フリーライター 青木 美帆氏
フリーライター 青木 美帆氏
フリーライター
青木 美帆氏 
インタビュー
<後編>

インタビュー前編はこちら

ティアンドエイチプレゼンツ~スポーツ好きなあなたへ贈る最新インタビュー特集~では、フリーライター/編集者としてスポーツ雑誌やWEBメディアで活躍中の青木美帆さんに、ロングインタビューを行ないました。インタビュー後編は、一つの記事が作られる工程や、執筆へのこだわり、青木さんの夢や目標など、ライター青木美帆の知られざる素顔に迫る内容となっています。

取材日2020年2月17日

青木美帆(あおきみほ)

高校生の頃にバスケットボールの試合を観戦したことがきっかけで、その魅力を多くの人に伝えられるライターになることを決意。早稲田大学進学後は早稲田スポーツ新聞会に所属し、バスケットボールの記事を中心に積極的な執筆活動を行なう。卒業後は、バスケットボール専門雑誌の編集部を経て独立、現在フリーライター/編集者として様々な媒体で活躍中の人気ライターである。

―ここからは青木さんが執筆されている記事についてお伺いしていきます。一つの記事はどのような段階を経て世に送り出されるのでしょうか?
まず記事を書くということについては二通りあると思います。一つは出版社から依頼されて「○○のテーマで書いてください」と言われること。もう一つは自分が普段色々な取材をしている中で浮かび上がってきたものを「○○のテーマはどうですか?」と、出版社に提案をして書くパターンです。前者の場合は、いきなり「このテーマについて書いてください」と言われる時もあり、こちらの準備が出来ていないものもあります。例えば取材テーマが自分の得意分野ではない内容だったり、一度も取材したことがない人に対して記事を書いて欲しいという依頼もあるので、そんな時は編集者に企画や意図、どういった読者対象なのか、どういう内容を最終的に伝えたいのかなど、様々なことをヒアリングします。それらを事前に確認しておいて、そこから何を聞いていこうかなと、質問を考えるようにしています。また、ネットに出ている記事を読んだり、本を出されている方でしたら著書を読んだりして、取材対象の情報収集を行ないながら質問を組み立てていきます。
―そのような作業を経て取材が行なわれるのですね。
事前の準備にはかなり時間を割きますね。また、個別の単独インタビューを行なう場合は30分から1時間半程度の時間をまとめていただけるので、そこで聞いた内容を今度はテープ起こし(※録音データをテキストに打ち込んでいく作業)をしていく作業に入ります。その後は記事の主題に沿った構成立て(※記事の「起承転結」のようなもの)をテープ起こしのデータと合わせながら作っていき、最終的には主題に沿うように記事を書いていく、という流れが基本的な記事の書き方かなと思います。
また、後者の「自分の中で気になるテーマを出版社に提案する」パターンの時は、大会や試合で色々な選手・指導者の取材をしていく中で「○○について、記事を書いたら面白そうだな」と、書きたいテーマが頭の中に浮かび上がることがあります。
―書きたいテーマですか。
昨年度は特に大学バスケの仕事が多かったのですが、大学生を取材する中で「特別指定選手」というキーワードが沢山出てきました。現在、Bリーグでは学生が特別指定選手としてチームに所属出来るシステムがあり、多くの選手がプロの世界で経験を積んでいます。それらのシステムは4年生ならば卒業後のステップという形がイメージ出来ますが、最近は3年生、中には高校生で「特別指定」を経験する選手が出てきました。私は彼らがどんなことを考えて「特別指定」を経験しているのか、ふと疑問に感じたのです。そこで、編集部の方々に「こんな企画はどうでしょうか?」と、提案をして、彼らの了承を得られたことで本格的な取材をスタートさせました。それこそ今度は自分が書きたいテーマに対して、その答えを探していくために、改めて色んな選手や関係者に取材をしていくのです。その後は取材で集めた資料を突き合わせながら、また前者と同じように、起承転結の構成を考えて、実際に記事を書くという作業に入っていきます。
―青木さんが執筆をされる上で気を付けているようなことがあれば教えていただきたいです。
この記事は誰が読むものなのか、書く時に読者のことを必ず想定して書くよう心がけています。私はスポーツ以外の分野で記事を書かせてもらうこともありますし、起業家インタビューなどもさせていただく機会がありますが、そういった時は難しい内容になることも多々あります。しかし例え内容が難しくなってしまっても、この記事の読者対象がどこにいて、その読者が理解出来るように書くということは大切にしていますね。読者を置き去りにする記事が一番良くないと思っています。ですので、大きな括りとしては“誰が読んでも分かりやすい文章”であることを大事にしています。例えば接続詞を一つ入れるとか、専門用語を極力使わないとか、「ああいうこと」と表現しがちな言葉を具体的に書くなど、凄く簡単かもしれないですけれど、そういった一つ一つの工夫が一番大切になってくるのかなと考えています。
また『人にフォーカスを当てた記事』を書く時に気を付けていることは、その取材対象の人となりがちゃんと見える記事になるように意識して書くようにしています。これは表現のディテールの話になってしまうのですが、取材をしている選手がこういう口調で喋ったとか、どういう表情だったとか、記事を読む人は直接彼を見てはいないけれど、読みながら「あ、この選手ってこんな感じなんだろうな」と、私が選手から感じ取った空気感や声だとか、「その人らしさ」を文字で表現をすることで、読者に伝わるように書くということは心がけています。
―続いての質問です。現在、ライターを目指している学生さんには、どんなことを大切にして欲しいと思いますか?
学生さんは自分の好きなことを少し無理してでも突き詰めることが良いのではないかなと思います。あまりにも不健康な生活はまずいですが、寝食を忘れてでも楽しいと思えることをやった方が良いと思います。別に勉強に勤しめというわけではなくて、それこそスポーツを見まくることでも、クラブに行って遊ぶとかでも良いと思います。私が思うに、物を書く仕事はその人が経験してきたこと全てが活きてくると思うので、そういう仕事をしたい場合は何事も経験してみることが大切です。他の仕事でも言えるとは思いますが、特に表現する仕事はそうだと思うので、若い内から好きなこと、楽しいと思うことは全力でやってみた方が良いなと思っています。
―青木さんはどんなことに夢中になっていたのですか?
私は学生時代、アルバイトを頑張りすぎていたので、今思えばもう少し、映画や演劇などに時間を割けば良かったと後悔しています。特に早稲田大学には1000円で旧作映画を3本見られる映画館がありましたし、演劇が盛んでしたので、バイトの時間を削ってでも劇場に通えば良かったかなと思いますね。
―新聞会に所属されていて、お忙しかったと思いますがどんなバイトをされていたのですか?
飲食関係のバイトをしていました。それと早稲田スポーツ新聞会の紹介で共同通信さんや朝日新聞さんなどで、短期のアルバイトをさせていただいたりしました。
―では学生時代から社会経験を積まれていたわけですね。
そうですね。このことは自分にとって良い経験になったと思います。私個人の問題ではありますが、当時の私は早稲田大学に通っているだけで自分は他の人よりも賢いのではないかと勘違いをしていたのです。でも実際に社会で働いてみたら、鼻っ柱を折られたというか、自分の無力さを経験することばかりでした。社会人として当たり前のことが出来ていなかったので物凄く怒られましたし「学歴っていったいなんだろう?」とその時は凄く考えさせられましたね。
―青木さんは、お子さんを育てられながらお仕事もされていて、お忙しい日々を送られていますね。仕事とプライベートを両立させるために気を付けていることがあれば教えていただきたいです。
ありのままをお話しすると正直、両立は出来ていないと言いますか、私の場合は私生活の方に多大な負担を掛けてしまっています…特に今年は案件を抱え込み過ぎてしまい、主人と子供に負担を掛けているなと、本当に反省をしました。今はなるべく仕事に対しても優先順位を決めて引き受けさせていただくようにしています。それこそ、依頼内容を聞いて「それは私じゃないと出来ない仕事だろうか?」と考えるようにしたり、私を介して他のライターを紹介するなど出来ることで対応をさせていただいています。もちろん自分の中でも様々な分野に興味があるので挑戦してみたい気持ちはありますが、現状は家族に迷惑を掛けている状態なので、その判断はしていきたいなと思っています。また、これは今後への投資も含めてですが、学生のアシスタントを数人雇っていて、彼らにインタビューのテープ起こしをお願いして、自分は執筆に専念するなど、全てを抱え込まないようにしています。
―優先順位を決めて行動することで、時間を作りだされているということですね。そんな多忙な日々を送っていらっしゃる青木さんですが、バスケットボール以外ではまっている趣味などがあれば教えていただきたいです。
私は好きなことを仕事にしているので、仕事と子育てが生活のすべてになってしまいますね。それ以外だとなんだろう…。強いて上げるならばラジオを聞くことです。最近はテレビを見る時間もないくらい忙しい時期が続いたので、この数か月間は家事や移動の時によくラジオを聞いています。
―どんなラジオを聞かれるのですか?
最近だと『オードリーのオールナイトニッポン(※ニッポン放送によるラジオ番組)』を聞いています。特に彼らのファンだとかではないのですけれど、たまたまラジオを聞いていたら話が凄く面白くて、それからよく聞くようになりました。しかもラジオを聞いていく内に自分の中で新しい気づきがあったのです。
―新しい気づきとはどんなことだったのですか?
私は仕事柄、人の話を聞くことは多いですが、自分が話す機会ってあまりないですし、そもそも理論立てて話すことに苦手意識を持っていました。でも意見を求められる時は必ずありますし、もっと上手く話せるようになりたいと、私なりに悩んでいたのです。そんな時に、オードリーのラジオを聞くようになり、綺麗に順序立てて話す彼らのトークを聞いて「この二人から何かを学べないか?」と考えるようになったのです。
―私も彼らのラジオをよく聞いていますが、青木さんは彼らのラジオからトーク力を学ぼうとされているのですね。
自分の話を上手く出来ないことが本当に嫌で、凄くストレスに感じていたところだったので、話し方の参考になればと思って、ラジオを聞いています。単純に彼らのトークが面白いということもありますけれど(笑)
―最後の質問ですが、青木さんの今後の目標や夢を教えて下さい。
挑戦したいことは沢山あります。まず一つ目の夢は、人なのかチームなのか、それこそ事象なのかは分かりませんが、一つの対象を長期間追い続けて、その長く追い続けたからこそ見えるものを一冊の本にまとめるという仕事にトライしてみたいです。もちろんテーマはどんなものでも良いと思うのですが、そういうことが一つ出来たら良いなと、夢として考えています。
また、女子アスリートに向けた本を作ってみたいです。これは女子アスリートをサポートする内容で構成をしたくて、例えば月経との付き合い方や、女子特有の怪我についてなど、バスケットボールだけに拘らず様々な内容について掲載する本を作ってみたいですね。
―現在、女性アスリートの食事や月経問題などが様々な媒体で発信されていますし、そういう本があったら選手の方々も安心ですね。
それともう一つありました。今後一番やってみたいなと思っていることは、高校バスケット界を更に盛り上げるために、各地域の最新情報をまとめて発信するメディアを立ち上げたいです。現在、高校バスケ界を扱っている記事というと、関東(一か所)を拠点にしているライターが各地方へ取材に行き書いている記事がほとんどなので、どうしてもその瞬間、その時期しかチームを見ることが出来ていないのです。それよりも、全国に番記者(※特定の選手やチームに密着して取材を担当する記者)を配属して、各チームを定点観測した方が、記者は一番リアルな情報を書くことが出来るし、そんな記事が集まって発信されるサイトがあったら面白いと思います。まだまだ夢のような話で、具体的なことを何かしているわけではありませんが、いつかはそんな仕事をやってみたいと考えています。この目標は書き手というよりかは編集者側としての目標ですね。
―そのような記事が読めるようになったら、益々高校バスケット界は盛り上がりますね。
そうだと思います。私はメディアという立場にいる人間なので『伝える』という行動を通して、バスケットの面白さを沢山の方に拡げて、バスケットボール界が益々豊かになっていくためのお手伝いをしていきたいです。これが私にとっての最大の目標ですね。
―とても素敵な夢をお聞かせいただきありがとうございます。青木さんの今後のご活躍を楽しみにしております。本日はお忙しい中ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。

ページTOPへ