「試合に勝てる戦術について」テニスオンライン講習会レポート

講師 矢崎 篤 氏
東海大学菅生高等学校 テニス部監督

2020年7月18日(土)に東海大学菅生高等学校硬式テニス部矢崎篤監督による、オンライン講習会を開催致しました。
本講習会は「試合に勝てる戦術について」というテーマのもと、全国トップレベルのチームを指揮する矢崎監督に日ごろ指導している戦術知識や、その戦術を実践するための技術指導、練習方法などを語っていただきました。
ここではオンライン講習会の様子をレポートとしてお届け致します。

矢崎篤監督 冒頭メッセージ

私は東海大菅生高校に赴任してから現在まで、35年間という期間に渡り硬式テニス部で多くの選手たちを指導してきました。その指導歴の中で、2013年には選抜準優勝、2014年ではインターハイ準優勝という成績を残すことが出来ましたが、私は自身が見つけてきた指導ノウハウを、指導に悩んでいる方々に向けて発信していきたいと考えるようになりました。効率の良い練習方法を沢山の指導者に伝えたいし、高校で初めてラケットを握ったような選手でも、上を目指して成長出来るような環境を作りたいという気持ちから、今まで指導関連の書籍やDVDを作ったりしてきました。
そのような活動をさせていただいている中、今はコロナ禍ということもありますので、今回はオンラインという形で講習会をさせていただくことになりました。長時間になりますが、本日はどうぞ宜しくお願い致します。

1. 試合に勝てる戦術について 戦術Ⅰ

講習会前半では矢崎監督が考える「プレースタイルとゲームプラン」について、解説していただきました。
まずはオーソドックスな戦術や分析方法というテーマのもと①「自分を知る」②「相手の力量を見抜く」③「作戦を立てる」といった項目に分けて、それぞれの考え方や実践方法を紐解いていきます。

①「自分を知る」

矢崎監督

矢崎監督:試合が始まる前までに行なわなければならない「自分の力を分析する」ことについて説明します。得意なプレーや苦手なプレーなど、過信することなく、自分を卑下することなく、冷静に客観的に自分を分析することがテニスにおいては大切です。この自己分析が出来ていないと試合中に色々なことを見誤ってしまい、戦術的に失敗することがあるので、「自己分析」は試合が始まる前に整理しておかなければならない重要な要素になっています。

②「相手の力量を見抜く」

矢崎監督

矢崎監督:現在の高校生の大会では、試合前に相手の情報をリサーチすることは非常に難しくなっています。下手をすると試合前の3分間の練習時間で対戦相手がどんな選手なのか(特徴や弱点など)判断しなければなりません。
その中で相手の力を見抜こうとして、ウォーミングアップや最初の1、2ゲームを戦っているのかどうかが、とても大きな問題となってきます。ただ漠然と何も考えずに試合をして相手のプレーに振り回されたり、相手を過小評価していては、その試合の戦術や展開を組み立てられなくなるだけです。だからこそ、試合が始まってからは、冷静に相手の力量を見抜こうとする意識を持ち、いくつかのポイントを立てながら、相手を評価していくことが重要だと考えています。

ア、安定性
イ、攻撃力 守備力
ウ、間合い
エ、メンタル(性格)
オ、弱点(技術的な)

③「作戦を立てる」

矢崎監督

矢崎監督:テニスという競技は“嫌な奴ほど強い”と言われるように、「相手の弱点を攻める」戦い方が戦術の基本になると考えています。しかしそれだけを考えてプレーしていては自滅にも繋がってしまうので、「自分の得意な攻撃」の形をきちんと作り、その形で勝負を仕掛けていくことも非常に大切です。
もちろん、試合が流れていく中で自分が今リードしているのかリードされているのかを判断し、その都度、この二つの内、どちらをメインにして戦うのかということを考えながら、試合をしなければいけないわけです。どちらかだけに固執すると失敗することもありますので、この二つのバランスを取りながら上手い形で組み合わせることが作戦だと考えています。
また、試合中のポジショニングの重要性についてもここではご説明させていただきます。

質疑応答コーナー

指導しているチームに立ち上がりの悪い選手がいるのですが、試合前はどういう意識で臨ませたら良いでしょうか?
緊張を解すために私たちのチームで実践しているのは、自分から何かを出すということです。
自分の中から何かを出すと人間は緊張が解れたりするので、例えば試合前にトイレに行かせるとか、選手によっては涙を流すことで緊張が解れたりします。僕は試合前に緊張してそうな選手には一言二言、何かを喋らせるようにしています。また、立ち上がりが悪い子に関しては、試合の直前まで走らせたり激しめにウォーミングアップをさせます。試合の途中でガス欠になっても、最初にリードされてそのまま終わってしまうよりは良いと考えています(笑)
コロナウイルスの問題で練習時間だったり練習内容が変わっている現状で、矢崎監督はどういったことを考えながら部活動をされているのかお聞きしたいです。
こういう状況になって一番可哀そうなのは選手たちです。私たちも緊急事態宣言が出された時は、練習が全く出来ない状況が続きました。その中で私は、子どもたちのやりたいことをメインに練習メニューを考えるようにしていました。
私が思うに、テニス部に入ってくる多くの子はラリーが好きです。ですので、コートが1時間しか使えない時期は、ウォーミングアップ以外全ての時間をラリーにあてていました。
現在では、国体のチームを指導している時に考えた、短時間でも多人数の選手が打ち合える練習メニューを取り入れながら、子どもたちがテニスを楽しめるような練習メニューを組み込むようにしています。
試合中に負けている選手にアドバイスをしたいですが、どうアドバイスをしたら選手に分かりやすく伝わりますか?
まずは選手に今の状況を聞くようにしています。選手に自分から喋らせることが重要です。
先ほども申し上げたように人間は自分から何かを出すとスッキリし、緊張が解れて冷静になれるので、選手自身に状況を喋らせるようにしています。試合に関しては、監督の目で見た試合と本人が感じているものとはズレがある場合もありますし「今はどうだ?」と質問を投げかけて状況を喋らせます。その内容に対して、監督が意見を述べたり、アドバイスをした方が選手にとっては分かりやすいと思います。

2. 試合に勝てる戦術について 戦術Ⅱ

講習会後半では、戦術Ⅰでお話しいただいた技術をどのような練習で身につけるのかという、技術面での解説や、選手への効果的なアドバイス方法を①「基本的な練習からのスキルアップ」②「ラリー練習からのスキルアップ」という2つの項目に分けてご説明いただきました。

①「基本練習からのスキルアップ」

矢崎監督

矢崎監督:まずは球出し練習についてお話ししていきます。球出し練習では、同じ動作を繰り返し行なうことにより、ドリル感覚で様々なスキルを身につけていくことが出来ます。ここでは球出し練習を行なう際に、東海大菅生高校が意識している3つの目的と、具体的な練習方法をご説明していきます。

ア、作る…フォーム、感覚
イ、鍛える…俊敏性、持続力、パワー
ウ、壊す…バランス、姿勢、耐力(怪我予防)

②「ラリー練習からのスキルアップ」

矢崎監督

次はラリー練習からのスキルアップについてご説明していきます。
東海大菅生高校では、ラリー練習の時間をかなり長く取ります。新型コロナウイルスの感染が広がる前ですと、1日に4時間くらいの練習時間が取れましたので、その中の90分間をずっとラリー練習にあてていました。
長時間の時間を割くようになったのは、多くのテニスプレイヤーがトレーニングに対して苦手意識を持っていることが理由です。トレーニングが苦手ならばいっそのこと「ラリー練習でトレーニングも兼ねてしまおう」と考え、長時間のラリー練習を行なうことにしました。
ラリー練習の具体的な内容や大事なポイント、得られる効果などを6つの項目にまとめてみましたので、一つずつ紹介していきます。

ア、間合いと安定性
イ、ステップワーク
ウ、時間を創るショット
エ、エースを打つタイミング
オ、ライジングショット
カ、スタミナ(打つ持続力)

質疑応答コーナー

リターンの時に一番注意させていることは何ですか?練習の時のポイントも教えていただきたいです。
リターンの時は、相手のサーブに対してどの位置に立つかということが一番重要ですので、ポジションに注意をさせています。それから、リターンは思うようなスイングが出来ないことも多いので、一歩目のステップを強く意識させています。どうしても足より先にラケットが出てしまう選手がいますが、先に手が動いてしまうと間合いが無くなってしまい、ミスに繋がるような気がします。最初に足を動かすことで、体の態勢が出来てリターンが成功する可能性が高くなってきますし、ボールに振り遅れることもなくなると考えています。
バックハンドのスライスを上手く練習する方法を教えて下さい。

バックハンドのスライスを導入する際には「下がりながら打つ」ことが絶対に重要だと思います。向かっていって打とうとすると、ボールも向かってきますので、必然的に衝突が起きてしまいます。そうなると入射角と反射角の関係でボールは上に上がってしまうんです。なので自分とボールが一体になるくらい下がったところで、スライスをかけることを意識してみてください。そうするととスピンがかかりやすくなるので、打つタイミングも取れるようになります。向かっていくと打つ瞬間は一瞬しかないので非常に難しいです。
実際に私たちが行なっている練習方法をご紹介します。

「どうしても衝突が起きて、
ボールが上に上がってしまう」
東海大菅生高校テニス部が行なっている練習方法を
ご紹介いただきました
セカンドサーブの指導方法を教えて欲しいです。
セカンドサーブの練習方法を知りたいということは、恐らくこの質問者様はダブルフォルトが多いのかと思います。ですのでダブルフォルトをしないようにするために取り組んでいる練習方法をご紹介します。菅生高校ではサーブ練習の後、最後に“10本連続ノーミス上がり”という練習をしています。2本ずつボールを持たせ、セカンドサーブだけを打たせるんです。10本連続でノーミスだったら上がって良いと言うと、子どもたちはミスしないスピード、ミスしないフォームを見つけ出すので、自然にセカンドサーブは上手くなっていきます。また、ノーミスの子から上がって良いわけですから最初は緩いサーブで上がる子もいるんです。でも段々ライバル意識から「お前、入れにいってるだろ。もうちょっと早く打てよ~」というようなことをお互いに言い合うようになります。それによりどんどんセカンドサーブが上手くなっていくので、私は凄く良い練習だと思います。

講習会の終わりに

本日は長時間お付き合いいただきましてありがとうございます。私の方もオンライン講習会は初めてということで、拙いところもあり、お聞き苦しいところもあったかと思いますが、35年間指導してきたものを出来るだけ皆さんにお伝えして、子どもたちが楽しく、また上達が少しでも早く、そしてテニスを一生楽しめるようなスポーツとして取り組んでもらえればと思います。
私自身、テニスから色々なものを貰いました。テニスにより今の人生があると思っていますので、少しでもテニスに恩返しが出来ればという風に思っています。
また、是非こういった機会がありましたら皆さんとお話しできるととても嬉しく思います。
今日は本当に長い間ありがとうございました。

受講者様からのご感想
(一部記載させていただきます)

強豪校であっても基礎基本を大事にしている点がとても参考になりました。紹介してくださるドリルの説明も分かりやすくて、自分達でも実践出来るなと感じました。

試合の展開の中でどのようなアドバイスをされているのか伺うことができたこと、相手との「間合い」について、自分から何かを出す」ことのお話が、特になるほどと感じ勉強になりました。

質問に丁寧に答えていただき、ありがとうございました。とても勉強になり、充実した時間になりました。次回もあれば、是非参加したいと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大により、各種大会や試合、指導者向け講習会の中止が発表された中でのオンライン講習会でしたが、参加してくださった方々の熱意に触れ、学びの場や状況は変わろうとも、大切なことは“学ぼうとする強い気持ち”なのだと、改めて感じさせてもらえた講習会でした。
弊社としてもオンライン講習会の開催は今回が初めての試みでしたので、受講者様にご迷惑をおかけする部分もあったかと思いますが、反省点などを見直し、次回の開催までに改善していきたいと考えております。
この度はテニスオンライン講習会にご参加くださいまして、誠にありがとうございました。
ティアンドエイチでは引き続き、指導者の方々に向けた様々なイベントを企画していきます。

講習会講師プロフィール

矢崎 篤

矢崎 篤
1962年生まれ。東京都出身。
東海大学菅生高等学校テニス部監督。
1985年より東海大学菅生高等学校テニス部で指導者としてのキャリアをスタートさせる。就任当時は初心者の集団だったが、根気強く指導を続けることで現在では全国有数の強豪校へとチームを成長させた名将である。

最高成績:2013年度全国選抜大会 準優勝
2014年度インターハイ 準優勝

既成の概念にとらわれない斬新な指導方法は多くの指導者やテニスプレイヤーから注目を集めている。

オンライン講習会の講師を務められた、東海大菅生高校硬式テニス部矢崎篤監督の指導DVDはこちらからご覧いただけます。