トップ指導者&選手特集

相模原市立相陽中学校 軟式野球部
内藤 博洋監督 インタビュー<前編>

トップ指導者&選手特集80回目と81回目の記事では、相模原市立相陽中学軟式野球部を率いる内藤博洋監督のロングインタビューをお送りします。前編となる80回目では、内藤先生が指導者を志した理由や、中学生を指導する上で気を付けている点、指導者としてのやりがいなどを語っていただきました。

取材日2019年7月17日

―内藤先生と野球との出会いをお聞かせください。
私は小学生の時ですけれど人より身体が小さく病気がちな子供でした。そんな時に兄が少年野球チームに入り野球をやり始めたことがきっかけで、私も体力づくりを兼ねて野球を始めることにしたのです。確か小学校三年生の終わりだったので、実質小学校四年生から地元の少年野球チームに入り、野球を始めました。
―どうして指導者になろうと思われたのですか?
私が野球の指導者を目指そうと思った時期は、中学校二年生か三年生の時だったと思います。その当時、プロ野球選手を目指すのか、それとも学校の先生になって部活動を指導し、全国制覇を目指すのかということを考え始めました。何故その二択だったかと言うと、中学の頃に対戦させていただいた学校の先生方がとても素晴らしい指導者の方ばかりで、この方々と戦って勝ちたいと強く思ったことがきっかけです。具体的に挙げると御社でもDVDを出されている相模原市立内出中学校の武内信治先生や、現在は県立相模原高校でご指導されている佐相眞澄先生、上溝中学校で全国優勝された水野澄雄先生という方がいらっしゃいまして、その三名が相模原では特に強いチームを率いていました。私は中学生ながらに、将来は監督になってこの先生方のチームに勝ちたいと思ったことが、指導者になりたいと考えたきっかけです。とにかく憧れの先生方で、いつか私が学校の先生になったら「先生方のようなチームを作って彼らに勝つんだ」と、夢を抱いたものです。当時も練習試合をさせていただきたくて、顧問の先生に直談判をしたのです。「武内先生や水野先生、佐相先生に練習試合をお願いしてください!」と(笑)しかし、「半年後まで埋まっているよ」と返答が返ってきて、「ええ!半年後!?」と驚いたことを覚えています (笑)そんなわけないだろうと思っていたのですが、本当にスケジュールが埋まっていましたね。
―やはり強豪校となると色んな学校から試合の申し込みが殺到するのですね。
ええ。あの時の衝撃は今でもはっきり覚えています(笑)その後私は教員になり、憧れの先生方と対戦する目標を叶えることが出来ましたが、一筋縄では勝たせてもらえませんでした。悔しいですが何度も何度も負けながら、どうすれば勝てるようになるのか真剣に考えて努力する日々が続きました。しかし、ある時をきっかけに試合に勝てるようになるのです。そうするとそこから道が開けたかのように、今までボヤっとしか思い描けなかった全国大会への道が、具体的に描けるようになりました。この先生たちに勝てれば「全国大会に出場出来るんだ」とイメージ出来るようになったのです。
―あるきっかけとはどんなきっかけだったのですか?
私は負け続けた時に、とにかく先生たちのチームを研究しました。先生の一挙手一投足に注目をして、サインを出した後に下を向いたらスクイズが多いとか、試合中の動きを見て勉強を重ねました。そこである時、先生方にはそれぞれ特徴があることに気づいたのです。佐相先生はバッティング、水野先生は走塁、武内先生は守備という風にチームのカラーがあったのです。だから私も何か一つ秀でたものを、チームカラーを出していかなければ、先生たちには勝てないのではないかと思い、真剣に考えました。そこで私は「よし!バッティング、走塁、守備、これら全てを強化しよう!」と思いつくわけです。
―ええ!全てをですか?
そうです。それからは、ピッチャーを育て、バッティングを磨き、走塁に力を注ぎました。バランス良くチームを育て上げて、ようやく前任の大沢中学校時代、確か4年目くらいだったと思うのですが、一度勝つことが出来たのです。しかし、次の試合でまた負けてしまう。そこからは勝ったり負けたりを繰り返すようになりました。何故、勝ち負けを繰り返すのかと考えた時に接戦をものに出来なかったり、僅差でのゲーム展開になってしまっていることに気づきました。そこで僅差でのゲーム展開にしないためには、バランス良く育てたチームの中でも、特にバッティングを強化しなければいけないという考えにたどり着きました。先生方を相手にコールド勝ちの試合が出来るように、打撃力を鍛えました。すると徐々に結果が出始めて、そこからは市内での連勝記録を更新することが出来たりと、ようやく先生方に負けないチームを作れるようになったと思いましたね。
―憧れだった先生方と、素晴らしいライバル関係を築かれた素敵なエピソードですね。
ライバルなんて言ったら怒られてしまいますけどね(笑)私にとっては、大先輩であり、常に先生方が良い目標を与えてくれたおかげで成長することが出来たのだと思っています。
―話は変わりますが、内藤先生は野球部の指導をされている中で、どんな瞬間にやりがいを感じますか?
そうですね、やはり子供たちと一緒に目指している目標が達成された時というのは、嬉しいですね。また、一人一人が本当の意味で野球の楽しみ方を理解し、成長していく姿を見ることが出来た時、私は指導者としてのやりがいを感じます。例えば顧問の先生に「これをやりなさい。あれをやりなさい」と言われなくても「先生、自分はこういう練習がやってみたいです」と自主的に発言出来るようになることが成長だと思っていて、私はこれが出来る人を「本当の野球の楽しみ方」を知っている人だと思っています。人に与えられた練習をこなすのではなく、自分たちに必要なことは何だろう?と自分で考えて、どうやって努力すれば良いのか真剣に考える。これが本当に野球を楽しむことなのかなと思うのです。だから生徒たちに「全国大会に行くためには、この練習が必要だと思うので、このメニューをやらせてください」と言われた時に「ああ、本当に成長したな」と感じますし、指導者になって良かったなと感じますね。
―中学生が自主的に練習メニューを提案するなんて、素晴らしいですね。しかしそれは難しいことですよね…
そうですね。もちろん入学したての一年生には難しいですけれど、早い子は二年生の冬練習辺りから自覚して発言出来るようになります。そういう時に子供たちの成長を感じることが出来ますし、嬉しいですね。
―内藤先生は前任である大沢中学校時代に全中に出場されていらっしゃいますが、初めて全国大会出場を決めた瞬間はどんなお気持ちでしたか?
出場が決まった時は「ここからが本当のスタートだ」という気持ちでした。当時の野球ノートにも「やっと、スタートを切ることが出来る」と書いていて、私は自分が中学生の頃から全国優勝を目標として頑張って来たので、“ようやく”という気持ちでしたね。全中に出場したのは確か教員になって12年目だったと思うのですが、時間がかかりましたけれど「ようやく全国優勝に向けてスタートすることが出来るぞ」という気持ちでした。
―全中は先生にとってどんな大会でしたか?
あの大会は忘れもしない大会になりましたね。私も子供たちも絶対に全国優勝出来ると信じていたのですが、二回戦、三回戦と連続で優勝候補と対戦することになったのです。二回戦は中学生ながらに140キロ近い球を投げる投手がいた沖縄の美東中学校が相手でしたが、なんとか2-1で勝つことが出来ました。しかし、その次の三回戦では仙台育英学園秀光中等教育学校と対戦し、私たちはそこで負けてしまいました。その時投げていた投手は今、楽天イーグルスで活躍している西巻選手なのですが、試合中に「ああ、この子たちは将来プロ野球選手になるのだな」という印象を受けたものです。そのような選手が全国大会にはゴロゴロといて、やはり全国優勝を果たすためには、このレベルの選手たちと戦って勝たなければいけないのだと改めて感じた、そんな大会でした。
―やはり普通の試合とは異なる雰囲気なのでしょうか?
もちろん全国大会という雰囲気は感じましたけれど、子供たちは動揺することなく落ち着いていて、試合はいつも通りの雰囲気の中で戦うことが出来ました。やはり日々鍛えてきたことが実を結んだというか、子供たちの姿を見て、普段取り組んできた練習は間違いではなかったのだなと自信を持つことが出来ました。
―内藤先生の日々のご指導の賜物だったわけですね。話は変わりますが、近年外部指導員の導入や週休制度など、部活動のあり方が変わりつつあると感じています。その点について内藤先生はどのようにお考えでしょうか?
そうですね。今、部活動に求められているものが変わってきているなと感じています、なんと例えれば良いのでしょうか、行き過ぎた部活動、入り込み過ぎた部活動が求められなくなったなと思います。教師がそれをやると「先生、行き過ぎだよ」「あの先生は何を考えているんだ」と注意をされてしまう。世論や時代の変化もあり、行き過ぎた指導よりも、適度な活動や練習量、クリーンな指導が求められていると感じています。しかし、そうなってくるとスポーツを真剣にやりたい子供は、部活動よりもクラブチームに通わなければなりません。しかしクラブに通うにはお金がかかりますし、全ての子供が受け入れられるとは限りません。そういった意味では、やはり誰でも入ることが出来て、皆が楽しめるような部活動というものを我々は考えなければいけないと思うのです。そのような環境を作るためには、ある程度組織の統制を取らざるを得なくなりますが、現在の部活動に求められることを考えると、それが難しくなってきている。世論から求められる要素と、やらなくてはいけないことのバランスが難しくなっていると感じますね。
―バランスが難しいということですね。
変わってきたなと感じる部分はそういったところですね。しかし昔から今も変わらず、部活動には部活動の良さがあると私は考えています。それは一人一人の子供たちに適した指導が出来ることではないでしょうか。“この子にはこういう指導をすれば更に成長することが出来る”と個別の指導方針をより具体的に描けることは、顧問の先生ならではのことだと思います。やはり我々は子供たちと日常生活を共にしていますので、毎日の変化や成長に触れることで、指導に対するアプローチも変わってきます。日常生活の中で良いところも悪いところも含めて寄り添いながら、一人一人を指導出来る部分が部活動の良さなのかなと思っています。
―現在の中学生は、安全面も含めてスマートフォンを持っていることが当たり前の時代となりました。多感な時期を過ごす中学生を指導する上で、内藤先生が大切にしていることがあれば、教えてください。
私は現在、相陽中学校で生徒指導主任を担当させていただいていますが、やはり日々の生活の中でスマートフォンに関するトラブルが多いなと感じますね。本当に現代の中学生は大変なことが多いと思いますが、私は何を伝えるにしても、子供の心に浸透しない指導はしないように心がけています。子供たちが如何に納得して話を聞き入れてくれるかということが大切で、これは生徒指導でも野球部での指導でも同じだと思います。大人にしたって、怒られてばかりでは聞く耳を持ちませんよね。それと同じです。まずは「君にはこんなに良いところがあるよね」と、生徒の素晴らしい部分を認めて褒めてあげるのです。「ここも駄目だ、ここも駄目だ」の後に「こんな良いところがあるね」と言っても子供の心には響きません。そのように「駄目だ」から始まるような指導をしないように気を付けています。悪いところはつい注意をしたくなりますけれど、それだけではなくて、子供たちの良いところを更に伸ばしていきたいのです。野球の指導であっても「その打球を取れるようになったのか!凄いじゃないか」と、出来るようになったことを褒めてあげる。更に「じゃあ次は、あそこのコースが取れるようになったら全国大会へ行ける選手になるな」と、より具体的なイメージを伝えてあげると子供も挑戦意欲が沸いてくるのではないかと思います。
―相手が話を聞いてくれるように指導することがポイントなのですね。
そうですね。それと私は中学生がワクワクするような単語を組み合わせて造語を作ったりすることが好きで、よく子供たちに投げかけるのです。そうすると子供たちも楽しんで取り組むようになりますね。
―それはどういう言葉になるのでしょうか?
例えば、「ボールとバットが当たる瞬間を見よう」と説明をしても子供たちにはピンときません。だけど、ボールとバットが当たる瞬間、15センチから3センチの一瞬のタイミングを理解して欲しかったので、私はこれを“勝負ゾーン”と名付けました。勝負が決まるかのような大事な瞬間だから“勝負ゾーン”(笑) 大人の目線で状況を説明するよりも、子供たちにとっては「え、何その言葉?」というような、グッと引き込まれる単語の方が理解しやすかったりするのです。ですので「勝負ゾーンを見よう」と声をかけると、生徒たちも「あ、ここが大事なんだ」と気づいてくれるようになりました。野球以外の指導でも同じで、テスト前に「今週は勝負ウィークだな。この一週間頑張ると、皆の進路も変わってくるぞ」と言うと、子供たちの集中力も変わってくるように感じますね。
―子供たちが興味を持ちやすい言葉で話をされているのですね。コミュニケーションなど具体的に気を付けていることはありますか?
子供たちとのコミュニケーションで心がけていることは、ミスをした時に「なんで決められなかった?」とか「どうしてエラーをした?」というような、ミスの原因を問いたださないように気を付けていることです。大人からすると、また同じ失敗を繰り返さないために単純に原因を知りたいだけなのですが、子供たちは「なんでエラーした?」と監督に聞かれると「分からない…だってエラーしてしまった」と混乱して頭の中が固まってしまうのです。これが子供の素直な反応なのかなとも思います。ですので、「なんで」ではなく「次はどうしたらエラーをしなくなると思う?」と問いかけをするように気を付けています。
―「どうしたら」ですか。
はい。実は先ほどの「なんで?」という言葉も、自分の気持ちを喋れる子は原因を整理して話すことが出来るのです。しかし、その場で原因を口にすることは出来ても、そこで完結してしまい、次に繋がらないことがよく見受けられます。やはり同じような失敗を繰り返さないためには原因を理解し、子供たち自身が具体的に「次はこうすれば失敗しないと思います」と、言葉に出来るようになることが大事だと思っています。そこで「What」で聞くのではなく「How」で聞くことがポイントだと、昔読んだ本に書いてあったことを思い出して、今ではそういった問いかけを実行するようにしています。
―確かに「What」ではなく「How」で考えると、何が原因で失敗したのか、次に同じことを繰り返さないためにどうしたら良いのか?と自然な流れで考えられるかもしれませんね。
そうなんです。大人は単純に失敗した理由を知りたいだけなのですけれど、子供たちにとっては「なんで?」という聞き方は攻められているように感じてしまうみたいです。また、私はグラウンドでの練習を終えたら、野球部の生徒たちとは一般の生徒と同じように話をしようと思っていて、教室内では一緒にふざけ合ったりもしています。中には生徒と“野球の話しかしない”と決められている監督さんもいると思いますが、私は部活動と日々の生活の切り替えが大切だと考えているので、練習前などに何気ない話や、私が見て感じた面白かったエピソードなどを話して積極的に生徒たちとコミュニケーションを取るようにしています。
後編に続く

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