2021スポーツの秋セール
つくば秀英高校 男子バスケットボール部
稲葉 弘法監督 インタビュー<後編>

インタビュー前編はこちら

6月に開催された茨城県高校総体で見事優勝に輝き、インターハイへの切符を手に入れたつくば秀英高校男子バスケットボール部。ティアンドエイチ最新インタビュー特集では、前後編に分けてつくば秀英高校を率いる稲葉弘法先生のスペシャルインタビューをお届けします。
後編では、東海大学で出会った仲間たちへの想いや、稲葉先生が指導者になってから苦労されたエピソード、指導者としてのやりがいや今後の目標などをお話ししていただきました。

※インタビューはオンラインで行ないました。

取材日2021年6月15日

―在学時には東海大諏訪高校の入野貴幸先生、東海大相模高校の原田政和先生、飛龍高校の原田裕作先生など、現在指導者として全国で活躍している方々や、竹内譲次選手をはじめとしたゴールデンエイジ世代の選手たちとの出会いがあったかと思います。稲葉先生にとって彼らはどのような存在でしょうか?
そうですね。高校の時からお互いのことは知っていましたが、僕らで「1部にチームを引き上げよう」と約束をしたわけでもありませんでした。そんなメンバーがたまたま同級生となり、4年間切磋琢磨しながら共に過ごした。更に卒業後も指導者として良い関係を築けている。この縁は凄く大きな存在で、当たり前のことではないだろうと思っています。同級生の彼らとは、常日頃からバスケットや組織作りについて語り合い沢山の影響を受けましたし、ゴールデンエイジの彼らからは、トップレベルの選手の真面目さ、バスケットに対する取り組み方や考え方、探求心がここまで凄いものなんだと気づかせてもらいました。今思えば彼らから盗ませてもらったものは沢山ありますし、大学生活の4年間をあの仲間たちと切磋琢磨し合いながら一緒に過ごせたのは大きかったです。彼らとは今でも連絡を取り合っていて、バスケットの情報を共有したり、大事な大会前になればお互いにエールを送り合い、勝った時は「おめでとう」、負けた時には「次頑張れよ」と言い合ったりしています。あまり彼らの前では言わないですけれど「ありがとう」と思っています(笑)。いつも力をいただいていますね。
―稲葉先生が指導者になって苦労されたエピソードなどがあれば教えてください。
私は指導者になるのであれば、地元である茨城県に戻ってきてチームを指導したいと思っていまして、その際には伝統や歴史もない、ゼロから組織作りを行なえる環境で頑張ってみたいと考えていました。なので、苦労話を一つ上げるとするならば、つくば秀英高校に着任した時、最初に受け持った生徒たちとの温度差や、どうしたらバスケットを面白いと感じて一生懸命取り組んでくれるだろうかと、試行錯誤した日々が大変だったかなと思います。あの頃バスケット部にいた生徒たちは「中学でバスケ部だったから高校でもバスケ部に入りました」というレベルの子たちばかりでした。そうすると「今日は雨が降っているので練習に行けません」という欠席の連絡が入ってくることもあるんです(苦笑)雨が降っているから練習に行けませんって、自分では考えたこともないぞと、なんという手段があるんだとその時は思いましたね。練習中もバスケウェアではなく当時流行っていたサッカーチームのユニフォームとか、文化祭のクラスTシャツを着て練習している子がいたり、バッシュもソールはツルツルだし破けそうだけど「もう少しで引退だから買い直さなくても良いか」というような、そういう生徒しかいないわけです。だから自分の勉強のためにインターハイや関東大会に行った時には、大会Tシャツをお土産に買って帰って「これはノックアウトゲームの景品だぞ」と言ったりしながら、なんとかやる気を出してもらえるように頑張っていましたね。今思えばこの頃も楽しかったですし良い思い出ですけど、最初はそういうところからのスタートだったので、どうしたら「バスケットって楽しいな」と思って貰えるか必死でしたし、どうバスケットに向き合わせるかということを常に考えていました。正直、学生時代に思い描いていた指導者像とはかけ離れていて、私が大学でやっていたドリルを練習でやったら、大変なことになっていましたね(笑)
―東海大学の練習ドリルは、たまたまバスケ部に入部した生徒たちにとっては厳しいかもしれませんね。
そうなんですよ(苦笑)今はおかげ様で、モチベーションも高くこのチームでバスケがしたいと言ってくれる生徒や、保護者のご協力もいただきながら、お互いに高みを目指せる環境でやらせてもらっていますけれど、そういう土台を作っていた時が大変だったかもしれません。また、これも苦労ということでもないのですが、少しずつ遠征に参加させてもらえるようになった時、実力差の関係で対戦校のAチームと戦うことができなかった時は、生徒に申し訳ないなと思いましたね。私が「よし、格上の相手だけど、頑張って戦うぞ」と意気込んでみても、試合が始まったらBチームの選手しか出していただけなかったことが何度かありました。ただ、相手の監督としては当然の采配ですし、「Bチームを倒すことができたら次はAチームだぞ」と、私たちを育ててくださっていたのだと思いますが、選手たちの気持ちを想像すると、彼らには申し訳ないという気持ちでいっぱいになりました。もっと私に指導者としての力があったりチームに名前があれば、もう少しスタメンと戦わせてもらえたりするのかなと…そのためにはもっと強くなって頑張らなくてはいけないなと思いましたね。
―それは歯がゆいご経験でしたね。
でもこういう経験があるからこそ、今では若い先生に「一番下のメンバーで良いので練習試合をお願いします」と言われても、最低でも10分間は必ずスタメンを起用するようにしています。また遠征や練習試合に関しても、強豪校が練習しているグループの中に私たちのような若いチームが簡単に参加できるわけもなく、間に入ってくださった先生のご協力をいただいたり、緊張しながら練習試合を申し込んだりする中で、少しずつ遠征に誘っていただけるようになりました。人脈作りと言いますか、つくば秀英高校というチームを認めてもらえるようになるまでは中々時間が掛かりましたし、もちろん今でも勉強中でこれからも大事にしたいと思っています。現在のつくば秀英高校の環境については生徒たちにもよく話をするんです。「僕の人脈がないために先輩たちは遠征に中々参加させてもらえなかった。でも僕らの面倒を見てくれた先生方がいたから、今では遠征で色々なところに行かせてもらえるようになったんだよ。だから今、つくば秀英高校と練習試合をしたいと言って声を掛けてくれる人やチームを大事にしたいんだ」ということを伝え、今の恵まれた環境が当たり前なことではないことを理解してもらえるようにしています。
―稲葉先生が指導者として大切にしていることや考え方を教えてください。
やはり良い組織を作ることは前提にあります。土壌がしっかりしていないと、いくら苗を植えたとしても荒れ果ててしまい良い花は咲かないと思いますので、陸川先生が作られていた組織のような、アイデアを選手たちが出し合っていける組織を作りたいです。壁にぶつかって苦しい状況になっても、解決していくのは選手たちであり、その苦しんだ中から様々なことを学びチームは強くなっていきます。そういった雰囲気を組織作りにおいて大切にしていきたいと思っています。また、現在受け持っている46人の選手を公平に見てあげることは指導者として大切にしていることの一つです。具体的にはチーム内での約束事や、評価に値するプレーをしっかりと“見える化”していくことを大事にしています。
―見える化ですか。
はい。私たちのチームにおいてディフェンスは大切な要素ですが、その中でもリバウンドやルーズボールなどに対する評価が大きいものだと、チームの中ではっきりと位置づけをしています。どうしてもチームのエースや主力選手だけが注目されたり、過大評価されてしまうことがあると思いますが、そういうことが絶対にないように、評価の基準をはっきりと示すためにも、チームの約束事をプリントにして配布したり、目につくところに張り出すようにしています。また、私は常日頃からバスケットボールを通じて社会に貢献できるような人材に生徒を育てなければいけないと考えています。私がバスケットボールを教えられるのは3年間という限られた時間だけですが、彼らにはその先に長い人生が待っていて、バスケットに関わらなかったとしても、それぞれが社会に出て働かなければなりません。だからこそバスケットボールを通して様々なことを学んでもらいたいし、社会に役立つような人間に育ってほしいのです。陸川先生の言葉を借りれば「心の山と技術の山、二つの山を登らなければならない」ということですね。私は教員という立場ですのでそちらの方が責任重大だと捉えていて、この二つの山(ゴール)を目指すことを軸にした指導、教育をすることを常に心がけています。
―バスケットを通して人生で大切なことを学ぶわけですね。
ただそういうことを考えると3年間はあまりにも短すぎるんです(苦笑)ですので3年間の指導の中で明確な答えが出なかったとしても、高校を卒業したその先、10年後や20年後にはじめて「稲葉先生が言っていたのはこういうことだったのか」と思い出してもらえれば、私としても有難いなと思います。結果として社会に貢献できる有益な人材になってもらえたら、3年間の価値はあるのかなと思っています。
それと私は「人にかけた情けは水に流せ 受けた恩は石に刻め」という言葉を体育館のホワイトボードに書き残していて、生徒にもこの言葉をよく伝えるようにしています。人は自分がしたことに関しては、いつまでも「こうやってあげたのに…」と思ってしまいがちです。でもこの言葉には“人にしてあげたことはそのまま水に流しなさい。だけど人からしてもらったことについては絶対に忘れてはいけないよ”という意味が込められています。これはバスケットや人を育てるという面でも大事なことだと思っていて、例えば、練習中誰かに何かをしてもらえば、今度はそれを誰かにしてあげようと心配りが生まれてきますし、互いに教え合う、学び合うことが当たり前となり文化として根付いていけば、必ず良い組織になれると考えています。私自身も若い頃、沢山の指導者の方に勉強させていただきました。苦しい時代に面倒を見てくださった恩を絶対に忘れませんし、今度は私も若い先生方に自分の経験などを還元していかなければいけないなと思えるようになるわけです。
―稲葉先生が指導者としてのやりがいを感じる時はどのような時ですか?
レベルは色々あるにせよ、できないことができるようになって、チームとしても自信に繋がったり、そういう成長過程が感じられた時に自分の中でやりがいを感じます。彼らの成長を考えると、時にはぐっと堪えて我慢しなければならない場面が沢山あるのですが、なんとか生徒同士で意見を出し合って前を向き始めた時なんかは、感慨深いものがありますね。トライアンドエラーという言葉があるように「人はトライしていくことで大きくなるんだな」、「エラーが起きた時こそ人を深くしていくんだな」と感じますし、そういう瞬間に指導者をやっていて良かったなと思います。また、最近ではプロを目指したいという子もいれば、私みたいに指導者になりたいという子たちも出てきました。私は指導者として16年目を迎えますが、約150人いる卒業生の中から現在15名ほどの生徒が中学や高校で先生となって指導をしています。その子たちが「稲葉先生みたいになりたい」とか、「稲葉先生をやっつけられるようなチームになりたい」と(笑)言ってくれたり、「合同練習してください」と言って子どもたちを連れてきてくれる。そういうこともやりがいの一つですね。教え子たちがチームを大事にしていて、家族のようなチームを作っている姿を見ると「良かったな」と思いますし、そういう時に私ももっと頑張らなきゃいけないと思うわけです。彼らOBに「つくば秀英のバスケットが変わってしまって残念だな」と思われないように、「秀英のバスケットも稲葉先生も何も変わらないんだな」と言ってもらえるように、そういう文化はずっと残していきたいですし、良い報告ができたら良いなと思いますね。そういうことがやりがいというか、明日への活力になっているかなと思います。
―OBと言えばBリーグや実業団で活躍している選手が沢山いらっしゃいますが、OBとの交流は頻繁にされているのですか?
そうですね。OBの彼らも報告がてらに遊びに来てくれては、後輩たちにアドバイスをしてくれています。というのも彼らも学生だった頃にOBの先輩たちに指導してもらった経験があるからだと思います。だから卒業してからは自分たちがOBとして後輩たちの面倒を見てくれる。Bリーグが終わって、来シーズンの契約が決まった選手もこの時期は遊びにきてくれたり、私たちがインハイ予選の大事な時期だと分かっているので、言葉をかけてくれたりプレゼントを残していってくれたりするんです。今も教育実習生が二人来ているんですけど、実習の合間を縫いながら体育館に来てくれて、いつも皆に助けられているなと思います。また、「夢を見て、夢を叶えて、夢になる」というOBとの交流をあらわす言葉があります。これは私の父親の言葉で、“夢を見て、そのために努力をして夢を叶える”まではその言葉の通りなのですが、最後の「夢になる」という部分に「あの人みたいになりたい」と、夢を叶えようと努力する自分の姿が、次は誰かの夢になるという意味が込められています。この部分が大事で、小島元基にしてもBリーグで活躍をして頑張っている姿を見た後輩たちが、今度は元基のようになりたいと夢を描くわけです。叶うか叶わないかは分からないですが、そうやって頑張っている選手たちの姿が、次はその下の後輩たちの夢になるのです。そういう伝統というか、マインドのようなものをチームの中に根強く残していきたいなと考えています。だから元基もつくば秀英高校の先駆者として頑張って欲しいし応援しています。
―最後に稲葉先生の今後の目標を教えてください。
チームとしての目標は常に高く掲げたいですが、私は彼らの邪魔をしないように(笑)サポートに徹するつもりです。子どもたちは「日本一を目指したい」「インターハイに出たい」「ウインターカップに出場して去年の先輩を越えてメインコートに立ちたい」と、それぞれ目標を掲げていますので、その目標を達成できるように私がもっと勉強をして、“なり得る最高の自分”やチームになれるように、良質なアドバイスができるようにしていきたいです。個人的な目標に関しては最初に少し触れましたが自分が培ってきた知識や技術などをオープンシェアしていければと考えています。実は明日からインターハイの地区予選が始まるのですが、一回戦などを見ていても、本当に素晴らしい指導者の方々がいらっしゃるんです。全国には情熱溢れる指導者が沢山いて、もちろん色々なレベルがありますが、でもみんなきっとバスケットが好きで日々勉強をしていると思います。私も今でこそ関東大会や全国大会を目標にする位置にいるかもしれないですが、そういう時代がありましたので、今全国で頑張っている指導者の方々に知識や技術などをシェアしていけたらと思っています。そういうことが大事なんじゃないのかということに少しずつ気づけるようになってきました。そうやってバスケットボールに恩返しができたら良いなと思っています。
―ありがとうございました。皆様の今後のご活躍が益々楽しみになりました。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。

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