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神奈川大学 男子バスケットボール部
幸嶋 謙二監督 インタビュー<後編>

―チームコンセプトの「Hard work beats Talent!」と「No Excuse」という言葉は決して格好をつけて言っているわけではありません。ハードワークが出来なければ戦えませんし、言い訳をしたらそこで終わりです。この二つは本当の意味で我々の生命線なのです―
静かにそう語る指揮官は、柔らかな笑顔の奥に誰よりも熱い闘志を潜ませていた。
関東大学リーグ3部への降格からわずか3年という短期間で、全国トップレベルの強者が揃う1部への昇格を掴み取った神奈川大学男子バスケットボール部。
トップ指導者&選手特集では、そんなチームを率いる指揮官幸嶋謙二監督のロングインタビューを前後編に分けてお届けする。
後編となる76回では、幸嶋監督が考える理想のチーム像や、バスケットアタックへの強いこだわり、指導者としての自身の役割や指導する上で常に意識していることなど、沢山の質問に答えていただいた。

取材日2019年3月16日

―続いて幸嶋監督の考えるバスケットボール観についてお伺いしていきます。まず、幸嶋監督が理想とされるチーム像を教えてください。
我々は学生スポーツというカテゴリーでバスケットをやらせていただいておりますので、勝った、負けたは別として、神奈川大学の試合を見てくれた方に「楽しかったな」とか「負けても次は頑張れよ」と言ってもらえるような、そんなバスケットをやりたいなと思っています。戦術面に関してはコーチによって考え方はそれぞれ違うと思いますし、どういう戦術が正しいということはないと思うのですが、やはり見ている人の心が動くというか、バスケットは楽しいなと感じていただける試合をやっていければ、学生スポーツ界も更に良くなるのではないかと考えています。今丁度、日本代表がそれを体現しているなと感じています。先月、ワールドカップ出場をかけた予選がありましたが、彼らが見ている人の心を掴んだ理由として、チーム全員が共通してハードワークを貫いた姿勢が大きかったと思うのです。チーム一丸となって一生懸命にプレイしている姿、そういうチームの試合は見ていてやはり心が動かされますよね。例えば日本代表ではなくても、ウインターカップは盛り上がります。それは高校生たちがひたむきにプレイするからだと思うのです。だから皆が会場まで試合を見に行くし、技術云々に関して言えば、それこそNBAやBリーグなど様々なリーグがありますけれど、我々が所属する学生スポーツというフィールドでは、とにかく一生懸命にプレイすれば、見ている人たちもバスケットを楽しんでくれると思っています。それが、私の理想というか、選手たちに本当に求めている部分ですね。
―神奈川大学の試合を見ていて心を動かされるのは幸嶋監督が理想とされる「一生懸命にプレイする」というチーム像があったからなのですね。続いて、戦術面についてもお聞きしたいと思います。先ほど戦術面に関してはコーチそれぞれの考えがあると仰っていましたが、幸嶋監督が目指す理想の戦術とはどのようなスタイルなのでしょうか?
学生スポーツは毎年選手が入れ替わるので色々と難しい面もありますが…目指しているバスケットは、オフェンスで言えばボールと人が常に動く、躍動感のあるバスケットをしたいと考えて戦術を練っています。ディフェンスに関して言えば、やはり40分間、しっかりと激しいディフェンスを展開出来るようにすることが理想ですね。細かい戦術に関して言えば、今年は小酒部や、外回りの動きが良い選手がいますので、中にスペースを作って、積極的にペイントアタックを仕掛けていこうかなと考えています。
―試合を見て思いましたが、神奈川大学はバスケットアタックへのこだわりが強いですよね。
それだけは絶対に譲れません。当たり前のことなのですが、例え選手のサイズがなくても、バスケットアタックは絶対にやらなくてはいけないことだと考えています。大切なことはその当たり前であるプレイに対して、どれだけ工夫が出来るかどうかだと思うのです。サイズがないからといって外だけでプレイをして終わってしまうと、それだけでは絶対に試合には勝てませんので。もちろん我々もスペースは広く取りますし、アウトサイドのシュートは戦術の重要部分ですが、その状況から相手のウィークポイントを見つけたりだとか、ズレを作りだしたりとかですね、そういう工夫をしているつもりです。
―今、お話しいただいた姿勢を貫くために「ハードワーク」を徹底しているのだなと、今回幸嶋監督の指導DVDを制作させていただいて強く感じました。
我々にとって「ハードワーク」は絶対に譲れない部分です。結局「背が低いから」と言い訳をしたらそこで終わってしまいます。チームコンセプトに掲げている「Hard work beats Talent!」と「No Excuse」という言葉は決して格好をつけて言っているわけではなくて、我々の本当の意味で生命線だと捉えています。「サイズがない」「練習環境が悪い」とかそんなこと今さら?と思うような言い訳をしていたら、そこで終わりですし、常にハードワークをしなければどことも戦えません。だから選手たちにも「そこだけは譲れない部分だよ」と伝えています。
でもそういうことはNBAコーチもみんな同じことを言っています。アメリカのコーチはハイスクールもカレッジも、NBAも全てのチームが「ハードワーク」を大切にしていると思います。
―NBAを始め、アメリカのコーチは情熱的な方が多い印象です。
そうですね、アメリカでは特にパッションを求められます。しかし、パッション、情熱という気持ちの部分は、分かっていても実際に表現出来るかどうか難しい部分だと思うのです。けれど、だからこそ、そのパッションを引き出すためにも、我々コーチが選手たちに、より良い環境を提供してあげることが大事です。やはり環境づくりが大切だなと日々感じています。一生懸命にプレイすることが当たり前なのだという環境です。体育館に来たら、バスケットに集中して一生懸命プレイし、常に「ハードワーク」をすることが大前提だという環境が出来上がれば、その環境が下の世代にも伝わっていくと思いますので、そういう環境を作ることがコーチの一番重要な役割だなと考えています。
―現在指導に携わっている方、またはこれから指導者を目指す方に大切にして欲しいことはありますか?
まず指導者の方々には選手に正しい情報やスキルを与えるために、常に勉強する姿勢を持って欲しいなと思います。また、選手たちにバスケットを楽しいと思いながらプレイさせられるような指導をしてあげて欲しいですね。
今の日本の現状としてバスケットボールは学校の部活動が盛んです。そのため中学、高校のバスケットボール部には沢山の生徒が入部し、多いところでは40人ほどの生徒を抱えているチームも存在していると思います。その状況で、指導者が一人一人の生徒のことを気にするなんて「無理だ」と諦めてしまったら、そこで終わってしまいます。そういう状況だからこそ、指導者は工夫をするべきなのかなと私は思うのです。例えば、体育館でゴールが2個しか使えなくても、練習時間が1時間しか確保出来なくても、指導者が常に勉強をしていれば「それなら今日の1時間はこういう練習をしよう」と考えられると思います。そういうちょっとした工夫が大切なのです。沢山の子供たちが笑顔で練習を終えることが出来るように、少しでも上手くなれるように、情報やスキルなどを選手に提供することが出来るかどうかが、我々指導者の毎回の勝負どころなのかなと思います。
―工夫することと、勉強する姿勢が大切ということですね。
そうですね。もちろん学校の先生方は日々の授業やテスト、生活指導などもあり、とても大変だと思います。しかし、大変だからこそちょっとした工夫をしていただきたいのです。今はインターネットで調べれば練習ドリルを知ることが出来ますし、今回作らせていただいた私のDVDなんかも見てもらって、部活動などで使っていただければ良いかなと思います。やはり、毎日同じメニューですと生徒たちも「またこれか」と感じますし、その内、予測で動いてしまう可能性もあります。僕らも練習メニューはウォーミングアップも含めて、毎回変えています。
―ウォーミングアップまで変えられるのですか?フレッシュな気分で取り組めるように工夫されているんですね。
その中で選手たちに求めるものは、やはりハードワークです。それと頭で考えて、スマートにやろうという姿勢を求めていきます。そうやって自分で考えて動いた結果、起こる失敗というのはその後必ずプラスになります。逆に先生に怒られないようにとか、あまり積極的にプレイしなかった時に犯したミスというのはマイナスにしかならないと思うのです。だからその辺の線引きというか、僕たちは「スタンダード」という言葉を使っているのですが、チームのスタンダードを高めて、練習していけば、多分そのチームは成長していけると思うんですよね。
偉そうなことばっかり言っていますけれど(笑)あくまで僕の理想論として聞いていただければと思います。
―いえいえ!それを実践されて3部から1部に昇格されていますし、神奈川大学の強さは幸嶋監督のご指導の賜物だと思います。
いや、本当に僕は大したことはやっていないのです。本当ですよ。コーチが「俺が勝たせたんだ」と思った時点でチームは勝てないと思いますし、選手がチームを勝たせてくれたのです。去年は工藤を始め4年生、小酒部がチームを勝たせてくれました。でも、本当にそういうものだと思います。我々コーチの仕事は先ほども言いましたように、環境を作り、維持するだけなのです。上からの命令で人は絶対に動きませんから。あとは学生たちが困っている時に助けてあげられるかどうかだけですね。学生が自分たちだけで頑張っていても壁にぶつかることがあります。「ああ、困っているな」と思った時に、我々コーチが助けてあげられるかどうかです。そして常に助けてあげるのではなくて、タイミングを見極めることも必要です。「これ以上は僕の出番かな」と思った時に自分の中にきちんとした答えを持っているか、常に指導者も準備をし続けることが大切だと思います。環境さえ整えば学生たちは勝手にやってくれる。そういうものです。
―それでは最後に今後の目標をお聞かせください
まず、現実的な目標としては関東リーグ1部に定着することが最大限の目標です。そして1部に定着することが出来れば、今度はその上の4チームに本気で挑戦出来るような強いチームを作っていきたいです。その時が来ると僕は本気で信じているので、それまでとにかく1部に定着をするということが大事だと思います。目標としては低いのかもしれないですけれども、夢を追っても仕方がありません。現実的には「リーグ戦で10勝以上を勝ち取ろう」と選手たちとも話しています。そしてシーズン最後にあるインカレ出場枠を勝ち取り「絶対にベスト4を狙おう」と言っています。
―インカレと言うと昨シーズンの青学との激戦を思い出しますね。
青学戦は本当にハードな試合でした…自分たちに出来る最高の準備をして臨んだのですが、最後の最後でやられてしまいました。あのラストのワンプレイはデザインしていた動きが上手く噛み合わず、松岡が機転を利かせてシュートを打ってくれたのです。あの試合、松岡のシュートタッチも良かったので「きた!」と思いましたが、本当に数センチの差だったなと感じました。しかし勝負というものはそういうものですし、松岡には「よく打ってくれた」と伝えました。ただ、全体ミーティングの時に工藤が泣きながら謝ったんです。「皆を勝たせられなくて申し訳なかった」と。あれを聞いて僕は本当に凄いなと感じましたね。
―学生最後の試合で、負けた直後にそれを言える選手は多くはないですよね。
工藤のその言葉や姿勢は神奈川大学の伝統として残していかなければならないことだと思います。今のチームにも、ちょっと気が抜けているなと感じた時に「あの時の工藤の言葉を思い出そうよ」と話すようにしていて、こういう経験や考え方を大事にしていけば、いずれ我々も伝統校になれると思うのです。まだ神奈川大学は新興のチームなので、伝統校と呼ばれるトップチームからはまだまだ相手にされないようなチームです。しかし、そういう経験や伝統を積み重ねていき、1部で活躍し続けていければ、トップチームの面々と勝負出来る日がくると考えています。
―神奈川大学の今後のご活躍が益々楽しみになりました。本日は長時間ありがとうございます。今シーズンも頑張ってください。応援しています。
ありがとうございます。頑張ります。

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