけれど、指導者になってほしいですね。教え子には選手をたくさんやったら、指導者になってもらい、今後は共に子供たちを育てたいです。種を蒔き、芽をだし、花を咲かせ、そしてまたその種を植えると、永久にそれが広がっていくわけじゃないですか。今、小学校の指導員になった教え子たちがいて、彼らが指導した小学生がぐっと伸びてきているんです。個人戦では毎年のように全国大会に出場し、先日は神奈川県選抜選手に2名が選ばれ、神奈川県が全国で準優勝しました。神奈川県の代表監督は私の教え子でした。うれしいですね。そうやって素晴らしい指導者が更に一人、また一人と増えて、将来的にみんなで自分の子供を連れてきて一緒に汗を流すように繋がっていき、僕が指導から退いてもその流れがずっと脈々と続いていってほしいです。
―真田監督のお話からは本当に柔道を愛していらっしゃるのが伝わってきました。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

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