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つくば秀英高校 男子バスケットボール部
稲葉 弘法監督 インタビュー<前編>

6月に開催された茨城県高校総体で見事優勝に輝き、インターハイへの切符を手に入れたつくば秀英高校男子バスケットボール部。ティアンドエイチ最新インタビュー特集では、前後編に分けてつくば秀英高校を率いる稲葉弘法先生のスペシャルインタビューをお届けします。
前編では稲葉先生にご協力いただき制作した指導DVD撮影時の感想や、稲葉先生がバスケットをはじめたきっかけ、現代バスケットに対する考え方や勉強方法などをお話ししていただきました。

※インタビューはオンラインで行ないました。

取材日2021年6月15日

―この度はDVDの撮影にご協力くださり、ありがとうございました。まずは撮影の感想をお聞かせいただいても良いでしょうか?
はい。このようなDVD撮影は初めてでしたが、やってみて非常に良かったなと思っています。私も沢山の指導者の方に学ばせていただきましたし、教わったことを自分の中で何度もかみ砕くことで、自分自身のオリジナリティを磨いて現在までやってきました。ですので、今まで自分が経験してきたことや知識、技術をオープンシェアさせていただこうと思い、今回の撮影を引き受けさせていただきました。DVDが完成した今、改めて全国の情熱溢れる指導者の方々の一助になれたら良いなと思っています。このような機会をいただき、大変感謝しております。
―こちらこそ貴重な練習メニューをご紹介くださり、ありがとうございました。稲葉先生もDVDの冒頭で仰っていましたが、現代のバスケットボールではオフェンスの質が向上し、ディフェンスに求められるものが変化してきているなと感じます。そのあたりについてお考えを聞かせていただけますか?
高校生に限らずU15のクラブを見ていても、バスケットが大きく変化してきたなと感じています。当然上の大学生やトップのレベルを見ていてもオフェンスが凄く良質になってきていますし、それに対して「ではどう守るか?」という部分について強豪校や強いチームはそれぞれが既に進み出している。オフェンスへの対抗策をどんどん取り入れているなということを日々感じています。またその変化の中で私が恐れていることは、監督自身が経験してきたバスケット観だけで指導をしたり物事を図っていると、“時代に置いていかれてしまうのではないか”ということです。変わりつつある現代バスケットのオフェンスに対応できるようにするには、戦術をよく理解しないといけないですし、それにどう対応するかという部分ではディフェンスの勉強が非常に大事になってくるかなと思います。
―どうしてオフェンスの質がここまで向上してきたのか、背景にはどんなことがあると思いますか?
まずは日本のバスケット界に海外バスケットの戦術やトレンドがどんどん入ってきていること、またはそういった場所でバスケットを経験してきた人が、コーチとして国内トップチームのコーチになられたりしていることが深く関係しているのではないかと思います。海外に飛び出して行き、バスケットを勉強されてきた人が昔に比べたら日本にも相当いらっしゃると思うんです。あてもなく海外に飛び出して行って、もしかしたら無償で勉強をしたかもしれない、そういう情熱溢れる指導者がどんどん活躍されることによって、日本のバスケット全体が強化されてきているのかなと思いますね。
―情報が増えたことによって、日本のバスケットが発展してきたということでしょうか?
そうですね。現代では様々なところに情報が飛び交っていて、バスケットを勉強する環境が整ってきたと思います。また情報化社会によって、ヨーロッパやアメリカのU18やU16のカテゴリーなど、海外の育成カテゴリーの情報も知ることができるようになりました。例えば育成環境が整っているヨーロッパの国では、その国のトップチームを指導できるノウハウを持ったコーチがアンダーカテゴリーを指導しているかもしれない。そういう国と比べてしまうと私たちは学校の先生ですので、既に育成カテゴリーの時点で差が生まれてしまっているわけです。だからこそもっと必死に勉強しないといけないですし、話が大きくなってしまうかもしれませんが、私たちが“どういう選手を育てられるか”という日々の積み重ねの中に、海外との差が作られていくのだなと思っています。
私はよくセミナーやオンライン勉強会に参加させてもらうのですが、そこにはミニバスや中学校で指導されている熱心な指導者が沢山いらっしゃいます。そういう熱心な人たちが勉強できる場所が増えてきたことも、日本のバスケットボール界が発展してきた要素だと思いますし、こういう努力が最終的には日本代表のレベルの引き上げに繋がっていくんだと、そういう気持ちでバスケットボールの指導に携われたら凄く良いなと思いますね。
―ちなみに稲葉先生は普段どのようなカテゴリーの試合を見られるんですか?
Bリーグや、ヨーロッパリーグ、NCAAの試合をよく見て勉強するようにしています。また、女子バスケットの細やかな部分が勉強になると思い、国内の女子バスケットをチェックするようにしています。特に丁寧な足の捌き方などを見ていると「こういう要素を男子も持っていないといけないな」と感じますし、高校生くらいの年代できちんと教えておかないと、その先必ずどこかで壁にぶつかると思います。その時にファンダメンタルが重要だということに気づいても遅いわけで、こういう技術を高校年代で教えておかないといけないなと思って、練習の中にマネジメントして入れていくようにしています。
―このDVDを見る指導者にどのようなところに着目して見てもらいたいですか?
そうですね。5on5のスクリメージにいくまでのところに色々な規律があるわけですが、実際の5対5でどれだけその規律が活かされているかが重要なわけで、分解練習で如何に5対5に繋がることをやっているかという部分に着目してもらえればと思います。単純に3対3ということを守れた、というのではなくて、5対5の中で起きないことが1対1や3対3、4対4のドリルでは起こります。要するにたまたまだとか、3対3ではオフェンスが勝っているけれど、これが5対5になってオフェンスとディフェンスに人が入ったら、その手前のところで守れただろうなというシチュエーションが沢山あるわけです。ですので、常に5対5を想像した上でドリルやシチュエーションの分解練習があるんだということを理解していただき、できれば前半に紹介しているドリルなどに着目してもらえたら良いのかなと思います。
―ありがとうございます。話は変わりますが、稲葉先生がバスケットボールを始められたきっかけを教えてください。
はい。父がバスケットボール指導者だったことがバスケットを始めたきっかけかもしれません。既に退職をしているのですが、私の父親は中学校の教師をしていまして、務めていた学校でバスケット部の指導をしていました。ただ面白いことに、私の父はバスケットに関しては全くの素人でして、たまたま赴任した小さな中学校で「野球経験があって運動神経も良いのだから、バスケット部の顧問をやってくれ」と頼まれてバスケ部の顧問になったんです。もちろん色々な指導者の方々にも勉強したでしょうし、出会った選手や保護者の方々、熱心な方のご協力もあり、私が小学校に上がる頃には関東大会や全国大会に出場するレベルのチームを率いていました。私はミニバスの経験がないのですが、土日になれば体育館に行って、練習試合があればベンチに座って話を聞いたり、眠くなればオフィシャル席の下で寝たり、ハーフタイムやタイムアウトになればコートに出て行ってシューティングして遊んでいたんです。そういう日々を当たり前のように過ごしていたので、気づいたらバスケットボールを始めていました。
―指導者を意識されたきっかけもやはりお父様の影響でしょうか?
そうですね。高校や大学に進学する時も、学校の先生になることはある程度想像した上で進路を決めましたし、心のどこかで父親のような先生になりたいという気持ちがあったと思います。また、大学で陸川章先生という素晴らしい指導者に出会えたことが私の人生において何より幸運なことだったと思います。
―陸川先生のどのような姿に影響を受けられましたか?
人を惹きつける力というか、毎日の練習に対して常に新鮮な気持ちにさせてくれる力が凄いと思いますね。東海大では練習前にミーティングを行なうのですが、陸川先生はその時のチーム状況や雰囲気を察して、毎回異なる話をしてくださるんです。陸川先生のノートには本当に沢山のことが書き込まれていて、その話を聞くとパッと練習の気持ちに切り替えられる、惹きつけられる情熱を感じました。私自身も高校生の頃に経験がありますが、人間誰しも甘えてしまう部分があったり、授業から部活に変わる瞬間に上手く切り替えられないことがあると思うんです。でも練習前のミーティングで陸川先生の話を聞くと「よし、今日も頑張るぞ!」と奮い立たせてもらえて、大学生になってまでもここまで熱い気持ちになれることはそうあることではないと感じました。今まで味わったことのない体験でしたね。
―やる気を引き出すのがとてもお上手なんですね。
そうですね。それも毎日の練習で感じさせてくれることが凄かったですし、影響を受けたと思います。また、陸川先生のチーム作りを間近で見られたことは指導者を目指していた私にとって良い経験になりました。陸川先生は私が東海大学へ進学した年に大学へ着任されたので、私たちは陸川先生に4年間指導してもらえた初めての学生だったのですが、様々なことが変わっていく中で、一から組織を作り上げる姿を見せてもらえたことは、大きな財産になっています。
―どのようなチーム作りだったのでしょうか?
一番凄いと感じたのは常に学生の意見を取り入れようとする姿勢ですね。今の時代で言うと下意上達のような、ボトムアップ型の雰囲気、組織の作り方だったと思います。だからどんどん学生からアイデアが出てくるし、当然そうなってくると選手には「自分たちでチームを良くしていくんだ」という当事者意識が芽生えてくる、そういう雰囲気を強く感じました。どちらかというと私たちが学生の頃は、上意下達型の指導が主流でしたので、陸川先生のチーム作りは凄く新鮮でした。上意下達型のチーム作りも組織の一体化においては良い点があったかもしれないですが、ややもすると指示待ちの集団になりかねないという脆さもありました。でも私自身そういった時代を経験してきたからこそ、良い組織を作るためには自分たちで考えて行動する力、アイデアを出し合える組織の方が発展していくだろうなと思いましたね。
―ボトムアップ型のチーム作りは現代の部活動でも話題になっていますね。
今の時代ではそれが主流になってきたと思います。学校の授業でもアクティブラーニングと言われる時代になり「学び合う」「教え合う」という考え方が当たり前となってきましたが、20年前にそういう組織作りに長けていた人は珍しかったですね。しかも当時の陸川先生は今の私くらいの年齢でした。私は今39歳ですけれど、この年齢で既にそういう感覚を持っていたということにも驚きですし、そんな陸川先生だからこそ組織が崩れないというか、今もチームは大きく発展し続けている。それは凄いことだと思います。根本にある土壌をきちんと作り上げられているから、毎年良いチームができあがるのだと思いますし、だからこそ選手がその環境を求めて集まるんだろうなと感じます。そういう組織の作り方を学生時代に間近で見ることができて凄く勉強になりました。
後編に続く

稲葉弘法監督監修のバスケットボール指導DVDはこちらです。

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