「オフェンス戦術の考え方とコーチング学について」
バスケットボールオンライン講習会レポート

講師 入野 貴幸 氏
東海大学付属諏訪高等学校男子バスケットボール部監督

2020年7月23日(木)7月25日(土)と二日間に渡り、東海大学付属諏訪高等学校男子バスケットボール部入野貴幸監督による、オンライン講習会を開催致しました。
本講習会では、全国トップレベルのチームを指揮する入野監督に、オフェンス戦術の理論や考え方、指導者において重要なファクターとなるコーチング学についての講義を行なっていただきました。
ここでは講習会の様子をレポートとしてお届け致します。

入野監督 冒頭メッセージ

皆さんこんばんは。東海大学付属諏訪高校男子バスケットボール部の入野です。
本日は私が考えるオフェンス戦術とコーチング学についてご紹介したいと思います。皆さんの指導に少しでもお役に立てればと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します。

1. オフェンスの戦術の考え方

入野監督がオフェンス指導の入り口として重要視している「得点期待値」の解説から講義は始まり、何を優先してオフェンスを組み立てるべきかといったスタイル作りや、速攻とオフェンスリバウンドをテーマにした練習メニュー、オフェンス戦術を考える上で入野監督が大切にしている事等を紹介していただきました。


入野監督オフェンス指導は何から教える?

入野監督:オフェンスを教える際に何から教えるかという事が重要になってきますが、私は最初に「得点期待値」を生徒に説明し、理解させるようにしています。一番確率が高いのはフリースロー、次はペイントでの得点、それからスリーポイント、ロングツーという順番だと思います。ですので私はまず、入学したての生徒には片手のフリースローを徹底して教えます。これらの得点期待値をベースに考えて、オフェンスをどのように組み立てていくか、どのように指導していくかを考えていけば良いかと思います。

入野監督オフェンス戦術を考える上で大切にしている事は・・・

入野監督:私は選手の能力、長所を最大限に発揮出来る動き作りが重要だと考えています。
また、選手が毎年入れ替わる事で戦術は変わってきます。基本となる幹は同じでも枝葉は違いますので、その学年ならではの木に育てていく事を大切にしています。更に指導者として一番忘れてはいけない事は次のステージに繋がるような指導をする事です。今は高校年代で競技生活を終えずに、大学でもバスケットを続ける子が多くなってきていますので、次のステージでも活きてくるような指導をしていく事を意識しています。


続いてチーム戦術の流れ(時間)、チームオフェンスの基本的な枠組み、練習設定におけるSDDL等、オフェンスを組み立てる際に必要な概念や、ドライブの合わせ方、現在主流となっているPnRの具体的な戦術についてご説明いただきました。


入野監督チームオフェンスを作成するためには

入野監督:基本的な枠組みとして、まず準備段階と言えるプレパレーションがあります。その次にメインアクション、最後にメインアクションによって出来たロングのクローズアウトを活かした状態を指すゲームがあります。これはアルバルク東京のルカコーチが教えられていた事で、分かりやすいと思い、私は指導の際にこの3つの項目を落とし込むようにしています。これら3つを使ってチームオフェンスを作成していきます。

入野監督ドライブの合わせ方

入野監督:ここでは、ドライブの合わせ方に関する練習メニューを7種類ご紹介します。

入野監督PnRのメリット、デメリット

入野監督:現在主流となっているPnRですが、我々指導者はメリット、デメリットを理解しておく必要があると思います。去年のチームで考えると、エントリー(プレパレーション)が抜けてしまい、直ぐにメインアクション(ボールマンにピック)に行ってしまう場面が多々ありました。すると、どうしても足が止まってしまい、負けに繋がりやすいと思います。やはりエントリー、メインアクションがあり、そこから生まれるゲームを如何に作りだすかということにこだわってPnRを用いることが大切です。

入野監督選手のオフェンスに対する考え方と、実際に試合で勝つため必要な事

入野監督:選手たちは、シュートを打ったり、1対1でスタンドプレーをやりたがる子が多いかなと思います。しかし、実際に試合で勝つためには、やりたいプレーだけではなくて、やらなければならないプレーやりたくないプレーもしなければなりません。それらのプレーこそチームへの貢献度が高く、勝敗を左右する要素だと私は考えています。


2. 質疑応答コーナー

受講者様からいただいた質問を入野監督に答えていただきました。

頑張ってゴール近くまで行く事が出来ても、最後のシュートが入らないという事がよくあります。個の力をつけるために必要な事や、練習でお勧めのメニューがあれば教えていただきたいです。
ゴール下付近のフィニッシュ力をつける練習では、最初ジャンプしてダミーにぶつかりながらフィニッシュする練習をして、慣れてきたら、ダミーを人に変えて行なうようにします。私たちは空中やフロアでのバランス、コンタクトしながらのフィニッシュ力を鍛えるドリルは、ほぼ毎日取り入れるようにしています。それから、シュート力を上げるためには心拍数との兼ね合いが凄く大事だと私は考えていますので、心拍数を上げ、試合に近い状態を作って練習をするようにしています。例えば、エルボー付近でジャンプシュートを打ったら一回、フロアタッチをします。その後走っていって、またショートコーナーあたりでジャンプシュートを打ち、同じようにフロアタッチをして、走ってシュートというのを繰り返します。これを10回繰り返すとご想像の通り息が上がってフラフラになります(笑)シュートが入らないと泥沼のような状態になりますが、これをする事でゲームに近い状況でのシュート練習も出来て、個のフィニッシュ力も高まります。

その他にも沢山の受講者様からご質問をいただき、入野監督にご回答いただきました。

オフェンス練習では常にギブ&ゴーを練習していて、ずれた瞬間に1対1をさせるのですが、ビッグマンのヘルプが来ると上手く合わせられず、無理なシュートに行ってしまいます。1対1の先の状況が見えないというか・・・周りの状況を見る感覚を練習の中でどのように教えたら良いでしょうか?
中学生男子でも取り組める戦術や、小さいチームに適している戦術を教えてください
状況判断を向上させる方法を教えてください。
今まで女子を指導していて、今年から男子を指導する事になりました。女子を指導している時は3対3とか、4対4、5対5の作りや合わせをずっとやってきて上手くいっていたのですが、男子の場合あまり上手くいっていません。今後どうしたら良いのかなと悩んでいます。
格上の相手と試合をすると、今まで練習してきた形がフィジカル面でやられてしまいます。フィジカルのトレーニングとバスケットの動きに対するバランスはどのように取られているのでしょうか?
また、入野監督が格上チームと対戦する時に一番大事にしている事を教えてください。
ピックプレー等、相手ディフェンスの反応や守り方を確認して次のプレーを選択して欲しいのですが、中々練習通り上手くいきません。どうすれば良いかアドバイスをいただけないでしょうか?
オフェンスメインの練習をしている時、ディフェンスが良くない時はその都度止めて、指導をされますか?それともディフェンスはディフェンスで時間を取って指導をされているのかお伺いしたいです。
試合中にガードがボールを離さない状況が増えてしまったり、エントリープレーを選択させるようにすると、やり過ぎてしまって、オフェンスが重たくなる時があるのですが、そういう時はどのように対処されていますか?

3. 私が考えるコーチング学

講義の導入部分では、難解に思われがちなコーチング学を入野監督ならではのロジカル+柔軟な視点で紐解いていきます。更には、論文や講習会等様々な学びのソースがある中、入野監督が指導者として影響を受けているメンターの存在や、チーム作りに必要な理論や価値観、指導者が注意すべき点等を解説していただきました。


入野監督選手の前後を知る!Vision & Hard Work

入野監督:選手の前後を知る事も指導をする上では重要です。どういう環境で生活をしていたのか、高校生になった現在はどうなのか、出口(大学生)はどうなっているのか、将来をどう描いているのか。私はビジョンをしっかり描く事でこそ、ハードワークが出来ると思っていますので、選手一人一人の前後の状態を知る事はとても大切な事だと考えています。

続いて、強いチームを作るために必要なコーチング資源やコーチの多面性、コーチングスタイルの選択について等、入野監督の経験談や、日ごろから重要視している考え方をご紹介していただきました。
また、指導者として絶対に目を逸らしてはいけない「選手の目指すべきゴール」と、そのゴールに近づいていくための道のりを解説していきます。


入野監督コーチングスタイル

入野監督:飢えている人、表現で言うとスランプに陥っている選手に、釣った魚を与えてしまうのか、それとも釣り方を教えるのかという事は重要な話だと思います。どちらも必要なコーチングだと思いますが、スランプに陥っている選手に釣った魚を与えてしまうと、直下の問題は解決しますがまたすぐに泥沼状態に戻ってしまう事があります。このケースでは選手に釣り方を教える等、泥沼からのドロップアウトの方法を生徒自身が身につけられるように促していく事が、コーチングスタイルとしては良いのではないかと思います。

入野監督選手の目指すべきゴールとは

入野監督:東海大学時代の恩師、陸川章先生も似た表現をしていらっしゃるのですが、「ダブルゴールを目指す」という事を私も生徒たちに伝えています。
ダブルゴールとは人間力向上(心の山)と競技力向上(技術の山)の二つのゴールを目指していく事です。競技力のみを目指してしまうとバーンアウト(燃え尽き症候群)を生み出してしまいますし、聞きなれない言葉かもしれませんが、バーバリアンアスリート(野蛮なアスリート)になってしまう可能性があります。更にはバーバリアンアスリートはバーバリアンコーチになりやすいとも私は感じているので、そうなってしまわないように、選手にも人間力向上と競技力向上の二つのゴールを目指すんだという話をしています。


4. 質疑応答コーナー

受講者様からいただいた質問を入野監督に答えていただきました。

将来Bリーグや世界で通用する選手になるために、高校生の内にやっておく事等はありますか?
私はアンダー世代の日本代表チームに関わっておりますので、中国や韓国等、海外のチームと対戦する機会がありますが、やはり日本の選手は優しいなと感じています。ですので高校生の年代からやっておかなければならない事は、ゴールに果敢にアタックして積極的にシュートを打っていく部分かなと思っています。フィジカルを鍛えなければいけない、ディフェンスも鍛えないといけないとなると、体が汗をかく事ばかりが進んでしまいますが、私は脳が汗をかく練習が良いものだと考えていますので、体も脳も同時に汗をかく練習を提供して、何かしら不具合が出るように、選手たちに常に課題を与える事が重要だと考えています。

その他にも沢山の受講者様からご質問をいただき、入野監督にご回答いただきました。

普段の学校生活、授業態度の話をする時、入野先生はどう話されていますか?学校生活面でのチーム作りはどのようにやっていますか?
今年度から女子を指導する事になりましたが、指示待ちの生徒が多くて悩んでいます。自主的に考えて動いて欲しいと思っていますが、何かアドバイスをいただけないでしょうか。。。
人数が多く練習の生産性があまり高くなりません。また、自ら主体的に参加する選手へなって欲しいと考えていますが、どのように指導すれば良いか悩んでいます。
チーム内のレベルに差があり過ぎて悩んでいます。Aチームの子とCチームの子がマッチアップすると全く練習にならない時があります。ただ私たちは公立高校という事もあり、出来るだけ全ての選手にチャンスを与えていきたいと考えていますが、そういう時のチームの作り方だったり、普段の練習で設けている制限や練習の仕方に対する工夫があれば教えていただきたいです。
入野監督が考えるディフェンスとオフェンスの役割を教えてください。
一日の練習内容や時間を教えてください。
こちらが選手になって欲しい姿と、現在の選手の姿(メンタル的な部分)に大きな乖離がある場合、どのようにアプローチを取っていますか?
今年から大学で学生コーチをする事になりましたが、どうすれば良いか悩んでいます。どのような事をすれば良いでしょうか?

講習会の終わりに

先日、とあるテレビ番組内で「20年間かけて身につけた医療技術を後任は5年で身につけないと医療業界の進歩は無い」という発言がありました。私はバスケットボールにおいてもこれと同じだと考えています。20年かけて考えた戦術や指導方法を後任に全て渡すという事は中々勇気の要る行為ですが、バスケットの戦術・コーチング学は“門外不出のラーメンスープであってはならない”という考えのもと、周りの指導者の方とコミュニケーションを取り、常に情報をアップデートし続ける事が、日本バスケット界の進歩に繋がる事だと思います。
我々指導者は正解の無い答え合わせをしているわけですから、今後も日本バスケット界のためにも皆様と情報共有をしていけたらと考えています。
世の中は今コロナ禍ではありますが、バスケットを通して日本を元気に出来るように、これからも皆様と一緒に頑張って行けたらと思います。
本日は長時間に渡り、本当にありがとうございました。

受講者様からのご感想
(一部記載させていただきます)

事前に送った質問への回答もあり、バスケットを指導する技術以外の部分(日頃何を考えているか、どのような生活を送っているか)が見えて、とても楽しかった

これからコーチングを行なっていく上で非常に刺激になるものでした

ドリブルドライブモーションオフェンスを学ぶきっかけを与えていただきました。ありがとうございます。コーチング理念についても改めて考える機会をいただきました

結び

新型コロナウイルスの感染拡大により、各種大会や試合、指導者向け講習会の中止が発表された中でのオンライン講習会でしたが、同じ空間に集う事は出来ずとも、ネットワークを通じて、参加してくださった皆様の学びに対する情熱に触れる事が出来た講習会となりました。
しかしながら直接集う形(従来)の講習会では出来た事が、オンラインでは出来ないもどかしさもあり、運営側の立場として改めて、オンライン講習会開催の難しさを目の当たりにしました。
受講者の皆様にはご迷惑をおかけしてしまう場面もあったかと思いますが、今一度反省点等を見つめ直し、コロナ禍の今だからこそ出来る学びの場を皆様にご提供出来るよう、社員一同サービス向上に努めて参ります。
最後になりますが、この度はバスケットボールオンライン講習会にご参加くださいまして、誠にありがとうございました。
ティアンドエイチでは引き続き、指導者の方々に向けた様々なイベントを企画していきます。

講習会講師プロフィール

入野 貴幸

入野 貴幸
1982年生まれ。神奈川県出身。
東海大学付属諏訪高等学校男子バスケットボール部監督。 東海大学付属第三高校(現・東海大学付属諏訪高校)を卒業後、東海大学へ進学。当時低迷していた東海大学を4年次にはキャプテンとして牽引し関東大学リーグ一部昇格の立役者となった。大学卒業後は母校である東海大学付属第三高校男子バスケットボール部で指導者としてキャリアをスタートさせる。 就任5年目の2010年沖縄インターハイでは長野県史上初の3位入賞、2018年には東海インターハイ3位入賞、ウィンターカップベスト8の実績を残し、その理論的且つ情熱的な指導は全国から注目を集めている。

オンライン講習会の講師を務められた、東海大学付属諏訪高校バスケットボール部入野貴幸監督の指導DVDはこちらからご覧いただけます。

入野貴幸監督シリーズ第一弾!

東海大学付属諏訪高校 入野貴幸による 「効率的なファンダメンタル&ディフェンストレーニング」

全国大会で常に結果を残し続けている東海大学付属諏訪高校。チームを率いる若き知将 入野貴幸監督による、“効率的なファンダメンタルトレーニング”と“ディフェンストレーニング”が豊富に収録された本作は、カテゴリーを問わず全ての指導者に見ていただきたい珠玉の一作となっております。

入野貴幸監督シリーズ第二弾!

型を打ち破れ! 勝負を決めるセットオフェンスの作り方

マンツーマンディフェンスを崩すセットオフェンスの作り方というテーマのもと、東海大学付属諏訪高校が実際に全国大会で使用してきた選りすぐりのセットオフェンスを多数収録。「ディフェンスを崩す事が出来ず、思うように攻撃が展開出来ない」と悩みを抱える指導者に、是非ご覧いただきたい内容となっております。

入野貴幸監督シリーズ第三弾!

スペースを支配する! 入野貴幸監督によるゾーンディフェンスの構築法

シリーズ3作品目となるこちらのDVDでは、ゾーンディフェンスのトレーニングプログラムを収録しました。マンツーマンディフェンス推進のため、中学・ミニバスカテゴリーでゾーンディフェンスを経験していない選手たちにどのように指導すれば良いか等、現場の指導者ならではのポイントが収録されているため、日々の指導にすぐ活かせる内容となっております。

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