相模原市立相陽中学校 軟式野球部
内藤 博洋監督 インタビュー<後編>

トップ指導者&選手特集80回目と81回目の記事では、相模原市立相陽中学軟式野球部を率いる内藤博洋監督のロングインタビューをお送りします。後編となる81回目では、チーム作りに対する考え方と、そのチーム作りに必要となる具体的な練習方法などを教えていただきました。

取材日2019年7月17日

―続いて野球の指導についてお伺いします。内藤先生にとっての理想のチーム像はどんなチームでしょうか?また、チーム作りにおいて戦術面など意識しているテーマはあるのでしょうか?
チーム作りにおいて、いつも心がけていることは、毎年良いチームを作ろうと思っていることです。その良いチームがどんなチームなのかというと、例えば常に全力疾走をするとか、元気いっぱいであったり、はきはきした返事をしたりだとか、野球や仲間、部活に対する姿勢が真剣であるチームのことを指しています。こういったチームは、努力をすることで毎年作れると私は考えていて、そこがチーム作りの土台になっています。打つ、投げる、走るという技術は置いておいて、見ていて気持ちが良いなと思えるチームを作らなければいけないと思いますね。そんなチームを作れば、見ていただく方に「野球って良いな、気持ちいいな」と感じていただける機会にもなりますし、そう思って貰えることが私たちが野球をやっている一つの理由でもありますので。しかし、それだけでは全国大会へは行けず、青春チームとして終わってしまいます。やはり上に勝ち上がっていくためには、その良いチーム+何かが必要になります。
―+何か、ですか?
はい。私はやはり、打ち勝つバッティング力と相手バッターを抑え込む強力なバッテリー力が勝負に勝つためには必要だと思っています。子供たちにもよく「全国へ行くために必要な三か条は、①良いチーム②打ち勝つバッティング③相手を抑え込むバッテリー力だ」と言い続けています。
―バッティングというのは先ほど話にあがった武内先生、佐相先生、水野先生率いるライバル校と戦うために磨かれた部分ですよね。具体的にはどのような練習をされていらっしゃるのでしょうか?
やはりどれだけ素晴らしいスイングをしても、どれだけ力があるバッターだったとしても、ボールにバットが当たらなければ話になりません。ボールとバットをきちんと当てること、私たちはこのことをアジャスト力と言っているのですが、このアジャスト力を高めるために、素振りではなく実際にボールを打つ練習を多く取り入れています。また、ただ単にボールにバットを当てれば、それがアジャスト出来ているということではなくて、タイミングを合わせることも大事になってきます。そこで私たちは、バッティングの時間間隔を決めて打つ練習もしています。打者が打ってから次のボールが来るまで平均すると約6秒くらいなのですが、それを狭めて5秒、4秒と設定して打たせます。早い時は3秒とかもやりますね。
―かなり早いタイミングで打つのですね。
私が思うに中学生と高校生の大きな違いは、間が長いところにあるのではないかと思っています。例えば何か簡単な質問をしたとしても、返事が返ってくるまでに時間がかかります。間の使い方がまだ分かっていないんですよね。だから彼らの時間の流れ方というか、間の使い方を大人と同じ時間の流し方にすることがとても大切だなと考えていて、その発想から4秒~5秒の感覚で1球打つというような練習を行なうようにしました。
また、リズムを身につけるための練習なのですが、ピッチャーがボールを離してから、キャッチャーミットにボールが収まるまでの時間に、声を出すように指示しています。特に一年生は練習をなんとなく見るのではなく、そういうことを意識的に考えながら見るように伝えています。要するにゴルフの「チャー・シュー・メン!」と同じです(笑)
―スイングリズムのことでしょうか?
あ、ご存知ないですか?昭和のおじさんたちは「チャー・シュー・メン!」と言葉にしながらスイングしていたんですよ (笑)不思議なことに他の言葉ではなくて「チャー・シュー・メン!」が一番良いらしくて、皆「チャー・シュー・メン!」で打っていたという(笑)なぜそれが良いかと言うとゴルフのスイングが三拍子だからなのです。実は野球もピッチャーがボールを投げてバッターのところに収まるまで、ゴルフのスイングと同様に三拍子になっています。だからバッティングは「イチッニッサンッ!」という風に声を出しながら打たせてあげることが、子供たちにとっては一番理解しやすい方法なのです。ダンスとかと一緒ですよね。声に合わせて「タン、タタ、タン!」とか、色んなリズムを身体に身につけさせてあげる。すると、どんなタイミングでも打てるようになります。そうやってリズム感を身につけていくこと、更にアジャストするスキルを組み合わせていくことで、自然とバッティングが良くなってくると考え、この10年間くらいは取り組んできています。
―バッティングに対して独特な練習方法を取り入れられているのですね。また、公立の中学校ですと、練習環境や時間などで厳しい面もあるかと思います。内藤先生はどのような工夫をされているのでしょうか?
相模原の部活動の指針として基本的に月曜日を休み、更に土曜と日曜日はどちらかを休みにしなくてはいけません。また学校の下校時刻は18時なので、日々の練習時間も多い方ではないと思います。私立の学校さんと比べてしまうと環境としては難しいですが、だからこそ短い練習時間で如何に効率良く練習するかということが大切です。先ほどもお話ししましたが、子供たちの時間の流れを早くしていくことも、結果としてそこに繋がっていくのではないかなと思っています。また、トレーニング面に関しても特に器具があるわけではないので、練習後に腕立て伏せや腹筋をはじめとした体力づくりのメニューを行なっています。大切なことは、それを必ず継続することだと考えていて、今日は雨だからとか、ピッチャーが沢山投げたからとか言い訳をせずに、どんな状況であっても必ず基礎的なトレーニングを行なって、練習を終えるようにしています。
―継続することが大切ということなのですね。
そうですね。やりたくない時の言い訳は、一個見つけるとどんどん出てきてしまうんです。だからそこは言い訳をせずに、例えどんな状況であってもトレーニングをすることが重要だと思います。続けることで、効果が出てくると思いますので。うちの子供たちはユニフォームを脱ぐと北斗の拳のケンシロウみたいな子が沢山いるんですよ(笑)その身体の変化を見て、やはりトレーニングを継続することで、変わってくるのだなと感じましたね。また身体が締まりコアが強くなることで、打球の速度も変わりましたし、ピッチャーの投げる球にも変化があらわれました。
―練習への工夫と言えば内藤先生の考案で「野球カード」を作られたそうですね。どのような経緯で「野球カード」は作られたのですか?
あのカードゲームは、武内先生との試合に影響されて考えたものなのです。内出中学校と試合をすると、どうしてか僕らの作戦が読まれていて、負けてしまうことが多くありました。例えば僕らが守備の時、ストライクを投げるカウントで武内先生にエンドランを仕掛けられたり、逆に武内先生がエンドランを仕掛けてきそうなタイミングを見計らって、私がボールを投げるようにサインを出すと、先生は仕掛けてこないとか…(笑)本当にこちらの采配が筒抜けというか、そういった駆け引きでいつも武内先生には苦しめられていましたね。
―武内先生に作戦が読まれていたのですね。
そうなんです。武内先生には私たちのやりたいことが分かっていたのでしょうね。何をやっても不思議なくらいにこちらの裏をつかれるので、当時の私としては「これってなんでなんだ?」と悩みました。それで武内先生の野球観、勝負勘が鍵になっていると思い、私もその野球観を鍛えるためにこのカードゲームを考えたのです。野球観を鍛えて、相手の心理を読む技術を身につけるためにですね、ちょっとした子供だましみたいなものなのですが(笑)最初は先生方との飲み会で遊ぶ程度だったのですが、ある企業さんがカードゲームにしてくれて、今では子供たちも遊んでいます。
―ゲーム感覚で野球が出来て面白いでしょうね。
そうですね。遠征に行く時も、子供たちはバスの中でずっと遊んでいたりしますね。野球観を鍛えると、自分で考える力にも繋がりますし、野球に遊びを入れることは大事なことだと思います。このカードゲームだけでなく、普段の練習からゴムボールを使ったメニューだったりと、日々の部活動に遊びの要素は取り入れるようにしています。
―最後の質問になりますが、内藤先生の今後の目標をお聞かせ下さい。
私にはまだ成し遂げていない日本一という目標がありますので、それを達成するために、日々子供たちと一緒にこれからも努力していきたいと思っています。
―相陽中学校野球部の今後のご活躍が益々楽しみになりました。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。

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