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東海大学 バスケットボール部
陸川 章監督 インタビュー<前編>

トップ指導者&選手特集71回目と72回目の記事では、東海大学バスケットボール部を率いる陸川章監督のインタビューをお届けします。前編では3年ぶり5回目となるリーグ優勝を果たした今シーズンを振り返っていただきながら様々なお話しを伺いました。

取材日2018年11月22日

―リーグ戦優勝、本当におめでとうございます。今の率直な感想をお聞かせください。
ありがとうございます。そうですね。今回は相当ハードスケジュールな日程だったのですが、選手たち一人一人が本当に成長したなと感じています。チームの層が厚くなったと言いますか、全員の気持ちが一つになって戦えたということが優勝に繋がったのかなと思います。
―昨年は東海大としてリーグ戦9位という悔しいシーズンになったかと思いますが、今年はどんな気持ちで臨んでいたのでしょうか?
去年に関しては、精一杯チャレンジした結果ですので「結果をしっかり受けとめよう」と、リーグが終わった後に選手たちには話をしました。しかし、あの悔しさや経験が今年の勝利に活きていると思うのです。また、今年はリーグ戦前の大事な時期である7月から8月にかけて、主力5人がチームを離れることが決まっていました。平岩玄、西田優大、大倉颯太、八村阿蓮がアジア・パシフィックユニバーシティーチャレンジの日本代表(U-22)に、津屋一球はデフバスケットボールの日本代表に選出され、チームにいませんでした。
そしてこの主力がいない時期をどうするか考えた上で、彼らがチームを離れる前の6月あたりに、戦術の練習を先に終わらせたのです。本来であればこの時期にきちんとファンダメンタルを鍛えるのですが、5人がチームにいる時がそこしかなかったので、先に戦術練習をひたすら行ない、彼らが代表へ行っている間残ったメンバーは、ファンダメンタルを徹底的に鍛え上げました。今振り返ってみればそのことが、チームの層が厚くなった一つの要因かなと思っています。
―今年から1部のチーム数が増え、(昨年は10チーム、今年から12チームに変更)同時に試合数も増える厳しい日程となりましたが、その点は如何でしたか?
そうですね。特に9月の日程は厳しかったですね。夏休みということで水曜日と木曜日に試合が開催されたり、また途中で天皇杯の予選が入りまして、9月はリーグ戦だけで12試合、天皇杯も合わせると13試合戦ったと思います。ただ、この日程に関しては全てのチームが同じ条件でしたし、私のチームはU-22の代表で抜けたメンバー以外でも戦えるように、タイムシェア出来るチームを作っていましたので、それが上手く機能し、なんとか厳しい日程でも戦いきることが出来ました。疲労は当然ありましたが、全員大きな怪我もなく無事にリーグを終えることが出来たと思っています。
―タイムシェアについてお伺いしますが、全員でプレイタイムをシェアすることは難しくはありませんでしたか?
とても難しかったです(笑)ただし、この戦い方はリーグ戦だから出来ることだと思います。私が考えるリーグ戦とは一試合、一試合を戦う中で選手とチームが成長していく場だと捉えています。当然一戦必勝で勝たなければいけないのですが、選手にとっては試合の中で経験すること全てに意味があります。私としてもそのチャレンジの場を全ての選手にどんどん与えていこうと考えていましたので、点差が離れていれば、今までプレイタイムのなかった選手にも「失敗しても良いから思い切ってチャレンジしなさい」という気持ちでコートに送り出していました。その結果、危ない場面も何度かありましたけれど(笑)それもまた経験です。リードしている状態から追い上げられていく経験を、リーグ戦で選手たちが積めたことは大きな財産だと思っています。
選手の起用に関しては周囲から「考えた方が良いのではないか」と相当言われたこともありますが、やはりこのゲームの中でしか体感出来ない緊張感や経験を選手たちに味わわせてあげたかったのです。また、その状況の中でどういうプレイが出来たのかというところは、我々コーチ陣にとって大事な判断材料になりますので、選手一人一人の課題を見つけるためにも試合に出場する機会をあげたいなと思っていました。ただし、これはリーグ戦での戦い方なので、トーナメントになるとまた話は変わってきますよ(笑)
―長期間戦うリーグ戦だからこその起用法だったわけですね。ところで選手を交代させる時はどんなところを意識されているのでしょうか?
選手たちのプレイを見ていて、やらなければいけないことが出来ていない時は、疲れているのか、集中力がなくなっているのかのどちらかだと思います。ですので、そういう時は思い切って代えるようにしています。逆に良い流れで集中力も高くプレイしている時は、不思議と疲れないものなので、そのまま10分近くプレイをさせます。要は選手自身が考えていることと、行動がマッチしているかが、選手交代において大切な要素になるかと思います。たまには全員を一気に代えたくなる時もありますが(笑)やはり試合の流れや選手がプレイをどのように遂行しているのか、という部分に着目して判断をしています。
また、交代したメンバーに関してもミスが続いたり「あ、この子は空回りしているな」と感じたら1分くらいでベンチに戻したりしますので、精神的な部分を見てあげることが大事かと思います。しかし、そのミスが積極的なプレイを選択した上で起きたものであれば、その選手にはまだ時間を与えても良いと考えています。その選手がどんな気持ちになっているのかを見てあげる。例えばミスに対して物凄く落ち込んでいたり、ハイになってしまっていたら少し休ませようか、と選手一人一人がそれぞれ違いますので、そこは常に気を付けて見ている部分ですね。
―リーグ戦は序盤こそ苦しい展開が続きましたが、6戦目からスタートに大倉選手と八村選手が入りガラリと雰囲気が変わりましたね。あの判断はどのような理由からだったのでしょうか?
実は大倉くんと八村くんの二人は、私が今シーズンを戦う上で思い描いていた構想メンバーに最初から入っていたのです。しかし、先ほども申し上げたように彼ら1年生二人はU-22代表の招集もあり、あまり一緒にチーム練習が出来ませんでした。本当はスタートとして起用するべきではないかという気持ちもどこかにありましたが、準備期間がありませんでしたので、リーグ戦はバックアップとしてスタートさせることにしたのです。もちろん経験を積ませようとプレイタイムはどんどん与えるつもりでしたが、3節に白鴎さんに負け、4節目は大東文化さんに負けました。この負けが続いた段階で私は、最初に思い描いた構想に戻そうと決断したのです。今年の半期をかけて、このメンバーが良いだろうと決めていたメンバーで戦おうと。しかし、それまでレギュラーだった4年生の内田旦人と鶴田美勇士にはきちんと話をしました。「これからはバックアップとして皆を助けてやって欲しい。特に大倉と八村は1年生だから失敗することもあるだろう。上手くいかない時はお前たちが出て、チームを盛り上げたり、また、相手の勢いを抑えて欲しいんだ」と。すると二人は快く「分かりました!」と言ってくれたのです。今年の4年生はなんていうのでしょうか、感情をむき出しにするような子たちではないのですが、芯がしっかりしていて、本当に全員がチーム想いなのです。スタートに1年生が二人入りましたが、逆に言うと今年は本当にバックアップが良い仕事をしてくれました。優勝出来たのは4年生の力が大きかったと思います。
―今シーズンの試合に対してお聞かせいただきたいのですが、陸川監督にとって印象に残っている試合はどの試合になりますか?
そうですね。転機となった試合は何試合かあります。3節4節と最初の方で連敗をしまして、そこからスターターを代えた。それから3連勝することが出来ましたが、その直後の9月16日、天皇杯1次ラウンドで黒田電気さんと競り合いの結果83-78で負けました。その試合がいけなかった。我々がどういうチームなのかという意識が全くなく、フワフワした気持ちで試合に入ってしまったのです。当然ディフェンスは機能せず、オフェンスばかり一生懸命になって、ベンチにも一体感がない。負けて当然の内容だったと思います。この試合は仙台への遠征だったのですが、試合に負けた翌日、予定していた試合が無くなったので帰ってきました。そして試合の代わりにもう一度自分たちはどういうチームなのか、ということを魂のミーティングで確認し合い、魂のこもった練習をしました。選手たちも「一試合したくらい疲れました」と言っていた程ハードな練習だったのですが、あの練習のお陰で原点に戻れたかなと思っています。やはり我々はディフェンスのチームだということをチーム全員が再認識出来た練習でした。この試合が一つ目の転機となった試合で今思うと、あの時に黒田電気さんに負けて良かったと思いますね。
―9月の時点でそのようなことがあったのですね。
はい。その後はチームが一つとなって戦うことが出来て、連勝と同時にリーグ優勝の可能性も出てきました。そして13節14節と白鴎大学さんのホームゲームで二連戦があったのですが、その試合もまた忘れられない試合になったのです。白鴎大学さんには一度目の対戦で負けていましたので、同じ相手に二敗はしたくありませんでした。試合は第1ピリオドから我々がリードする形で進めることが出来たのですが、第4ピリオドに入ると相手の勢いが強くなり、徐々に点差が縮まって、なんと残り時間55秒で同点になってしまったのです。
更にラスト20秒を切ったところで白鴎さんに逆転されてしまい、その試合は負け試合となりました。しかし不思議なもので翌日の筑波大学さんとの試合では真逆のことが起きたのです。この日は我々が37分間、リードを奪われ負けていました。確か第3ピリオドが終わった時点で10点差開いていたと思うのですが、タイムアウトで皆には「大坂なおみでいくよ!」と話をしたのを覚えています。
―テニスプレイヤーの“大坂なおみ”さんですか?
はい。皆はポカンとしていましたけれど「今は我慢する時間だ」ということを、全米オープンで優勝された大坂なおみさんのインタビューを私流にアレンジして皆に伝えたのです。いつもそうやって何か閃いた時に話してしまうんですよ(笑)笑っている選手もいましたけれど「よし、皆!大坂なおみだ!我慢だぞ!」と言って送り出したら、本当に全員が我慢強くプレイしてくれて、今度は残りわずかな時間帯で逆転することが出来たのです。最初はかなり点差が開いた試合だったものが、我慢強く戦うことで最終的に逆転勝利をおさめることが出来た。前日の白鴎さんとの試合を含めて、この二試合は全く違う展開の試合で勝利と敗北を経験しました。その時に「やはり勝負は最後まで分からないな」ということを感じましたね。
―二日間でかなり中身の濃い試合を体験されたのですね。
そうなんです(笑)更に、ホームゲームで迎えた青山学院大学さんとの試合も、最終節の一つ前、神奈川大学さんとの試合も素晴らしい経験が出来た試合でした。青学さんとの試合は残り5分で約20点差開いていて、我々のホームゲームだったこともあり、最後の方に選手を入れ替えました。一人でも多くの選手を出場させたかったのですが、メンバーチェンジした途端、青学さんの物凄いアタックで一気に10点差に詰められてしまいました。その後も青学さんの勢いが止まらずに、急いでメンバーを戻したのですが、あわやでしたね。あの試合は私の中で想定外のことが起きた試合でした。しかし、その出来事を経験したことで、今は想定内になりました。ですから残り5分で例え20点差離れていようとも、それは勝敗には関係ないのだと、最後まで勝負は分からないという風に考えています。
また、神大さんに敗北した試合ですが、これは本当に神大さんが素晴らしかった。優勝争いのためにも負けられない試合だったのですが、神大さんの素晴らしいディフェンス、素晴らしいオフェンス、確率、意識の高さが我々よりも勝っていました。この試合を通して「こう戦うべきだ」という気持ちを神大さんから学ばせてもらえた試合でした。
そして最終節、日本大学さんとの試合はここで負けたら優勝はなくなる試合でしたので、チーム全員が「勝ち切るんだ」という気持ちの通り戦ってくれたなと思います。特に4年生が全員素晴らしかった。秋山皓太と内田旦人が大事なところでスリーポイントを決めてくれましたし、鶴田美勇士はダンクを決め、松浦翔太はユーロステップを決めてくれました。4年生一人一人が本当にチームを支えてくれて、準備、努力をし続けた結果がこのようにあらわれるのだなと思った試合でしたね。
―4年生の今シーズンにかける情熱は本当に素晴らしかったですね。
特にキャプテンの内田が一生懸命やってくれました。彼はリーグ戦でもプレイタイムがどんどん短くなっていきましたけれど、決して腐らず、ベンチから「ディフェンスだ!」と誰よりも声を出していました。コートに出た時もその姿勢は変わらずに声を掛け続けていましたし、良い意味で自己犠牲の塊のような選手です。自分のエゴは後回しで、“チームを勝たせるために”という気持ち一心で真のキャプテンになったなと思います。だからこそインカレでは内田を始め、一年間チームを支えてくれた4年生たちを男にしたいなと思っています。

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