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國學院久我山高等学校 バスケットボール部
酒井 良幸監督 インタビュー<後編>

國學院久我山高校バスケットボール部酒井監督へのインタビュー後編では、バスケットボール部伝統のスタイルや、部のスローガン「堅守考攻」誕生のエピソードを聞かせていただいた。また、限られた練習環境の中で日々の練習をどのように組み立てているのか、酒井監督の練習に対する工夫や考え方なども語っていただいた。

取材日2018年3月23日

―ところで國學院久我山高校のスローガンに「堅守考攻」とありますが、堅守速攻ではなく、考えて攻めるとはどういった意味が含まれているのでしょうか?
僕が久我山に指導者として来た時に「堅守速攻」と書かれた物凄く古い横断幕が倉庫から出てきたんです。でもどう考えても久我山のバスケットスタイルって堅守速攻ではないんですよ。ロースコアの展開に持ち込むスタイルなので、速攻というよりかは遅い方なんです。その時に堅守はその通りなので残そうと思ったんですけど、速攻の部分をどう変えようかなと思った時に、頭を使うのが久我山のバスケットなので、造語ですけど考攻(こうこう)という言葉をスローガンに付け加えたんです。僕が入ってきて2~3年目くらいかな。
―先生が考えたスローガンだったんですね。
そうなんです。実は久我山高校ってスローガン自体がずっと無かったんですよ。僕が引っ張り出してきた横断幕も本当に古い物でしたし、僕が学生だった時も速攻のスタイルではなかったですからね。このスローガンはOBの方々からも「久我山らしくて良いじゃないか」と言っていただけました。しっかり堅く守って、レイアップとゴール下のシュートを増やす。久我山のスタイルはインサイドバスケットですので、相手よりも確率の高い攻撃をするという意味合いで「考える」という言葉を入れたんです。
―インサイドを起点に攻める攻撃スタイルは先生が学生の時からの伝統なんでしょうか?
そうですね、昔からこのスタイルです。どうして久我山はずっとこのスタイルなんだろうと、僕も監督になってから考えたんですよ。でも久我山でバスケットをやっていく中でその理由が分かりました。まず久我山では練習時間が限られていることと、フルコートが28メートル正規なのに24メートルしか取れないことが影響しているんじゃないかなと思います。24メートルだと速攻が出したくても出せないんです(笑)色んな要素があって、手塚先生もかなり試されたと思うんですけど、行きつくところはこのスタイルだったんだなって。他の学校はその当時、とにかく走って速攻の練習をしていたと聞きます。そんなチームを相手にして、しかも練習時間が彼らより少ない久我山が勝負をして勝つためには、逆にロースコアのゲームにしていくことが重要だったんです。そうすると確率論になるのでチャンスがこちらにも生まれる。手塚先生が最初にインターハイに出場した時、181㎝の選手がセンタープレイヤーだったそうです。その時も周りの学校には190㎝以上の選手が沢山いた中、久我山は181㎝の選手で勝てたという実績がありましたので、先生の中でもインサイドバスケットに対する確固たる自信があったんだと思います。もちろん身長は大きければ大きいだけ良いんですけど、「小さくても必ずインサイドプレーヤーを2人入れて、ハイローを展開するんだよ」ということは昔からずっと仰っていました。
―酒井先生が久我山に戻って来られてからも、そのスタイルは変わらなかったということですね。
変わらないですね。もちろんやり方は多少なりとも変えていますけれど、コンセプトは変えていません。基本的にはインサイドを攻めるというスタイルです。
―現代の高校バスケット界においてスリーポイントシューターの存在は大きな存在になってきていると思います。試合展開によっては点数が伸びてしまう場面も多いと思いますが、その中でもやはりインサイドを攻めるスタイルで戦われるのでしょうか?
そうですね、でも僕らは点数を伸ばさないように守ります。究極なのはウインターカップで準優勝をした時の試合ですね。大阪の大商学園高校との対戦でしたが、52-48のロースコアゲームだったんです。当時は20分ハーフでしたけれど全国一を争う試合であんなにもロースコアだったのは珍しいと思います。僕としては30点差をつけて勝つよりも、1点差でも良いから、極端なことを言うと10-11で勝利することが美学だなと考えているんです。過去には前半終わった時点で20点台にいかなかった試合もありました(笑)
―両チームとも前半で20点台にいかなかったんですか?
はい。見ている人は点数が入らないので面白くなかったと思いますけど(笑)でも僕らとしては十何点しか決められなかったとしても、「よく十点台に抑えた」って捉えるようにしています。もちろん得点を決められないところには問題がありますけどね。でもロースコアに持ち込めば最後まで勝負は分からない。点差が開かないということなので、どちらにもチャンスが生まれる訳です。ハイスコアだとその分点数が開いていきますから、我々としてはどれだけロースコアに抑えられるかがキーになりますね。
―お話を聞いていて、久我山高校の強さの理由が分かった気がします。話は変わりますが久我山高校は昔から文武両道のイメージがあります。練習時間も少ないと伺っておりますが、その中で結果を出し続けるためにはどのような練習をされているのでしょうか?
やっぱり役割分担が大事になってくると考えています。うちにはお蔭様で良い選手が来てくれています。その中で生徒たちがそれぞれに何をしたら良いのか、どんな役割を担っているのか、きちんと意図を持って取り組まないといけない。例えばオフェンスとディフェンスの練習に関して言えば、ディフェンスの練習は有限だと思っています。だからディフェンスのメニューは全てこなしますけれど、それに比べてオフェンスの練習は無限にあると思うんです。もちろん時間があれば、その分練習することが出来ますが、久我山では時間の制限がありピンポイントで練習していくしかない。それが出来たら次をやってみようという練習の作り方をしているので、そこが大切なことなのかなと思います。
―ひとつひとつの目標をクリアしていくということですね。
そうですね。だから「どういう練習をしたらいいのか?」とよく聞かれるんですけど、どういう練習というよりも、この選手がどんな選手になって欲しいかというビジョンがあれば、メニューはその都度その都度生まれてくると思うんです。色んなメニューをこなしていくことも大事ですけど、基本的にメニューはその環境で作っていく感じです。目の前にいる生徒たちにあったようなメニューを考えて、つなぎ合わせていくイメージですね。
―ちなみに一日何時間くらい練習は出来るんですか?
約2時間ですが、場所の制限がありまして、16時~17時まではハーフコートで練習します。久我山は一つのコートにつき中学高校の男女で4つのチームがいるので途中までは反面しか使えないことになっています。その後の17時~18時までは男子バスケットボール部がオールコートを使わせてもらうんです。平日の練習はそれで終わりですね。
―ちなみに部員数は何名いらっしゃるんですか?
部員は40人くらいですね。しかも1年生は週に2回7時間目まで授業があるんです。7時間目だと16時半くらいまで授業をするので1年生が練習に参加する時間が17時くらいになる。そうやって考えてみると練習時間は少ない方ですかね。結構大変なんですよ(笑)
―それは本当に厳しい環境ですね。
基本は18:30に正門を出なくてはいけないんです。試合期間の前になると延長して19時まで許されているんですけど中々厳しいですね。だけど以前、日本一の経験もある強豪校の先生も1時間ちょっとくらいの練習時間しかないと仰っていて、僕らよりも厳しい環境で頑張っている学校も沢山あるので、それは言い訳にはならないと思っています。自分たちがいる環境で、頑張らないといけないですし、逆に考えて練習時間が沢山あれば勝てるのか?と言ったら僕はそう思わない。僕らも土日は3時間くらい練習出来ますし、平日がそういう環境なだけで、如何にその中で努力し、どうすれば勝てるのかということを考えるとアイディアが生まれてくるんです。
また、僕は練習で生徒間の力の差はあまりつかないと思っています。もちろん全員が全力で取り組んでいることが大前提ですが、生徒が家に帰ってからどれだけ練習をしたくなるような気持ちにさせてあげられるかということが大切かなと。僕自身も高校時代に、誰に何を言われなくても家に帰ったら、ランニングして、ドリブルやシュートなどの練習をとにかくしていました。だからこそ僕は上手くなったと自分では思っています。学校での練習はもちろん、それ以外で誰よりも練習をしていましたので。
要は「これをやりなさい」とこちらから言うのではなくて、自分からやりたいと思わせるような指導というんですかね。先ほども言いましたが「なんのためにバスケットをやるのか」ということを生徒たちに確認しておけば「勝ちたいんだったら、今の練習じゃ正直足りていないから、自主練習とかが必要なんじゃないの?」と言わなくても生徒たち自身が「自主練習が必要だな」という発想になってくれる。そうなるとこちらが何かを言わなくても勝手に強くなるんですよ。よく「教えないことが指導」だと言いますけど、本当にその通りだと思います。僕がガミガミ言わなくても、ただベンチに座って見ているだけで選手たちが行動してくれたら、それは最高な指導だと思います。
また、自分たちには「何が必要なのか」ということを最初に抑えておくことが大切ですね。必要じゃないことを練習してもただ時間や努力が無駄になるだけなので。幸い久我山高校の場合はスポーツ推薦がありますので、ある程度の力を持っている生徒が来てくれています。僕はそのベースの上から教えていますけど、チームによっては「そんなことを言っても色々なことを教えなくてはいけない」という学校さんもあると思います。僕らもやっていないわけではなくて、長期休みにはファンダメンタルやハンドリングなどを徹底して練習したりします。だけどそれを通常の練習に組み込んでしまうと、本当に必要なことが出来なくなってしまうんです。自分たちにとって一番重要視する部分はどんなことなのかを整理することで取り組む内容は違ってくるのかなと。だから他の学校の選手が久我山の練習に参加しても僕らは僕らのチームに必要な練習をしているのであって、別のチームに当てはまるかと言われたらそれは全く別なのかなと思っています。
―4月に入り、新シーズンを迎えられた時期かと思いますが、具体的に酒井先生は一年間を通してどのようにチーム作りをされるのでしょうか?
まずは夏のインターハイ出場を目指してチーム作りをしていきます。インターハイに出場し続けるということが僕の中では一番の目標であり最低のラインです。その上で当然ウインターカップのメインコートや日本一を目指してやっています。僕としては日本一になるためには、毎年全国大会に出場しなければいけないと考えているんです。例えば日本一になれたとしてもその後、全く全国大会に出場していないのと、常に全国大会でベスト8に入っているのかではどちらの方が価値があるかというと、僕は後者の方が価値があると思っているんです。だから東京だったら常にインターハイに行けるチームにしなければいけない。そこに立てて、ようやく色んなことが見えてくると思うんです。そう考えるとやっぱりインターハイは外せないです。だから去年も関東大会予選7位でしたけれど、インターハイに出場出来ましたし、新人戦と関東大会はこけてしまうこともあるんですが、インターハイに出場することが絶対なので、それはある意味仕方がないかなと思っています。
―まずはインターハイに向けてチームを作っていく訳ですね。
そうですね。今は練習試合をとにかくこなしていきます。ここからがとにかく大事な時期になりますね。もちろん新人戦、関東も当然優勝することが目標ですけれど、まずはインターハイに出場しなければいけないと思っているので、インハイ予選に向けてチームを作っていきます。
―ちなみに夏のインターハイが終わった後は、どのようにチームを組み立てていくのでしょうか?
インターハイが終わってからは一回チームを壊してまたゼロから作り直します。3年生は進路がありますので、一度3年生を解散させて自主練習にするんです。進路が決まっている3年生は一緒に2年生の練習に入っても良いし自主練習しても良いことにしています。年明けには1、2年生の新人戦がありますので、その新人戦のための練習を優先する感じですね。3年生の進路が落ち着いたら9月の半ばくらいに合流し、ウインターカップに向けて一か月半くらい練習をします。だからインターハイが終わった時点で一回チームをばらすことになりますので、夏から秋にかけては普段出来ないファンダメンタルを鍛えるメニューだったり、走り込みをやったりします。そうやって3年生が9月の半ばくらいに合流してからはウインターカップに向けてやっていく感じになります。
―これから関東大会予選、インターハイ予選が始まりますね。意気込みを聞かせて下さい。
本当に東京都は手ごわい学校ばかりですよね。。。でも僕たちもインターハイに向けて日々努力していますので、負けるつもりは全くありません。でもそのあたりは試合を見てもらうしかないので(笑)とにかく頑張ります!
―今後の大会でのご活躍が楽しみです!本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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