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新井道場
鈴木 達也氏 インタビュー

新井道場の指導者であり、さいたま市立田島中学校柔道部のコーチも務める鈴木達也氏にインタビューを行ないました。
鈴木氏が柔道を始めたきっかけから、指導者として新井道場を継がれた経緯、小中学生を指導する上で大事にしている信念、今後の新井道場の目標など、貴重なお話を沢山語っていただきました。

取材日2020年3月5日

―まずは鈴木先生が柔道を始めたきっかけを教えていただけますか?
実は小学生の頃はサッカーをやっていたんですよ。ですが、その頃から身体が大きかったので一向に上手くならなくて…全然でした(笑)走るのも嫌いで、運動神経が良い方ではなかったんですよね。
そして指を怪我した時に接骨院に行ったのですが、その時に「柔道やらないか?」と言われたのです。それがこの新井道場の先代である新井先生との出会いでした。そこで柔道に興味を持ったのですが、両親からは「まず区切りの良い所まで、小学校の6年間はサッカーを続けなさい」と言われました。本音を言うと既に興味は薄かったですが、嫌であっても辛くてもやり続けるように諭され、下手ながらに小学校6年間はサッカーを続けました。
当時ジャンプを読んでいたのですが、その中でもヒーローであったり戦うこととか、男らしい強さに憧れを持っていて、漠然と強くなりたいという願望があったのです。そういう憧れもあり、中学校入学時にまずは仮入部で柔道をやってみたのですが、やっぱり面白そうだなと思い、そこから本格的に始めました。
―では道場ではなく、学校の部活動から柔道を始められたのですね?
はい。入部してから数ヵ月経った頃、新井道場に入門しました。
―どうして新井道場に入門されたのですか?
新井道場と田島中学校が学区内にあったということもあり、昔から関係が濃かったのです。元々、新井道場の子は田島中学校に進学するような感じだったので。
そもそも新井道場が設立されたきっかけというのが、当時の田島中学校の先生や柔道部員たちから「柔道場を作ってもらえないか?」という話があり、そこで新井先生が「じゃあ柔道場やってみよう」ということで始まりました。そこから地域スポーツと部活動が一体となって地元を盛り上げるために、当時田島中学校の先生たちと一丸となっていたようです。
―そういう経緯があったのですね。中学からは柔道一筋で選手として続けていらしたわけですが、どのあたりで指導者への気持ちが芽生えてきたのでしょうか?
私個人は選手として全国的に大きな実績を残せなかったので…正直言うとやり残したという気持ちがあります。それと同時に、全国に行って勝つことの難しさをとても実感しました。それでもっと柔道に携わっていたいという思いが強くなっていきました。当初はちょっと中学生の相手をして、汗をかいて、そのくらいでいいかなと思っていたんですけどね。こんな風にやるつもりはなかったんですけど…。
―その気持ちが変わられたのは何故でしょうか?
本格的に変わったのは、先代が亡くなられた頃ですね。私も道場にいた時だったのですが、稽古中に意識を失って倒れまして…。病院までは私も付き添ったのですが、その時点で意識が回復しなかったので、恐らくこのまま社会復帰は難しいだろうなと思いました。翌日は子供たちに「みんなにできることは元気に稽古をして、ここで新井先生をお迎えしてあげる事なんだ」と伝え、道場の稽古を続けました。新井先生は柔道への想いがとても強い方だったので…。そして、新井先生は倒れた三日後に亡くなられました。ご遺体はみんなで稽古をしている時にお迎えして、そのまま道場で一晩過ごしました。
その後、道場の存続についてみんなで頑張っていこうと話をしていたのですが、お恥ずかしい話、同じ門人の方から「潰してしまった方がいい」という声も貰いました。ですが私は反発心が強いのか、そういった声があったことで逆に力になったのです。そういう風に言われると絶対に強くなってやろう、なにくそ!という感じでしたね(笑)
―そこから新たな新井道場がスタートを切ったのですね。
そうですね。先代の頃は小学生が非常に強くて全国大会にも団体戦で5回出場しているのですが、一方の私は小学生を見られる時間が少なく…。だったら上手い形で見られるのは中学生なんじゃないかと思い、中学生の強化を始めました。まずは育てて高校に送り出すところまで頑張ってみようと、それからはいろんな形を試みて…そんなこんなで今年10年経ちました。実感的には何とか10年続いたという感じですね。まぁ皆さんそうだとは思いますが、ここまで本当に苦労が多くて…なんとかしないと、このまま辞めたら借金しか残らないなって。そういう数多くの必死な思いが、結果的に続けていく大きな力となりました。心労はありますけどね(笑)
―現在、新井道場の生徒さんは何名程いらっしゃるのですか?
大体50名ですね。変わらず50名くらいですっと続いています。
あとうちの傾向とすると、小学生の人数が減ってきました。以前までは小学生が40名、中学生が10名くらいの割合だったのですが…。本来は全体のバランスとしてピラミッド型になるような感じで小学生の方が多く居てほしいのですが、うちは中学生の方が多くて、小学生がちょっと少ないんです。ここのバランスが非常に難しいですね。
―今までのお話の中でも、指導者になる前から理想像のようなものがあったように感じたのですが、実際に指導者になられてみてギャップは感じましたか?
そうですね、私の理想像みたいなものがあったのですが、実際は年々変化しています。以前はかなり厳しくしていたので、昔の生徒には「鈴木先生、昔と比べるとびっくりするくらい優しくなりましたね」と言われます(笑)
私がちゃんと指導者になろうと決意したのが30歳の頃だったのですが、その始めた当時、非常に優秀な富沢裕一という選手がいたんですね。当時の私はその子とマンツーマンで指導をして、全国中学校大会で優勝に導くことができました。その2年後にも優秀な生徒がいて、その子ともマンツーマンで指導をしていた結果、やはり全国大会で準優勝まで導くことができたのです。そうして一人の個を強くするというのはある程度鍛えればできる、というやり方を自分の中で確立してきました。
ですが、私の首や膝が悪かったりして…あまりそういう指導法を続けることができなくなっていきました。その時に改めて考え、このままでは本当の意味で指導して強くなっていないのでは、このままでは全体を強くすることは一向にできない、という風に思ったのです。そこから色々とやり方を変えていったことが、結果的にとても大きかったです。
特にその中でも、生徒に教わったことが大きかったです。というのも、やはり優秀な選手というのは私たちの想像を上回ってくれるんですよ。それを強く感じたのが、今は東海大学に進学した富沢佳奈という選手でした。とにかく努力し続けるということの大切さとか、自分が何か想いを持って行動するということの大事な部分を彼女に教えてもらいました。子供たちにも「想いを持って取り組まないと絶対に強くならないし、何も成長しない。成長の速度はどんどん下がってしまう」と、よく言っています。そういうことがとても勉強になりました。
それと、私たち指導者が子供たちにできる技術指導とか練習メニューなんていうのは、多分皆さんやっている内容はあんまり変わらないんだと思います。ただ、そこへの意識付けが指導者として一番大事な役割なのだということを、この4・5年で勉強させてもらいました。
―ということは、新井道場が小中学生を指導する中で大事にしているのもそういった部分なのでしょうか?
そうですね。ですが、まずは個性を大事にするということが一番です。中学校や各道場さんから上がってきたり、背が高い子もいたり、小さい子、すばしっこい子、身体が大きい子、いっぱいいるので。全員がこれをやりなさい、ということはしないようにしています。全員が同じ技、同じ形ということをやってしまうと、その時は良くても高校や大学に進んだ時に自分で何かを考えたり、面白みの持てない選手になってしまうのではないかと私は思っています。
特に中学生たちには一番大切な事として、指導者に依存するな、と強く言っています。自立した選手になれるように、自分の個性を大事にして得意技を磨きなさいと。中学生だからこそ今は欠点を埋めるより、良い所を伸ばしていく時期なのかなと思っています。なので、何でもかんでもダメだとはあまり言わないようしています。
―鈴木先生はさいたま市立田島中学校柔道部のコーチも務めていらっしゃいますが、田島中学校内で練習をすることもあるのでしょうか?
もちろんあります。田島中学校の先生が監督として顧問をされていて、私が外部コーチとしてやっています。練習のメニューなんかは私が全部考えているので、中学校の部活動にも毎日赴いています。私の考えとして、学校と道場が常にコミュニケーションを取れるようにしていたいんです。互いが全く関わりを持たず、柔道の稽古は道場でやって、試合だけは中学校で出場するということが、私は嫌なんです。
そういうこともあって、生徒に何かあれば田島中学校の先生たちから私に連絡が入ることもあります。話を聞いたら私もすぐ学校に駆けつけたり…色んな大人の目があるところで育っていくことは子どもたちにとっても最適だと思いますし、そういう風通しのいい関係が地域みんなで子どもを育てるという意味なんじゃないかと私は考えています。なので今が理想の環境という感じですね。
―完全な外部コーチだと、学校生活が分からなかったりしますもんね。
そうですね。やっぱり学校生活が分からないと、私の前ではすごくいい子で、学校の先生には横柄な態度を取ったり、外に出たら無茶苦茶だっていうことも…そんなことがあると困るので。私はそういう二面性を持った裏表のある人間を作りたくないと思っているので、柔道だけやっていればいいのではないと伝えるようにしています。
―では鈴木先生が柔道を通して子供たちに伝えたい事、教えたい事は何でしょうか?
小学生と中学生それぞれで変わってくるのですが、小学生は厳しくするのではなく、柔道の入り口として“柔道とは”というものを楽しく理解して欲しいと思っています。他のスポーツとは違った礼節があったり、武道の部分が大きく占めていることであったりとか、まずは柔道を楽しんでもらいたいですね。
中学生になったら勝負にかける気持ちもより一層強くなりますし、専門的で厳しい世界になっていくと思います。ですが、柔道しかできない人間にはならないでほしいです。というのも実際に私が社会人になってから一番困ったのは、柔道が強いということが評価されない場所に行った時でした。ずっと柔道が強ければ偉いという世界で生きてきてしまったので、狭い視野を持つようになってしまって。例えば飲み会の席なんかで「俺柔道強かったんだよ」なんて話をしても、会話が続くのはせいぜい5分くらいなんですよね(笑)私も変なプライドを持ってしまっていたので、余計にそういうところが非常に苦労したんですよ。だから柔道しかできない人間は作りたくないなと思っています。社会に出た時に誰からも応援される人間になるために、勉強もきちんとしなくてはいけないし、学校生活で先生たちに会ったら大きな挨拶をしなくてはいけない。そういう謙虚な姿勢を持ち続けなさい、ということを子供たちにはずっと伝えています。
私は柔道の魅力に入りこんでしまって。大変な思いもいっぱいしたので、子供たちには私と同じようになってほしくないんです。ですが、やっぱり柔道面白いんですよ。自分が選手としてやっている時も面白かったんですけど、今めちゃくちゃ面白いんですよね。この歳になっても青春させてもらって、いつも泣いて笑っているんです…特に泣いてばかりですけど。負けたら悔しくて泣いて、全国優勝すればとても嬉しいし、嬉しくて泣いて。もう本当に楽しいです!子供たちがこんな柔道バカになったら嫌だなと思っています(笑)
―鈴木先生にとっての“柔道とは”という感じですね!
そうですね、柔道楽しすぎちゃいますね!!
―一番楽しいと思う部分はどこにありますか?
思う部分は人それぞれあると思いますが、私はやっぱり勝つところにあると思います。勝った時が一番嬉しいんですよね。今は生徒それぞれのレベルに合わせてやっているので、全国決めたら嬉しいと思う子もいれば、関東決めたら嬉しいという子もいるので、その子に合わせた喜びがありますね。
―それでは、新井道場のこれからの目標を教えてください。
新井道場には色んな所から選手が集まって来てくれているので、まずはその中学校や道場の先生方からお預かりした子供たちをしっかり育てていきたいと思っています。そして、来てくれた子たちが道場内で人間関係に悩むことのない環境を作ってあげることです。勝ち負けがあったり、柔道できつい事ってどうしてもあると思うのですが、せめてそれ以外の部分で嫌な思いをさせないようにしてあげたいです。
あとですね、田島中学校はもう7・8年くらい全国中学校大会に団体戦で出られていないんです。なので今年こそは全国中学校大会に団体戦で出場して、日本一になることを大きな目標にしています。男子は埼玉栄の壁が非常に大きいので、なんとか突破して埼玉栄が一強じゃないというところを見せたいのですが…。特に埼玉では全国中学校大会に出ることの難しさを感じています。
道場として日本一になるという大きな目標は一番に掲げているのですが、元々はここが潰れるかどうかということを乗り越えてのことなので(笑)ここまで35年続いていますので、亡くなられた新井先生の分も、長く続けたいなという思いですね。
―ここまで苦労が多かったからこそ、新井道場一丸となりという感じですね。
そうですね、私一人だと全然できないので。特に妻は私の一歩二歩後ろに隠れてやってくれているのですが、今の実績とか活躍というのは妻の指導が非常に大きく影響していると思います。子供たちが私に言いにくいことを妻が聞き出してサポートしたり、小学生の方も凄く上手に指導してくれています。監督席に着くのも怒るのも私なので、子供たちの目は私に厳しいですが(笑)預かっている生徒たちの世話をするのもそうですし、強化など継続し続けられているのは、この妻あってのことだと思います。妻がいなくなったら多分続かないですね。まぁお互い未熟ですから、二人で一人前だと思っています(笑)お互いでなんとかバランスを取っている感じですね。
妻もそうですが、新井道場はみんなが家族のような関係でやっています。保護者も含め、普段から色んなことを気軽に話しています。妻もいて、保護者もいて、若いコーチもいて…みんなで新井道場を守っているという感覚が大きいです。
―とても素敵な関係ですね。今後の新井道場と鈴木先生の更なるご活躍をお祈りしています。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。

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